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聖剣悪女  作者: 河田 真臣
第六章 憤怒の弓
127/164

127話 いと罪深き朝 8

 轟音と共に水しぶきが四方へ弾け飛び、巨大な帆船の甲板から屈強な参加者たちが、次々と叩き落とされていく。

 荒れ狂う波間に投げ出された者もいれば、帆船の舷側へしがみつきながら必死にもがく者もいる。


「強~~い! 大迷宮八階層、海戦エリア! 未だに階層主を倒したパーティはいません!!」

 解説席のラルフが、その熱気をそのまま声に乗せて叫ぶ。


「派手な衣装で着飾った赤マント、青マント、黄マントの三騎士! 鮮やかな連携、優雅な身のこなし! まるで、壮大な舞台劇を観ているかのようですね!」

 アナも解説に加わり、その言葉に観戦者たちの視線がスクリーンに釘付けになっていた。


 目の前で繰り広げられるのは、大時化の海と大型帆船を舞台にした激しい攻防だ。

 海戦エリアは、歴史ドラマそのものの臨場感を再現していた。

 波が激しく船体に叩きつけるたびに、船が軋む音が響き渡り、甲板では水煙が舞う。


 赤、青、黄――三騎士の色鮮やかなマントが嵐の中でひらめき、絶妙な連携で挑戦者たちを翻弄する。

 攻撃のタイミング、動きの美しさ、その全てがまるで計算され尽くしているかのようだ。


 参加者のひとりが剣を振り上げ、果敢に赤マントの騎士へと挑む。

 しかし、騎士は余裕の笑みを浮かべると、一歩踏み込んでの回転斬りで応戦。

 刃の衝突音と共に剣が弾き飛ばされ、挑戦者はバランスを崩したまま海へと転落する。


「またひとり落とされた! これは手も足も出ません!」

 ラルフの声が高まる。


 観戦者たちは当初、必死に奮闘する参加者たちを応援していた。

 しかし、三騎士の華麗な戦いぶりに引き込まれるにつれて、観客席の声援が徐々に彼らに向けられるようになっていく。


 熱狂する観客の声に包まれる中、参加者たちはなおも果敢に戦い続ける。

 だが、目の前で繰り広げられる三騎士の圧倒的な連携と力の前に、一人、また一人と水中へと落とされていった。


 最後に残った挑戦者も、青マントの騎士が放った一閃により剣を弾き飛ばされ、甲板の上で膝をつく。

 その瞬間、荒れ狂う波が帆船に衝突し、挑戦者は甲板ごと弾き出されるようにして海の中へと姿を消した。


「これで全滅! またしても三騎士の勝利だ!」

 ラルフが絶叫するように宣言したその瞬間、観戦者たちからは三騎士へと惜しみない拍手と歓声が送られた。


 もはや、これはただの迷宮攻略ではない。

 観客たちは三騎士が織りなす「物語」の続きを渇望し、次の挑戦者の登場を待ち望んでいた。


 ☆☆☆


 船倉の薄暗い空間に、赤マントの騎士が甲冑の重々しい音を響かせながら兜を脱いだ。

 彼の装いは紅蓮の甲冑と時代がかった黒衣が融合した威厳あるもので、その姿は古代の伝説から抜け出したようだった。


「おう、爺さん!  冬の海にしてくれ!  暑い!」

 汗ばむ顔を腕で拭いながら、赤マントの騎士――暁月剣禅が大声を張り上げる。


 ――わかった。四組相手にして感想は?


