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聖剣悪女  作者: 河田 真臣
第二章 暴食の槍
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22話 竜門 3

「これは――まずいぞ」

 マテオが低くつぶやいた。


 表情にはこれまでにない緊張が刻まれている。

 暴食の槍を握る手には汗が滲み、彼の筋肉がぴんと張り詰めていた。


 ガスパールがゆっくりと動き出すと、その動作一つ一つが風を切り裂くように鋭い。

 少年の体はすでに人間の形を超え、ドラゴニュートとしての威圧感が露わだった。


 ガスパールの瞳が金色に輝き、まるで野生の獣が目の前の獲物を見定めるかのように一同を睨みつけている。


「来るわよ!」

 レイが叫び声を上げた。


 ガスパールは一瞬の隙を突いて、冒険者たちの中に飛び込んだ。

 その動きはあまりにも速く、誰も反応する間もなかった。


 ガスパールの拳が地面に叩きつけられると、轟音と共に大地が震え、粉塵が舞い上がる。

 その一撃だけで冒険者の一人が吹き飛ばされ、木に叩きつけられて動かなくなった。


「ちょ……タイム。タイム!」

 セリナが恐怖を隠しきれず、後ずさる。

 彼女の指先は震えていたが、魔法の詠唱を止めることはなかった。


 ガスパールは振り向きざまに尾を振るう。

 その尾は鞭のようにしなやかに動き、二人の冒険者を同時に薙ぎ倒した。

 尾が触れた瞬間、彼らの体が宙を舞い、地面に叩きつけられて呻き声が響く。


「このままじゃ全滅だ!」

 マテオが槍を構え、突進しようとする。

 しかし、ガスパールの目が光ると、マテオはその場で硬直してしまう。

 ガスパールの威圧感は、まるで彼の魂を直接掴むかのように強力だった。


 レイは急いで行動を起こす必要があることを理解していた。

 ガスパールの圧倒的な力と威圧感を前にしても、彼女は冷静さを保ち続けていた。


 レイの瞳が紅く輝き、右手を前方に差し出すと、空間が震えるように揺らぎ始めた。

 瞬間、彼女の手のひらから無数の霊力の刃が現れ、ガスパールを取り囲むように展開していく。


 ――第十一階層禁術 (スペクトラル・)(スライサー)


 刃は透明な青白い光を放ち、ガスパールの体を貫くように突進した。

 刃は物理的な防御を無視して体を切り刻んでいく。


「霊刃でも、竜鱗を裂くのは容易じゃないわね……」

 レイの声が冷たく響き渡ると同時に、霊刃がガスパールの肉体に、僅かづつだが食い込み始めた。


 切り口からは、まるで生気を失ったように冷たく青白いオーラが漏れ出す。

 それでもガスパールの再生能力が体を癒し始めたが、その瞬間、レイの左手から更なる魔力が迸った。


 ――第十二階層禁術 永久(エターナル・)(リッパー) 発動。


 幽霊の刃が急速に変化し、黒く濃密なエネルギーを帯び始めた。

 切り裂かれた傷口は閉じることなく、逆にその裂け目が広がり続ける。


 ガスパールの再生能力もこの異質な力の前では無力かに見える。

 裂けた肉からは血が吹き出し、次々と無数の刃に掻き取られていった。


 ガスパールは苦悶の表情を浮かべ、雄叫びを上げた。


「なんだアアア! 下等生物どもおおおお!!」

 傷口は広がり続け、ガスパールは、まるで自らの存在が削り取られていくようだった。


 ガスパールの金色の瞳が憎悪に燃え上がり、レイに向かって突進しようとするが、身体が思うように動かない。

 霊刃と永久刃の効果で、彼の力は次第に削がれていった。


 ☆☆☆


「よし! サンプル入手――成功!!」


 レイの唇が薄く微笑むと、無数の霊刃が一斉に収縮し、ガスパールの体から細胞の一部を摘出して飛び去っていった。

 レイは手のひらに収まるほどの小さな血の塊を確認し、静かに息を吐いた。

 強烈な戦いの余韻が周囲の空気を歪める中、レイの目には冷徹な決意が宿っていた。

 お読みいただきありがとうございました。

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