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聖剣悪女  作者: 河田 真臣
第二章 暴食の槍
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26話 竜門 7

 太古の昔、世界がまだ創られたばかりの頃、天界と地上を統べる神々は平和と繁栄を守るために、さまざまな力を持っていた。


 その中でも、特に強大な力を持つ神が存在した。

 彼の名はゼフィーロ。

 雷と風の神であり、天の王と呼ばれていた。


 ある日、ゼフィーロは大地を巡る旅の途中で、深き森の中で一匹の竜に出会った。


 その竜はアルドラと名乗り、全ての竜の祖であり、最も古い竜であった。

 アルドラの鱗は青く輝き、その目には知恵と歳月が刻まれていた。


 ゼフィーロはその威厳に圧倒されつつも、竜を飼い慣らそうと試みた。

 しかし、アルドラは一言も発さず、ただじっとゼフィーロを見つめていた。


 しばらくの沈黙の後、アルドラは深い息を吸い込み、その口から「竜の息吹」を吐き出した。

 その息吹は世界を包む嵐のようであり、雷鳴のような轟音と共に天を裂き、大地を揺るがした。

 ゼフィーロはその圧倒的な力に驚愕し、一瞬で後退した。


「竜の息吹」の威力は神々の力をも超えるものであり、その一撃で山々を崩し、海を蒸発させるほどの破壊力を持っていた。

 竜たちの伝説によれば、この息吹はアルドラが古代の星々の力を取り込み、永劫の時を経て鍛え上げたものであり、最も純粋で強力な魔力の結晶とされていた。


 この出来事以降、ゼフィーロは「竜の息吹」の力を恐れ、他の神々にもその威力について語った。

 神々は「竜の息吹」に対抗するための術を学び、もしもの時に備えたが、誰もアルドラの怒りを買うことは避けたいと考えていた。


 こうして、「竜の息吹」は神々ですら畏れ敬う伝説の力として語り継がれ、竜たちの最も強力な技として、後世にまでその名を残すこととなった。


 それは破壊と再生の力を象徴し、全てを一新する力として、古の伝説の中に深く刻まれている。


 ☆☆☆


 ガスパールの口から解き放たれたのは、まさに圧倒的な魔力の爆発であった。


 魔力の奔流が放たれると、空気が裂け、光と熱が全てを呑み込もうと襲いかかる。

 空気を切り裂くような叫び声が響き、地面が揺れ動いた。


 次の瞬間、大地が割れ、竜化したレイがその裂け目から現れた。

 レイの左瞳は黄金に輝き、丸まって収まっていた額の白角は、天を突くようにそびえ立っている。

 竜腕の鋭い爪が、地面を掻きながら、まるで盾のようにガスパールとマテオたちの間に立ちはだかった。


 ☆☆☆


 ガスパールの口から放たれる竜の息吹は、圧倒的な魔力の奔流となって空間を切り裂いた。


 轟音が空気を振動させ、周囲の木々はその衝撃で傾き、地面には無数の亀裂が走った。

 魔力の爆発が炸裂し、あらゆるものを飲み込み、焼き尽くすかのように広がっていく。


 レイが竜の息吹を真正面から受け止めると、世界は一瞬凍りついたかのような静寂に包まれた。


 次の瞬間、衝撃がレイの全身を襲う。

 竜の息吹はまるで天を裂く雷鳴の如く、圧倒的な魔力が波動となって押し寄せてきた。


 圧倒的な力が左腕を震わせ、足元の地面が砕け、レイの周囲に爆風が巻き起こった。

 レイの背後にあった巨木は、風圧で折れ曲がり、宙に舞い上がった砂や小石が暴風に乗って散らばっていく。


「ぐうううううううああああああああ!!」


 地面が崩れ、土埃が舞い上がる中、レイの左手は強烈な魔力の爆発を正面から受け止めていた。


 竜鱗に覆われた左腕が逆立ち、仲間の前に置かれたレイの竜手は、まるで巨大な波を打ち消す堤防のように立ちはだかっていた。


 圧倒的な魔力に押しつぶされそうになり、レイの体が激しく震えだす。

