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聖剣悪女  作者: 河田 真臣
第二章 暴食の槍
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25話 竜門 6

 ガスパールの竜人の姿は一層恐ろしく、巨大な翼を広げ、鋭い爪を振るう。

 その目は狂気に輝き、まるで周囲の全てを滅ぼそうとしているかのようだった。

 その前で、マテオと冒険者たちは必死に戦いを繰り広げていた。


 マテオは暴食の槍を握りしめ、ガスパールの攻撃を巧みにかわしながら反撃していた。

 槍の力を僅かながらでも引き出しているのか、どうにかガスパールと打ち合うことは可能であった。


 しかし、ガスパールは少々の攻撃では怯みもしない。

 こちらが渾身の攻撃を仕掛けても、すぐに猛烈な反撃を繰り出してくる。


 マテオは汗だくになりながらも、笑みを浮かべて戦い続けた。

 その姿は勇敢でありながらも、どこか無謀さを感じさせるものだった。


 冒険者たちもそれぞれの役割を果たし、ガスパールに対抗していた。

 盾役の冒険者たちは前線でガスパールの攻撃を受け止め、引きつけることで、マテオの攻撃の隙を作り出す。


 彼らの盾に打ち込まれる爪の音が鋭く響き、そのたびに彼らの体が揺れ、数人は必ず吹き飛ばされた。

 魔法使いは地面を泥に変え、ガスパールの炎を防ぎ、サポートに徹していた。

 誰も退くことなく、何度倒されても、ガスパールに立ち向かい続けていた。


 セリナはその後方で冷静に状況を見極めながら、回復魔法を繰り出していた。

 彼女の手から放たれる淡い水の光が、傷ついた仲間たちに触れるたびに、傷が癒えていく。


 冒険者が吹き飛ばされてくると、セリナはすかさず回復魔法を送り込み命をつなぎとめた。

 彼女の迅速な対応が、戦いを続けるための力を与えていた。


 地獄オオグモのバキーは、仰向けにひっくり返って足をピクピク痙攣させたまま動けない。

 セリナの回復魔法で裂かれた腹は閉じていたが、とても戦える状態ではない。


 ドギーは数本の足を失いながらも、なんとかギリギリの距離から糸を吐き出して、ガスパールの出足を絡め取っていた。


「パイセン!  下がって!」


 セリナが叫びながらマテオに合図を送ると、彼は素早く距離を取った。

 次の瞬間、ガスパールの尾が鋭く振るわれ、マテオのいた場所の地面を深くえぐる。

 マテオは薄氷の上を滑るように身を翻し、再びガスパールに向かって突進して行った。


 ☆☆☆


「褒めてやるよ。虫けらども。俺に、この技まで出させるんだからな――」

 ガスパールの気配が変わると、マテオたちは一旦、後退する。


 ガスパールの体が大きく膨れ上がり始めた。

 その筋肉が波打ち、骨がきしむ音が聞こえてくる。


 ガスパールの胸部が膨張し、彼の鱗は金色の輝きを放ち始めた。

 双眸が燃え立つように光り、口元からは白い煙が漏れ出していた。

 周囲の空気が異様に重くなり、その場にいた全員が自然と息を呑んだ。


「……そんな、そんなバカな―― あれは、神話の……」

 冒険者の一人が声を震わせながら叫んだ。

 その言葉を聞いた仲間たちの顔が恐怖に染まる。


「竜最大の――竜の息吹(ドラゴンブレス)か」

 マテオが言った。


 神話の中にしか存在しないと思っていた、伝説の力が目の前で現実のものになろうとしていたのだ。


「終わった――そもそも、竜人に勝てる道理なんかなかったんだ……」

 冒険者たちが、力尽きたように膝をついてしゃがみ込む。


「起て! レイが戻ってくるまで耐えるんだ!」

 マテオが歯を食いしばりながら叫び、目はガスパールから一瞬も離せないでいた。


 暴食の槍を握る手が自然と強くなる。

 マテオの経験と本能が、今この場にいる全ての者が、ガスパールが放つであろうその一撃に耐えられないことを理解していた。


「なにそれ?  炎でも吐くんスか?」

 セリアが首を傾げながら、無邪気に問いかけた。

 彼女の軽い態度は、その場の張り詰めた空気とは衝撃的に対照的だった。


 ☆☆☆


 ガスパールの体がますます膨らんでいく。

 まるで嵐の前の静けさのように、空気が静まり返り、すべての音が遠ざかっていくような錯覚に陥る。

 次の瞬間、何が起こるのか誰もが予想できず、ただ目を見張っていた。


 マテオと冒険者たちは、巨大な竜人ガスパールの前に立ちはだかり、息を詰めて次の瞬間を待っていた。

 ガスパールの体が徐々に膨らんでいき、まるで巨大な風船が膨らむようにその胸が膨張していく。

 その姿は圧倒的であり、まるで神話の中の竜そのものであった。

 ガスパールの黄金の瞳が強く輝き、口から漏れ出る炎の煌めきが、辺りを灼熱の空気で満たしていく。


「これが……竜の息吹――」


 マテオの心には死の予感がよぎり、全身が緊張に震えた。

 このままでは彼も仲間も、そしてこの密林の大地そのものも、焼き尽くされるだろう。


 避ける場所などどこにもない。

 彼の目には、ガスパールが吐き出そうとする炎が迫ってくるのが見えるようだった。


 もはや抵抗する術もなく、死を覚悟したその瞬間だった。

 お読みいただきありがとうございました。

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