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聖剣悪女  作者: 河田 真臣
第五章 愛欲の針
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89話 いちばん昏い夜 21

 ゴルジェイの体から、冷ややかな電子音が響き渡る。


「基準モードからサムライモードへ移行――危険。危険。ただちに半径三メートル外へ避難して下さい。繰り返します――」


 ゴルジェイの筋肉が内側から脈打つように震え始めると、皮膚が異様な音を立てながら捲れ上がって、筋繊維がむき出しになった。


 まるで体内の骨格すべてが組み替わっていくかのような音が響く中、ゴルジェイの顔が次第に内側へと捲れ、現れたのは見目麗しい青年の顔だった。

 短く刈り込まれた銀髪は内部に吸い込まれるように収納され、代わりに黒髪が舞い上がり、後頭部で整然とまとめられる。


 いつの間にか和装のキモノに袴姿へと変わり、僅か数秒で、ゴルジェイは眉目秀麗な美剣士の姿へと変貌を遂げた。


「サムライモード、全機能展開完了」


 スクリーンの向こうで女性たちが黄色い声を上げ、目を見張るその光景をカイも凝視せざるを得なかった。


「な、なんだそりゃ?!」

 カイの口から驚愕の言葉が漏れる。


 実況席のラルフも叫び声を上げる。

「な、な、なんですか! コレはあああ??」


「なにって、見たままじゃない。魔工機人よ。魔具の大権威、ビクトル・マッコーガンの最新モデルね」

 隣にいるレイが横目でラルフを見ながら言った。


「そ、そんなのアリなんですか?!」

「魔工機人が訓練を受けてはいけない規定なんてないでしょう?」


 ――第十八階層禁術 激剣。


 ゴルジェイの中から無機質な音声が響くと、手に雷が渦巻く剣を出現させた。


「十八階層?!」

 カイは咄嗟に距離を取った。

 聞いたこともない超上級魔法がこの訓練エリアだけでもポンポン出てくる。


「おいおい。そんなの聞いたら、田舎者はビビっちまうぜ」

 雷魔法の剣だと、平剣で弾いただけで感電する。

 さて、どうするか。


 その刹那、地を震わせる轟音と共に、奈落の巨人が廃屋を壊しながら突進して来た。

 巨体から巻き上がる鎖が、建物も魔物も一瞬で粉砕しながら迫っている。


 ゴルジェイは巨人を横目に、その鎖を凄まじい速度で弾き返す。

 カイに向き合ったまま、雷剣を振るい、巨人とカイの双方に対応する動きを瞬時に繰り出す。


「あの鎖、ただの鎖じゃねえな」

 巨人が体中に巻き付けている鎖には魔法の痕跡がある。


 カイも今の一瞬でそれを見極めていた。

 ゴルジェイが雷剣で弾いたのは正解だ。


「完璧な対処だな……高性能にも程があるだろ」

 カイも巨人の猛威を躱しつつ、冷笑を浮かべた。


 しかし困ったな。

 俺はサムライという戦士を知らぬ。


「要するに俺には、な~んにもわからんということか」

 混乱と興奮が入り混じる中で、カイは不敵に笑った。


 ☆☆☆


 カイはふうと息を吐くと、全身に黒魔法を漲らせ、鋭く意識を集中させていく。


 レベルは二。

 薄く膜を張るイメージ。 


 黒魔法を全身に。

 すべての攻撃を遮断する性質の黒魔法以外では感電する。


 黒魔法の膜が全身と剣先まで薄く行き渡り、あらゆる攻撃を弾く防御となる。

 全身を覆う暗黒のオーラがカイの体から立ちあがる。


 奈落の巨人を横に見ながら、カイはサムライと対峙した。

 ゴルジェイはカイの筋肉量と武器の形状、魔力の質と傾向から攻略方法を瞬時に計算し始めた。


 カイは集中力を極限にまで高めていく。

 五感を総動員して、野獣のような感覚になっていく。


 無意識にゆらゆらと、体を揺らしだした。

 上下左右、どこから攻撃が来ても対処できる状態になった証だ。


 今の俺は、狼だ。

 カイの双眸は、北原に棲まう餓狼の眼差しになっている。


 奈落の巨人の魔鎖が、対峙する二人の間に叩き落とされた。

 カイとゴルジェイは、同時に行動を開始する。


 魔鎖を躱すと同時に、カイは毒魔法を込めた投げナイフを巨人の目に向かって放つ。

 水と黒を一、地魔法を二で猛毒魔法ができる。


 巨人は視界を奪われた激痛で絶叫し、のけぞった。

 ゴルジェイはその隙を突き、長大に引き延ばした雷剣で巨人の左腕を叩き落とした。


 巨体が地響きを立てて倒れ込むと、二人の戦いが幕を開けた。


 カイとゴルジェイは互いに激しい剣戟を交わし合う。

 ゴルジェイの雷剣はその長さを変えながらカイの急所を正確に狙い、カイはそれを寸前で見切って躱す。


 雷が空を裂く音が響く中、カイは平剣でぬるりと雷剣を流し、片手剣を死角から放つ。

 カイの平剣と片手剣の恐ろしい波状攻撃が、凄まじい速度域へと達していく。


 ゴルジェイも即座に身を躱し、反撃の斬撃を繰り出す。

 二人は寸分違わぬ速度で斬り合い、躱し合い、その度に火花が散り、激しい閃光が周囲を照らした。


 ゴルジェイが寸前で躱す。躱して、斬る。斬る。躱す。斬る。躱す。躱す。

 カイは斬る。斬る。進む。更に斬る。斬る。斬られる。それでも前進して斬る。


「す、す、凄い! なんだ。これは! まったく目が追いつきません!!」

 アナが絶叫する中、カイは高揚した様子で叫んだ。


「ハハハハハハハハハアッ!! おうおう! 愉しいなあ!」

 凄まじい剣戟の最中、血走った目でカイが叫んだ。


 斬る。斬られる。躱せない。前に出る。斬られる。受け流す。突く。通った!


 斬り合いが頂点に達し、カイの刺突がついにゴルジェイの胸を貫いた。

 ゴルジェイはよろめきながら、再計算を始める。


「遅え!!」

 カイが叫びざま、平剣をゴルジェイの背中に叩きつける。


 電撃の火花を撒き散らしながら、ゴルジェイは地面に叩きつけられ、横転した。


「強えのは俺だアアア!!!」

 カイがゴルジェイに向かって吠えた。


「速度でカイ・クルマラが上回りましたああ! 完全狂気の超高速剣戟イイ!!」


 アナとラルフがその凄まじさを絶叫中継する。

 実況席が歓声に包まれ、狂気に染まったカイはなおも戦場を睨み、次の一撃の準備に入っていた。

 お読みいただきありがとうございました。

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