60話 真層時代 1
あれから、どれくらい経った?
百年か二百年は経過したのかもしれないな。
どちらにせよ、僕は目覚めた。
あんな無理ゲーをクリアする奴がいるなんて……ちょっと信じられない。
巨獣除けに狭い海底ダンジョンと抜け穴を用意して、神殿全域は聖域にしていたはずだ。
邪悪な者は排除されるだろう。
しかし、問題は魔法でも物理でもどうにもできない神殿の扉をどうやって開けるかだ。
そんなの生前の僕でも解けやしない。
解けない問題を提起した。我ながら意地が悪いと思う。
なにせ、魔物が入れない聖域に、魔物の目を持ってしか解けない暗号を組み込んでいるのだから。
知っていれば、解錠スキルのある魔物を召喚する――のも難しいな。聖域だし。
しかも、それには特殊魔具がいる。
いくつか用意したが、それを見付けるのも容易なことではない。
つまり、解けないということだ。
無理なんだ。
でも、解いた者がいる。
どうやったんだろう?
僕みたいな異世界から転生してきた人間なのかな?
それより、世界情勢を知るのが怖い。
必死になって、ここまで辿り着いたということは、おそらく世界は荒れている。
魔王の遺物が必要な世界になっている可能性が高いだろう。
禁術レベルはどれくらいに設定されているのだろう。
僕らの時代みたいに十五前後なら終わってる。
無法地帯といっていい。
生活魔法を超えたら、禁術指定受ける世界でありますように!
禁術バンバン撃ちだしたら、もうヤバいもんなあ。
☆☆☆
禁術階層の数字は低く設定されてはいると気がついたのは、僕のレベルが二十階層後半を超えたくらいの頃だったっけ。
三十階層は、実質レベル九十九のカンスト状態だといえる。
まあ、そこら辺のレベルに到達できる者ならピンとくるんだが。
これ以上はヤバいな、と。
つまり、世界の環境やら生き物やら、その他諸々が、ギリギリ耐えうる数値であることは、僕らの階層レベルにならないと実際問題、わからない。
それ以上の禁忌に踏み込んだ者たち――僕ら魔王階層に至った者たちには別階層が待っているのだから。
あれから第三十階層禁術を超えて、真層階にまで到達した者はいるのだろうか?
愛用魔具に魔力特性と、魂の一部コピーが残るのは……なんというか、この世界のエラーとしか思えない。
まあ、そんなこと言い出したら――真層階に到達してチート無双できたんだろ?
だったら、後の世で助けになれって、神さまだか世界の調和とかそういうのが、決めたのかもしれない。
大迷惑だ。
チートとかさあ。
もうそういうのって、ゲーム性ないじゃない。
ワクワク、ドキドキが欲しいわけ。
僕らゲーマーは。
チートとか、もう作業ですよ。
自己満足です。
違いますか?
なにが楽しいわけ?
もうそうなったらねえ。
デバッグ作業と変わんないわけですよ。
だって、自分がバグなんだもん。
魔王なんてバグですよ。バグ。
豪傑女帝だっけ?
あのオバサン、また適当なダンジョンで冒険者を待ち構えていたりしないだろうな。
なんで魔王はあんなに、見付けられたいのか。
自己顕示欲が強いのか。
わざと目立つトコロに身を晒したり、あるいは国宝かなにかの指定を受けて展示されたりしてる魔王の遺物があるはずだ。絶対ある。
奴らは総じて皆、変態なのだ。
大体、カンストしてから、さらに深層レベルにまで潜ってやろうというのがどうかしてる。
頭がおかしいのだ。変人なのだ。ド変態なのだ!
ちくしょう!
おかしい中に、僕もしっかり入っているよ!
考えられない。
魔王が、後の世の助けになんてなるわけがない。
世界を引っかき回すだけだ。
なんでわかんないかな。
もう本当、放っといてほしい。
悪人が来たらどうするんだよ。
生前だったら、どうとでもなるんだけど……
よし!
こうなったら、悪人が来たら洗脳しよう!
そして、独りでも戦い続けるのだ!
……嫌だアアアアア!!
絶対、いやあああああああああ!!
なんで死んでまで戦うハメになっているんだよ!
おかしいだろ。こんなの。
呪いの魔具じゃん!
自ら呪いの魔具と化してんじゃああああん!
