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聖剣悪女  作者: 河田 真臣
第六章 憤怒の弓
121/164

121話 いと罪深き朝 2

 夕陽が地平線に沈むと同時に、大迷宮から鐘の音が響き渡った。


「各所に配置された二十九組のパーティが、十二階層に及ぶ大迷宮攻略を目指し、一斉にスタートしました!」


 黒街ギルドの放送席でラルフが興奮気味に叫ぶ。

 その声は、黒街ギルドを始めとした各地のギルドへ、さらにルスガリア全土へと中継されていった。


 黒街ギルドのホールは割れんばかりの拍手と歓声に包まれ、観衆の熱気は最高潮に達している。

 スクリーンには、各パーティが迷宮の入り口へと飛び込んでいく姿が映し出され、期待と興奮の渦がギルド全体を飲み込んでいった。


 ☆☆☆


 薄暗い迷宮の通路を、天鳳騎士団の軍団長たちが慎重に進んでいた。

 壁や床は無骨な石材で作られており、装飾はほとんどない。


 簡素な造りから、この迷宮が急拵えで作られたものであることは明白だった。

 それでも、広がる冷たい空気と微かな魔力の流れが、侵入者を拒むような威圧感を漂わせている。


「タカさん」

 蓮見祐馬がすぐ後ろを歩く鷹松右近に声を掛けた。


「通常エリアは黒街だったよな? 中ボスのブギーマンってどんな魔物だったっけ?」

 右近は先頭を歩く祐馬に低い声で答える。


「相手の弱点を瞬時に見抜いて、体を変形させるタイプだ。攻撃力は高いが、防御が甘い。それに自動回復機能があって、削りきるのに苦労したな。あのときの階層レベルは十くらいだったと思う。ただし、日数が経っているから、さすがに弱点を改良している可能性がある」


「弱点って?」

 祐馬が興味を示しながら訊ねる。


「形態変化が上半身に集中している。だから、下半身を狙うのが効果的だった。しかし、こちらの攻撃が当たる前に変形されると厄介だ」


「へえ、それ結構重要な情報じゃん!」

 祐馬が肩越しに笑いかける。


「それに気づいていないパーティがいれば、の話だがな」

 右近は冷静に言い返した。


 その後ろで、竹熊信久が黙々と進みながらも周囲を警戒していた。

 しかし、祐馬が何かに気づいたように足を止める。


「ん? あれ?」

 祐馬が目を細めて通信魔具を耳に当てた。


「どうした?」

 竹熊が眉をひそめ、前を歩く二人の動きを見守る。


「なんか、めちゃくちゃ速いペースで迷宮を進んでるパーティがいるみたいだぞ」

 祐馬は驚いたように言った。


「どこの連中だ?」

 竹熊が腕を組みながら訊ねる。


「通信魔具でアナウンスを聞きながら進もう」

 右近が静かに提案した。


「状況を把握しておけば、次の階層で出くわしたときの対応がしやすい」

 三人は再び動き出し、迷宮の奥へと歩みを進めた。


 ☆☆☆


「おおっと! スタートから勢いよく飛び出してきたのは、カザーロン家のパーティだ!」


 ラルフの声がギルド内に響き渡る。

 スクリーンには、俊敏に迷宮を駆け抜ける三人の姿が映し出されている。

 その先頭を切るのは、ルイス・カザーロンだった。


「カザーロン家の末っ子、ルイス・カザーロン。彼は魔眼の持ち主ですね」

 レイが補足する。

「迷宮を読める上に、トラップを察知することも可能です」


「それなら、もう勝ち確定じゃないですか?」

 ラルフが軽い口調で訊ねる。


「まさか!」

 レイが即座に否定した。


「今回の高難度エリアは、ここ数週間、各学部が総力を挙げて共同開発したものです。予定を前倒しにして、三つの高難度エリアを繋げたんですよ?」


「ええ。本当にキツかったです……」

 アナが疲れた表情を浮かべながら言葉を添える。


「あなたたちが心血を注いで作り上げた高難度エリアダンジョンが、魔眼ひとつでクリアされるようなものだと思います?」


「いやいやいや」

 ラルフが慌てて首を振った。

「それは――ないと言わせていただきます!」


「でしょ?」レイが満足げに頷いた。


 ☆☆☆


「追えるか、祐馬?」

 薄暗い迷宮の中、足音を静かに響かせながら進む三人。

 右近が、壁際で立ち止まった祐馬に声をかけた。


 ――邪眼発動 陰行視殺(いんこうしさつ)