 通信魔具を通じて、無機質な声が応じた。


「ここまで勝ち上がったパーティだからな。そりゃ優秀よ」

「良い稽古になりますな、若さま」


 隣で豪快に笑うのは、青マントを纏う大柄な騎士――鷹松左近だった。

 左近の屈強な体躯は、長年の鍛錬を物語るかのように雄弁だった。

 年齢を感じさせるのは、後ろで括った白髪くらいのものである。


 左近は重厚な甲冑をまとい、邪神退治の功績で得た”潮騒の剣”を傍らに置いていた。

 その力を存分に振るえる戦場に、少年のように目を輝かせている。


 独特な波打つ刃を持つ長大な剣は一振りすれば、風を呼び、海なら津波を、陸なら嵐を巻き起こす。

 息子に譲った剛剣”霧島”にも劣らぬ名剣であることは疑いようもない。


 長い間、務めていた第壱軍団長を引退して、剣術指南役で見所のある子供たちを指導してはいるものの、生粋の武人である左近には些か退屈な日々であった。


「若さまはやめい」

 剣禅が眉を顰めると、左近はさらに笑いを深くし、肩を揺らした。


「梅鶴も巻き込んじまって悪かったな」

「いいえ。私はこの様相が気に入りました」


 黄色いマントをひるがえし、姫騎士の装いをした梅鶴が舞台役者のような優雅な動きをしてみせる。

 彼女の細身の体躯と緑の黒髪は、可憐な騎士の衣装によく映えていた。

 防御と回復を担当する後衛として軽装であるため、デザインには一際凝った華やかさが加わっている。


 ――カサンドラ……じゃなかった、モニクに衣装デザインを任せて正解だったな。


 通信魔具から、雷神ビクトル・マッコーガンの声が船倉に響く。


 派手な衣装は嫌いではないが、些か少女趣味のようで気恥ずかしかった。

 モニクに衣装へ合わせて剣もサーベルか何かに変えるよう勧められたが、それは丁重に断った。

 剣禅にとって武器とは飾りではなく、生き方そのものだからだ。


 さすがに今回は、怠惰な王冠と愛刀・大典太蒼雷を装備から外している。

 この二つを持ち込めば、間違いなく相手が死ぬ――手加減も何もあったものではない。


 雷神ビクトル・マッコーガンが心血を注ぎ、強大な雷魔法を付与した大典太蒼雷。

 一度抜けば、本気の雷神を召喚するに等しい破壊をもたらしてしまう。


 今回の戦いで彼が選んだのは、いつもの二本差し。

 本差と脇差、ともに極上の業物で、長年使い慣れた身の一部のような存在である。


 これなら手加減も容易く、状況に応じた柔軟な対応ができる。

 剣禅は柄に軽く手を触れ、己の選択に一片の迷いもないことを確かめるように目を閉じた。


 古代帆船の甲板とは対照的に、船倉内の休憩室は快適だった。

 ここはスタッフ専用エリアで、医療設備から仮眠室まで整っており、三騎士を労わるために最適化されていた。


「なあ、爺さんよ。声を出せぬというのは歯痒いぞ。なんとかならんか?」

 剣禅が通信魔具に向かいながら言う。


 ――う~ん。魔工機人との会話なぞ、最低限の応答ができれば良いと考えていたんだが失敗したな。

「自然な会話をしたら人間だとバレるか?」


 ――ああ、バレる。魔工機人の声はそこらの職人や学生の音声を元にして構成しているからな。ゴミみたいな声で応答しろ。後でモニクに頼んで、声の良い俳優にでも、あててもらおうと思っとる。

「声の俳優か。声優だな」


 ――そういうことだ。第一、素人があてたら聞き取れんし、不快でかなわん。

「ボロクソに言うなあ」


 剣禅は苦笑を漏らしながら、そばに置いてあった派手な兜を手に取った。


 ――おい。次が来た。行けるか?