 膝が地面に沈み込み、足元の土が割れ、亀裂が広がっていく。

 全身が圧迫されるような感覚に包まれ、息をするのも苦しいほどの重圧がレイに押し寄せてきた。


「ぐはははは! 自惚れやがって! 神々でさえ怖じ気づく竜の息吹だぞ! 受け止められる生き物など地上には存在しない!」


 レイの体内に流れる竜の血が彼女を支え、その黄金の左瞳がさらに輝きを増していく。

 竜の息吹は、まるで無尽蔵の魔力の奔流のように押し寄せ、一瞬でも気を抜けば、瞬時にレイと仲間たちを呑み込むだろう。


 額の白角が、痛みを伴いながら銀色に輝き始めた。

 その輝きはまるで稲妻のように激しく明滅すると、次第に電流を帯びていく。

 光が角の表面を這い回り、火花が散るように飛び交った。

 

 凄まじい魔力が左腕を呑み込もうとしていた。

 空気がビリビリと震え、地面がうねるように揺れ動いた。


 意識が徐々に薄れそうになる中で、レイは必死に左手を支え続けた。

 銀色に輝く角が発する電流が、彼女の体に新たな力を流し込むように感じられた。


 レイは奥歯を噛み締め、その一瞬の意志の力で全身を引き締めた。

 左手を激しく痙攣させ、歯を食いしばり、レイは竜の息吹を押し止める。


 銀色の光がさらに強くなり、雷鳴のような音が角から響き渡った。

 右瞳が赤く輝き、滞留させていた魔力の流れを徐々に反転させていく。


 電流が弾け、全身を駆け巡ると、両目と耳や鼻から血が噴き出した。

 竜腕に火がついて、巨大な竜の手に炎が上がる。


 レイの左手が、まるで炎の盾のように、膨大な魔力の奔流を受け止め、弾き返そうと力を込める。

 その瞬間、レイの体から逆巻く魔力が発せられ、圧倒的な炎が反転して逆流し始めた。


「うおおおおああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 竜の息吹は渦を巻き、奔走する。

 密林の木々が次々と薙ぎ倒され、大地に深い傷跡が刻まれていく。

 銀色の光が空間を裂き、轟音が大地を揺るがせるなか、レイは渾身の力を持って左手を振り抜いた。


「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 レイは、竜の息吹をガスパールの方に弾き返した。

 傾いていた木々は根元から引き裂かれ、ひび割れていた地面は抉られて吹き飛ばされていく。

 竜の鱗が煌めき、左右の瞳と角が一層輝きを増して、バチバチを音を発てて火花を散らした。


「そッ!!……そんなバカなッ!? 竜の息吹が――ッ!!」


 弾き返された魔力爆発は、ガスパールの方へ猛烈な速度で戻ってきた。

 ガスパールの目が驚愕に見開かれる。

 反撃された炎の奔流はそのままガスパールに襲いかかり、身を守る間もなく直撃した。


 ガスパールは吹き飛ばされ、背後の密林の中へと弾き飛ばされる。

 燃え盛る炎の塊と化したガスパールは、密林の木々を薙ぎ倒しながら後方へと飛んでいく。


 爆発的な衝撃音が大地を揺るがし、倒された木々が次々と炎に包まれる。

 爆炎が立ち昇り、あたり一帯が真っ赤な炎で染まっていった。

 竜の息吹に呑まれたガスパールの叫び声が響き渡り、圧倒的な衝撃で後方に弾け飛ぶ。


「ぐぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 ガスパールの怒りと苦痛の咆哮が密林の中に響き渡る。


 レイは無言で立ち尽くし、竜の左手を下ろした。

 彼女の額の白い角は燦然と輝き、両目は冷たく輝いていた。


 左腕には、まだ炎が残って燃えている。

 密林はその圧倒的な力の前に、ただ焼け落ち、静寂を取り戻しつつあった。

 お読みいただきありがとうございました。

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