 祐馬は迷宮の粗雑な壁に手を当てると、瞳を左右に走らせる。

 その瞳には微かに緑光が宿り、何かを追跡している様子が見て取れた。


「速い……もう、一階層の門に辿り着いたパーティがいる」

 祐馬が壁から手を離して振り返った。


「なに? 始まって五分も経っていないぞ?」

 竹熊が仰天して言う。


「カザーロン家の子供らか。迷宮を読める坊やがいるというのは本当らしいな」と右近。


「なにそれ、心眼?」

 祐馬が興味深げに二人に訊いた。


「鍛えれば、最高の剣士になるだろうな」竹熊が微笑む。

「しかし……」右近は言葉を続けた。

「彼らはゲーム感覚で楽しんでいるのだろうな。各魔法学部への最優先交渉権など考えもせず」


「子供の無邪気さってわけか――」祐馬が言った。

「ああ、子供だ。玩具みたいな魔具でももらって、満足して思い出になる」

 右近が冷ややかに言い捨てる。


「まあ、白街や亜獣に優勝されるよりはマシだがな」

 竹熊が低い声で補足した。


「そんなに重要な話なの?」

 祐馬が訝しげに眉を寄せた。


「当たり前だ」

 竹熊が一歩近づき、祐馬を見下ろすようにして言う。


「どこの組織が優勝するかで、歴史が変わる。画期的な技術を手にした組織が頭一つ抜けるのは必定。勢力図が書き換えられることになる」


「は?! なんだそれ! 絶対、優勝しなきゃダメなやつじゃん!」

 祐馬が声を上げる。


「だから、初めから、そう言ってるだろうが。わからん奴だな」

 右近が大きくため息をついた。


 ☆☆☆


 大迷宮一階層の門は、古代の遺跡を思わせる装飾が施されていた。

 床と壁には、幾何学模様と魔法陣を思わせる絵文字が刻まれ、それが一種のパズルとなって門を閉ざしている。

 ルイスは壁の絵文字のブロックを一つ一つガチャガチャと動かしていた。


「心の準備もなにもあったもんじゃないわ!」

 シルビアが眉をひそめ、焦れた声を漏らす。


「そういうな。どちらにせよ、僕らが一歩リードできていることは間違いない」

 ベルナルドが冷静に返した。


「よし! 開いた!」

 ルイスが小さな声で喜び、門が低い音を立てながらゆっくりと開いた。


「入ろう。油断するなよ?」

 ベルナルドがロングソードを抜いた。


「え、ええ……」


 暗闇の中へ足を踏み入れると、静けさを破るように壁に備え付けられた魔法の蝋燭が一斉に灯りだした。

 明かりが広がると、三十メートル四方の広間が姿を現した。

 中央には黒い塊が宙を漂っている。


 その塊は不気味に蠢き、形を変えながらじっと彼らを見据えているようだった。


 ――ふふふ。黒街研究室ラルフです。私が開発したブギーマン改をご堪能あれ。


 通信魔具から聞こえてくるラルフの声が場違いなほど軽快で鬱陶しい。


「スライム……?  でも、妙に静かね。燃やしてみる?」

 シルビアが眉を寄せた。


「どんな属性かわからん。二人とも下がれ」

 ベルナルドが二人に、後方へ下がるよう指示する。


 ――ふふふ。困ってる。困ってる。もはやブギーマンが人型をとっていること自体に我々、研究室は疑問を感じました。攻防などという概念からの脱却こそが答えなのではないか。そういうわけでブギーマンはどんなものにも形状を変えられるスライムタイプに――