「ああ。次はどんなパーティが来るかな?  楽しみだのう」


 剣禅はその言葉と共に、派手な兜を嬉々として被ると、意気揚々と甲板へと飛び出していった。


 ☆☆☆


「さあ!  出て参りました!  八階層主の三騎士が登場です!」


 ラルフの興奮した声が会場に響き渡る。

 その声に呼応するように、甲板の中央へ悠然と現れたのは、堂々たる体躯を持つ二人の大男だった。


「今回の相手は、竜騎士団第一師団所属のチェスター。そして、天鳳騎士団第一軍所属のナカムラ。二人とも切り込み部隊の精鋭だけあって、もの凄い肉体をしています!」


 まず目を引くのは、チェスターの圧倒的な体躯だった。

 逞しい肉体は鍛え上げられた鋼の塊そのもので、他の騎士と並んでも明らかに一回り以上大きい。

 重厚な鎧を纏い、その肩口から覗く腕には隆起した筋肉がはっきりと浮かび上がっている。


 彼が携える武器は、全長三メートルにも及ぶ巨大なハルバードだ。

 その刃はバトルアックスと槍が融合した複雑な形状をしており、一振りするだけで甲板を裂くような威力を感じさせた。

 チェスターはその巨体に見合った圧倒的な迫力で場を支配し、観客を圧倒している。


 その隣に立つ仲村一馬(かずま)もまた、負けず劣らず屈強な男だ。

 甲冑を纏ったその姿は、彼の確固たる侍としての経験を物語っていた。


 手にした大振りの十字槍は、突いても引いても相手に致命傷を負わせる厄介な武器で、戦場で幾度となくその力を発揮してきた。

 槍の重さをものともせず、軽々と構える姿は、彼の膂力と熟練の技術を如実に示している。


「後衛を務めるのは、冒険者ベルタ。白魔法学科を卒業しています!」


 チェスターとナカムラの後方に立つベルタは、二人の巨漢とは対照的に軽装だった。

 彼女は動きやすい冒険者の装いを身に纏い、その身のこなしにはベテランらしい落ち着きが漂っている。

 白魔法を操る彼女の役割は明らかに後衛で、防御と回復を一手に担うポジションだ。


 その動作には無駄がなく、敵の攻撃を受け流しながら素早く治癒魔法を発動する姿が容易に想像できる。

 チェスターやナカムラの巨体を陰で支えるベルタは、戦場の要として欠かせない存在だった。


「ああっと。パーティ構成が二組とも同じですね。前衛二人に後衛が一人という配置。さあ、どんな戦いを観せてくれるのでしょうか?!」


 解説のラルフとアナが声を重ね、会場の熱気は一層高まっていく。

 甲板の上では、三騎士たちがそれぞれの役割を見据え、対峙する相手を冷静に見据えていた。

 その静かな緊張感が、次の瞬間の激しい戦闘を予感させる。


 ☆☆☆


「若さま。仲村はいいですぞ。アレに一番槍を任せておけば、間違いござらん」

「いや、その一番槍が今は敵なんだが。一番槍ということは、ジイの旗下だった者か?」


 剣禅は苦笑しつつ、軽く甲冑の肩口を叩いた。


「左様でございます」

「元上役と手合わせすれば、身元が割れるやもしれぬ。ジイのことだから散々鍛えたのだろう?」


「ええ。それはもちろん。誰にも負けませぬ」

「仲村、今は敵だからな?  わしが相手する故、お前は騎士の方とやれ」

「御意」


 ☆☆☆


 剣禅の指示を背後に残し、甲板の向こうから猛然と仲村が仕掛けてきた。


 十字槍の穂先が青白い風魔法を纏いながら渦を巻き、凄まじい威力の突きを繰り出す。

 まるで雷鳴を伴う突風のように剣禅の横を通過し、甲板を裂く音が響いた。


「あ。仲村は魔槍を持っております」

「ちょっ……それ、結構大事なやつ!」


 剣禅は左近を振り返りながら声を荒げたが、仲村がその一言に気づいて首を捻った。


「うん?  魔工機人同士が普通に会話できたのか?」

「気のせい……キノセイでござるニンニン」


 剣禅はその場のごまかしに笑いを堪えながら答える。

「気のせいか。なら良し!」

 仲村があっさり納得して、戦意を新たに槍を構え直したのを見て、剣禅は胸を撫で下ろす。


 仲村がバカで助かった――。

 剣禅は内心でそう呟き、同時に「仲村の頭の方も鍛えねばならぬ」と深く思った。


 目の前の仲村の十字槍が再び動きを見せる前に、剣禅は静かに本差を抜いた。


