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聖剣悪女  作者: 河田 真臣
第二章 暴食の槍
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24話 竜門 5

 研究室の薄暗い空間に、レイは静かに横たわっていた。


 レイの意識が朦朧とし、周囲の物音が遠のいていく。

 ほんの数秒か、あるいは数分だったのか、気を失っている間、奇妙な感覚がレイを包んだ。


 自分の体が重く、同時に軽くなるような感覚。

 そして、胸の奥で何かが蠢くような感触があった。


 意識の底で、何かがレイに語りかけてくるような微かな声が聞こえる。

 それは、まるで自分の中にもう一つの存在が生まれたかのような感覚だった。


 ☆☆☆


 突然、レイは自分の左腕に異変を感じた。

 左腕の皮膚が熱を帯び、まるで何かが内側から突き破ろうとしているようだった。


 レイは息を呑み、自分の左腕を見ると、その皮膚の下に竜の鱗のような模様が浮かび上がっていることに気がついた。

 驚愕と共に、レイは直感的にそれがガスパールの細胞と融合していることを理解した。


 レイの身体が竜化の力に包まれる瞬間、その変化は劇的だった。


 まず、額の左側に痛みが走り、まるで皮膚が破れるかのような感覚が広がる。

 彼女が歯を食いしばりながら耐えていると、額から突き出すように異形の白い角がゆっくりと成長を始めた。


 白角は滑らかな曲線を描きながら、レイの額から天を突くように伸びると、やがてねじ曲がり、丸くなっていく。

 白角は、光を受けて不気味な輝きを放っていた。


 次に、左腕に異変が起こる。


 肌が波打つように変形し、鱗が浮かび上がる。

 細やかな鱗は徐々に硬質な質感へと変わり、まるで鎧のように彼女の腕を覆っていく。


 その鱗は深いエメラルドグリーンの色を帯び、光を受けると虹色の光沢を放つ。

 腕そのものも極端に巨大化し、筋肉が膨れ上がって大竜を移植したかのようになった。

 指先も鋭い爪へと変わり、床に音を立てて鋭く食い込んでいる。


 そして、左目。


 灼けるような痛みと共に、黒い瞳が赤色へ。そして、黄金色に変わっていく。

 目の奥から燐光が漏れ出し、その輝きはまるで太陽のように眩しい。


 瞳孔は鋭く細まり、竜の目そのものとなった左目は、見る者すべてを畏怖させることになるだろう。

 彼女がまばたきするたび、黄金の光が一瞬のうちに視界を照らし、その気になれば、この左目から強力な魔力を放つことも可能かもしれない。


 ☆☆☆


 その姿はもはや人間のそれではなく、半分が竜へと変じた異形の存在。


 額の白角、巨大な竜腕、そして黄金の左目は、レイがこれまでに手にしたことのない力を象徴していた。

 竜化した彼女の姿は、まるで伝説の中の竜の一部をこの世に具現化したかのようであり、敵味方を問わず、その場にいるすべての者に戦慄を与えるものになる。


「――竜化」


 レイは声を出すが、それはかすれていた。

 レイの中で竜の血が何かを呼び覚ましたのか。

 あるいは、これがレイの出生と何か関係しているのだろうか?


 あえて考えてみれば、この程度の竜化で済んで良かったともいえる。

 左翼だけ生えてきても飛ぶこともできないし、左足だけ竜になってもバランスがとれない。


 なにより、尻尾だけは避けたい。武器にはなるだろうが、不格好だとレイは思った。

 これくらいの竜化ならば、呪いと魔力で、通常時に人間の身体に戻すことも可能だ。


「でも、暴走は怖いわね……」

 竜化が進んでも、それを抑えようと呪いを強くしても、ダメだ。

 身体はもとより、レイの存在自体が歪むことになる。


 レイは竜化して巨大化した左腕を見た。

 武骨な岩のような緑の左手に、凶暴な爪が黒光りしている。


 考えるまでもない。どう考えても、過剰な武器だ。

 この腕を思い切り振り抜けば、どれくらいの破壊を生むのだろう。


 ガスパールが竜化しても、こんな巨大な腕はしていなかった。

 おそらく、竜化と呪いとレイ自身の魔力が混ざったことで、白角、左目、そして竜腕が表面化したのか。


 ともかく、これで魔法攻撃だけでなく、物理攻撃の手段をも得たことになる。

 魔女の持つ魔王の遺物。第十階層禁術を苦もなく無効化したあの遺物。


「これで、あんたの命まで届く」

 レイの瞳が赤い殺意と、黄金の輝きで冷たく光った。


 レイは確信した。

 ――これで、私は悪魔にも勝てる、と。 


 レイが小さく呟くと、瞬間移動の魔法陣が再び起動する。

 周囲の空間が歪み、レイの体が淡い光に包まれていく。


 次の瞬間、レイは戦場に戻るべく、亜空間の研究室を跳び去った。

 お読みいただきありがとうございました。

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