横暴だ。ブラック異世界だ。
一時代にすぎないかもしれないけどさあ。
救ったじゃん。世界。
残業レベルがカンストしてっから!
無理だから!
……なんで魂の一部を封じられて、また起こされてんの?
ねえ。なんで?
意味わかんねえ。
やる気でねえ。
もう無理。
絶対無理。
働かない。
スト。
独りストライキ決行でござーる。
はい。決まり!
決まったから!
☆☆☆
「うわ。綺麗ッスねえ」
若い女性の声が聞こえる。
これは――美人だな。
……視覚解放。
うわっ!
まぶしい!
でも、無理だから。
働かないから。
決めたから。
「すごーい! 金ピカッスよ。ほら、希少魔石がこんなに!」
「ほう。豪勢なモンじゃなあ」
あれ?
なんか、悪人というよりヤンキーのカップルみたいなのが来たな。
え?
サムライ?
お侍さん?
待て。
この世界、元いた世界とは結構なズレがあるからわからないぞ。
この国だって、スペインっぽいんだけど気候なんかはめちゃくちゃだったから。
「ちょっと、かぶってみてもイイッスかね?」
「馬鹿。止めとけ! 呪われたらどうする!」
鋭い。
さすが、ここまで到達したサムライは目端が利く。
「ねえねえ」
オギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
なんだあああああ、この美人はあああああああああ!!
な、何頭身あるんだ。この人。
顔小さ!
メイクなんてしてないよな?
スッピンにこのクオリティとか、元いた世界の美人でも、まるで勝負にならないんだが!
根本的にレベルが違う。
なんだコレ?
人間なのか?
なんか、尾ヒレがピコピコと……え? 尾ヒレ?
「えええ。かぶっちゃダメッスかあ?」
「止めとけって」
人魚。
人魚かああ!
サムライと人魚。
どういう人選なんだよ。
これは、パーティ編成を見てみたい。
ああ。くそ。ゲーマーでなければ、僕がゲーマーでなければああああ!
☆☆☆
半リザードマンが深海の羅針盤を持っている。
ああ。それか。半獣化で解錠したのか。
それは思いつかなかった。
というより、よく意識保ったままでいられるな。
他には――意識を失っている虎人。おそらく解錠した際の聖属性魔法で気を失ったか。
てコトは悪人だな。
最後の最後に、悪人除けしといて正解だった。
後は、半魚人。水鳥系の魔人。半蛇のナーガ族。
あれは……巫女さん?
両手が羽化しているが……
あれ?
他に、巫女さん妖精が二人もいる。
巫女さん多いな。
どういうパーティなんだ。コレは。
え? パンダ?
パンダがいるぞ。
はあああああああああ!!
モフモフ。
モフモフしたあああああい!!
……いけない。これはいかん。久々のカワイイ生き物を間近に見て興奮してしまった。
遺物としてはビギナーだから、どうしたらいいんだろう。
やはり、所有者を特定して契約を結ぶべきなんだろうな。
そうなると、最初に扉を開けたリザードマン……はレベル的に低いか。
イケおじサムライは――う~ん……ゲームとかだとデフォだよなあ。
絶対、主人公のビジュアルだもん。
レベルは……あ。高い。凄い。コレ、遺物持ったら魔王階層まで到達するな。
でも、この人、凄い剣をすでに持ってるじゃんか。
神具に近いだろ。コレは。
僕は要るのか?
この上で、魔王の遺物持ったら、わけわからんレベルになるぞ。
ええっと……また、チートか。
またですか。神さま。
もういい。もういいから、そういうの。
またデバッグ作業とか絶対やんないから。マジで!
だって、それで失敗した奴とかいたし!
エラい目にも遭ったし!!
……ま。人魚さんだな。
人魚さんがいい。
もう最初から決めてたまである。
そりゃそうでしょう。
ああいう清楚で可憐で、無敵ルックス無双ならプレイしてみたい。
よおし。
王冠形態だけど、ティアラに形状変化してちゃおうかな。
いや、コレ。
マジ、無敵じゃね?
ただでさえ、ルックス最高なのに。
ヘイヘイ!
楽しくなってきたぜ!!
「おい。なんか聞こえないか?」
お侍さんが耳を澄ませている。
――お姉さんがいい。
「は? なに? なんだって?」
――人魚さん、ご指名でお願いします。
僕はお侍さんにオーダーした。
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