 銘を”血斬丸(ちきりまる) 兼定(かねさだ)”。


 かつて百体のヴァンパイアを斬り伏せた野太刀を、打刀に鍛え直した妖刀である。


 漆黒の刃は光を吸い込むような不気味な輝きを宿し、血を吸うたびにその冴えと切れ味を増していく。

 刃先をゆっくりと構えた瞬間、仲村が一歩を踏み出したのを見て、剣禅は息を整えた。


 この刀の真価は、その殺気への鋭敏な反応にある。

 隠密や闇討ちに対しては必ず気配を察知し、鞘の中でも微かに振動するほどだった。

 剣禅が愛刀として常備する理由もそこにある。


 血斬丸を抜けば、周囲には、黒魔法に似た異様な気配が立ち込めることになる。

 その刃は過去に斬り伏せた命の恨み辛みを吸い、情念を纏って敵を惑わせるのである。

 隙を作り、意識を硬直させるその異様な力は、一度使えば逃れる術はほとんどない。


「仲村、全力で来い。その魔槍の力、ジイの仕込みがどれほどか試してやる」


 剣禅は刃を構え直し、相手を挑発するように口元を緩めた。

 その挑戦に応えるように、仲村の槍が再び唸りを上げる。


 風が舞い、剣禅と仲村の間に一瞬の静寂が訪れた――次の瞬間、甲板の上で二つの猛威が激突する音が響き渡った。


 ☆☆☆


 左門は軽やかに潮騒の剣を振り、チェスターのハルバードを跳ね上げた。

 刃から巻き起こる旋風が、巨体のチェスターをわずかに浮かせるほどの威力を見せる。


 しかし、チェスターは驚愕する素振りも見せず、ぐっと腰を落として踏ん張った。

 その巨体に相応しい圧倒的な力で、腰を入れながらハルバードを振るう。

 潮騒の剣がいかに鋭い魔剣であろうとも、この剛槍をまともに受け止めるのは得策ではない。


 左門は間合いを取りながら大きく身を翻す。

 だが、ハルバードは単なる槍ではない。

 斧の刃と槍の穂先を併せ持つこの武器は、一度かわしてもすぐに別の形で襲いかかる。


 突きを躱せば、凪ぎが来る。

 凪ぎを躱せば、再び突きが来る。


 チェスターの武器捌きは見た目以上に俊敏で、無駄のない攻撃を繰り返す。

 その度に甲板が大きく軋み、風切り音が耳を裂くように響いた。


「見た目に合わず、小回りが効くのう」

 左門は軽く笑みを浮かべながらも、攻撃をいなし続ける。

 潮騒の剣を手の中でぐるりと回転させると、鋭い一撃を脳天に振り下ろした。


 それに反応したチェスターは驚愕の表情を浮かべ、大きく後退する。

「あの魔工機人、ただの機械仕掛けではない……まるで達人のようだ」


 チェスターは思わずそう口走った。

 その目には、かつて数多の戦場で培った経験が宿る。

 達人を相手に力押しで挑めば、返す刃に自らを斬られることは骨身に染みて知っていた。


 その瞬間、チェスターの構えがわずかに変わる。

 重厚だった動きが静かに沈み込み、一切の無駄を削ぎ落とした精緻な型へと移行した。


 その変化を、左門も見逃さなかった。

「おう……これはこれは」


 潮騒の剣を構え直しながら、左門の口元に興味深げな笑みが浮かぶ。

 両者の間に漂う緊張感が一層濃くなり、風音すらも止まる静寂が訪れる。


 ☆☆☆


 仲村は、赤マントの騎士が抜いた刀から目を離すことができなかった。

 剣ではなく刀だというだけでも珍しいが、その異様な雰囲気を放つ打刀を前にすると、侍だという考えすら意味を失った。


 一番槍として敵のど真ん中に斬り込んだ経験は幾度もある。

 だが、この刀が纏う圧迫感は、過去に挑んだ最も恐ろしい魔物の群れと同等、いや、それ以上のものだった。


 仲村の手に握られた十字槍――風の妖怪“カマイタチ”を封じ込めた“突風の十字槍”。

 魔力を込めて突けば、どんな敵の防御であれ、物理だろうと魔法だろうと風穴を空ける絶対の破壊力を持つ。


 仲村は気合いを込めた一声を発すると、全身の筋肉を締め上げ、一気呵成に突き出した。


 ――と思いきや、赤マントは突きを防ぐ直前、わずかな動きで刃を返して横へ凪いだ。

 その動きは予測不可能なもので、仲村の回避を許さなかった。


 十字槍が赤マントを斬り裂いたかに見えた。

 ブン、と鈍い音が空間に響き、赤マントの輪郭がぼやけて揺れる。


 ――血煙分身(ちけむりぶんしん)


