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聖剣悪女  作者: 河田 真臣
第二章 暴食の槍
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28話 竜門 9

 ガスパールの体が震えだし、目に狂気の光が宿る。

 追い詰められたガスパールは最後の手段に出る決意を固めた。


 レイの足下に這いつくばったガスパールの口から低い唸り声が漏れ出し、何か古代の言葉を唱え始める。

 その瞬間、彼の周囲の空間が歪み、恐るべきエネルギーが放出された。


 レイはその異様な気配を感じ取り、目を見開いた。

 彼女の体の中を冷たい感覚が走り抜け、胸の奥で不安が膨れ上がる。


 ガスパールが発動しようとしている魔法は、ただ事ではないと直感的に悟った。

 レイがガスパールに止めを刺そうとした瞬間、目の前に巨大な裂け目が出現した。


竜門(ドラゴンゲート)!」

 ガスパールが叫んで嗤う。


 それはまるで空間そのものが引き裂かれたかのような暗黒の門だった。

 レイの力が緩んだ隙を見逃さず、ガスパールは素早く起ち上がって距離を取る。


 異界の門から、異界の風が吹き出し、周囲の空気が一瞬にして冷え込んできた。

 異次元の空間が現れ、そこから何か巨大なものが現れようとしていた。


 洗脳が解けた密林の猛獣たちは我に返って、一斉に逃げ出し始めた。

 密林の木々が怯えたように震えだし、鳥は我先にと飛び立っていく。


 雷鳴が轟き、暗雲が渦を巻くように集まり、空を覆う。

 大地が震え、空気が張り詰めたような感覚が広がっていく。


 冒険者たちは呆然と空を見上げて、異界の門を睨んだ。

 レイはその場に立ち尽くし、目の前で広がる異様な光景を見つめた。


 彼女の心には、この世の終わりを予感させる恐怖がよぎっていた。


 ☆☆☆


「もういい。滅びてしまえ。すべてを滅ぼし、また文明を築けばいい。これまでの魔王がやってきたように――」


 門の向こう側から、巨大な影がゆっくりと姿を現した。


 それは一匹の巨竜だった。

 その鱗は黒く光り、瞳には冷たい青白い光が宿っている。


 巨竜の翼は空を覆い隠し、口からは青い炎が漏れ出していた。

 ドラゴンゲートから解き放たれたこの巨竜は、まるで世界そのものを飲み込むかのような存在感を放っている。


 レイの手が震え、心臓の鼓動が耳に響く。

 目の前の巨竜が放つ圧倒的な力に、彼女は戦慄を覚えていた。


 もしこの巨竜が暴れだしたら、世界はどうなってしまうのか。

 レイはその恐ろしい未来を想像し、息を呑んだ。


 ガスパールは狂気の笑みを浮かべて、勝ち誇るように両手を広げてみせた。

 巨竜は混沌をもたらし、やがて世界は滅びるだろう。


「平伏せ。下等生物ども。新たな魔王の誕生だ」


「文明世界の終わり――」

 レイはその言葉を呟きながら、心の中で覚悟を決めた。


 レイは手の中に魔力を集中させ、最後の戦いに備える。

 巨竜との対峙は避けられない。

 生き残るためには、全ての力を振り絞らなければならない。


 ☆☆☆


 ガスパールは巨竜を従えようとその前に立ち、狂気に満ちた笑みを浮かべながら叫んだ。

「我が僕となれ、巨竜よ! この世界を共に支配しようではないか!」


 しかし、巨竜はその言葉に応じることなく、冷たい青白い瞳でガスパールを見下ろしていた。

 彼の狂った命令など意に介さないかのように、巨竜は大きな口をゆっくりと開け、その内部に青い炎が渦巻いているのが見える。


「なんだ……? おい! 従え――従え! 俺は魔王! ガスパール様だぞ!」

 ガスパールは動揺を隠せず、必死に命令を続けた。

 しかし、彼の声は次第に恐怖で震え始めた。


 ガスパールは狂気に染まった目を輝かせながら、巨竜に向かって手を伸ばした。

 その掌から黒いエネルギーの糸が伸び、巨竜を操ろうと絡みつく。


「従え!! お前の主人は俺だ!!」

 ガスパールの声が震え、巨竜の体全体が魔力に包まれていく。


「そうだ! いいぞ! お前は俺の――」

 しかし、ガスパールのその言葉が終わるか終わらないかのうちに、巨竜の口が大きく開かれた。

 次の瞬間、ガスパールの目の前が真っ暗になり、彼の体が巨竜の巨大な口の中に吸い込まれていった。


「いや……やめろ! 俺は――」

 ガスパールの絶叫が響くが、その声もすぐに掻き消される。


 巨竜の顎が勢いよく閉じられ、彼の存在は一瞬にして飲み込まれてしまった。

 巨竜は無慈悲にガスパールを喰べ、まるで小さな虫を噛み砕くように口を動かしていた。


 ☆☆☆


 その光景を見ていたレイの心は、戦慄と驚愕で凍りついた。


 ガスパールほどの力を持つ者が、一瞬にして巨竜に喰われてしまうとは想像もしていなかった。

 だが、その次の瞬間、彼女の目の前で信じられない光景が繰り広げられた。


 ガスパールを喰べた巨竜の背後から、奈落の巨人がゆっくりと姿を現したのである。

 その巨体は密林を揺らし、足音が大地を震わせる。


 巨人の目は地獄の炎で真っ赤に輝いていた。

 巨竜に向けられたその視線には、戦いを挑む意志が明確に見て取れた。


 巨竜もまた、奈落の巨人の存在に気付き、唸り声を上げて応えた。

 二つの巨大な存在が互いに向かい合い、その間に恐ろしい緊張感が漂う。

 巨竜は口から青い炎を噴き出し、巨人はその炎を受け流すように手を振り上げた。


 次の瞬間、奈落の巨人が一歩前に踏み出し、その巨大な拳を振り下ろした。

 大地が震え、空気が揺らぐ。


 巨竜は翼を広げて空中に飛び上がり、その拳をかわそうとしたが、巨人の鎖が巨竜の胴体に絡みついて離れない。

 巨竜が地面に叩きつけられた瞬間、衝撃波が広がり、凄まじい土埃が巻き上がった。


 レイは息を飲みながら、その壮絶な戦いを見守っていた。

 巨竜と奈落の巨人の間に広がる戦場は、まるで神々の闘いが繰り広げられているかのようだった。

 どちらが勝利するか、それは誰にも予測できるものではなかった。

 お読みいただきありがとうございました。

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