 血斬丸が生み出す幻惑。

 斬ったという実感が生じた瞬間に敵の心へ入り込む、この刀が放つ妖しき力。


 仲村の一瞬の隙を、剣禅は見逃さなかった。

 鮮やかに脇差を抜き放つ。


 銘を“惣神(そうしん) 月兎(げっと)”。

 これほど迅速に抜刀できる短刀は他にない。


 この刀は、剣禅の母が守り刀として託したものであり、()()えとした美しい刀身には、破邪の霊術が惜しみなく込められている。


 幼い頃からこの脇差で何万回と抜き打ちの稽古を積み重ねてきた剣禅にとって、それはもはや自身の手の一部と化していた。


 月兎の柄で、仲村の延髄を軽く叩く。

 巨体の仲村は、目を閉じる間もなく意識を失い、その場に崩れ落ちた。


 剣禅は倒れた仲村の巨体を片手で軽々と支え、そのままふわりと甲板に横たえた。

 振り返ると、後衛のベルタに向けて短く声をかける。


「回復していいぞ」

 その口調には、戦いの余韻を一切感じさせない冷静さが宿っていた。


 ☆☆☆


「小賢しいわ。この年寄り相手に何を躊躇しておるか」


 チェスターが下がると同時に、左門は一気に踏み込み、潮騒の剣を思い切り振り抜いた。

 剣が唸りを上げると同時に、恐ろしい突風が甲板全体を覆った。


 チェスターは必死に腰を落として耐えようとしたが、そんな努力は何の意味もなかった。

 突風は巨体を容易く捉え、チェスターを一瞬でエリア上空へと吹き上げていった。


 上空で叫び声を上げながら落ちてくるチェスター。

 左門は冷然とその動きを見据え、潮騒の剣を振り下ろした。

 剣先が空気を割り、突風が勢いを増して、チェスターの巨体を甲板へと叩きつけた。


 重厚な鎧は音を立てて粉々に砕け、衝撃は突風によってさらに倍加する。

 チェスターはその場で気を失い、甲板に沈んだまま動かなくなった。


 左門は無言のまま、倒れたチェスターを担ぎ上げ、後衛のベルタの前に「回復しろ」と言わんばかりに放り投げる。

 その光景に、ベルタは唇を噛み締めて立ち尽くしたが、やがて視線を落とし、静かに降伏を宣言した。


「リタイアしないなら、ポイントを半分取られるだけで続行はできるぞ」

 左門が淡々とそう告げると、ベルタは小さく頷いた。


 戦闘不能となった二人は、エリアスタッフたちによって船倉の医務室へと運ばれて行った。

 勝負が決まった甲板には、剣戟の余韻が冷たい風と共に残されていた。


 ☆☆☆


「ああ、美味かった~! 三階は天国だっなあ。また行こうぜ!」

「どんだけ食うのよ!」


 カイが呑気に言いながら、アレンカと談笑してワープポイントから出て来た。

 二人は断崖から身を乗り出し、下の甲板を覗き込む。


「おう。もう次が来た。退屈せんのう」

 甲板に立つ剣禅は悠然とした態度で、崖の縁から顔を出した大男を手招きした。


 カイは遙か先にいる男の気配を感じ取っていた。 

 どうやら俺は、獲物を見定める猛禽に狙いをつけられたらしい。


 カイも、剣禅の手招きを受けてニヤリと笑う。


 奇しくも、この瞬間、表の世界と裏の世界、それぞれで最強とされる二人が相対したのは運命というほかない。

 静かな巨人同士が、陸と海を挟んで睨み合っていた。

 お読みいただきありがとうございました。

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