 ラルフの解説が続く中、ベルナルドが左手をゆっくりと持ち上げた。

 その義腕が淡い光を放ち始める。


「裂けろ」


 静かな声とともに、ベルナルドは手刀を空中に振り下ろした。

 風を切る鋭い音が響き、目に見えない真空の刃が黒い塊を一刀両断した。


「すごい……風魔法?」

 シルビアが驚きの声を上げる。


「暁月さまからいただいた義腕だ。この義腕に宿る風の精霊に力をお借りした。下手な斬撃よりずっと威力があるし、遠距離攻撃も可能だ」


 ベルナルドは冷静に語りながら黒い塊を見据える。

 どうやらその一撃で核をも斬ったようで、ブギーマンはその場で崩れ落ち、動かなくなってしまった。


『第一階層クリア。次の階層へお進みください』


 機械的な声が部屋に響く。


 ――ブギ――マ――ン!!


 通信魔具から響くラルフの嘆きの声が、虚しく広間に木霊した。


 ☆☆☆


「ああ! 私のブギーマン改が!!」

「まあまあ。第一階層はいくらでもパーティが来ますから、まだまだこれからですって!」

 悔しがるラルフをアナが慰める。


「そういうわけで、第一階層クリア一番乗りは、カザーロン一家の子供たちパーティです! おめでとうございます! ちくしょう!!」


 ラルフが叫ぶ中、祐馬は通信魔具からの報告を聞いて目を見開いた。

「はあ?? 嘘だろ。早すぎだって!!」


「焦るな。こちらにも建築の専門家がいる。どうだ、竹熊」

 右近が静かに訊ねる。


「このまま北西へ向かおう。一階層ずつクリアするより、ワープできる所があるかもしれん」

 竹熊は地図を確認しながら落ち着いた口調で答えた。


「それだとポイントが稼げんぞ?」

 祐馬が口を尖らせる。


「深層階のボスを倒せばいい。浅い階層主は変わりがいるだろうが、高ポイントの魔物などは早い者勝ちとなるはずだ。レベルが高ければ、すぐに復活などできん」

 竹熊の冷静な説明に、右近は短く頷いた。


 その時、数歩先を進んでいた祐馬が突然立ち止まり、振り返って叫んだ。

「下がれ! なにか来る!」


 右近と竹熊は瞬時に反応し、左右に別れて背中を預け合う形をとる。

「違う! 壁だ! 右!!」


 祐馬の声が響くとほぼ同時に、右側の壁が轟音とともに崩れた。

 壁の破片が四散し、粉塵が舞う中、何か巨大な影が現れる。


 右近は即座に伏せ、防御態勢を取った。

 一方、竹熊はその場に踏みとどまり、握っていた金棒を振り抜いた。


 金棒が空を切る音とともに、崩れた壁から飛び出してきた大小の礫を全て叩き落とす。

 その姿はまるで岩壁そのもののように揺るぎなく、飛び散った破片が竹熊の体に触れることはなかった。


 竹熊の金棒は無属性の金属を圧縮して作られたもので、魔法や物理攻撃を無効化する結界と同等の効果を発揮する。

 その代わり超重量で、常人ならば持ち上げるどころか、手をかけるだけで動けなくなる。


「あ゙あ゙?? なんだあ? テメエら!」


 粉塵が晴れるとともに、壁の向こうから現れた三人組の影が浮かび上がる。

 祐馬はその姿を睨みつけ、叫んだ。


 ☆☆☆


「ここでやっと、亜獣騎士団からの参加者情報が入ってきました!」

 黒街ギルドの放送室でラルフが興奮気味に声を張り上げる。


「まずは、全身を包帯で覆った不気味な人物――性別すら分からない! 第四獣軍長、”サンドマン”アフマド!」

 アナウンサー席のアナが言葉を続ける。


 映像が迷宮内の様子を映し出す。

 包帯で全身をぐるぐる巻きにされたアフマドが、崩れた壁際に佇んでいる姿に観客席はざわついた。

 目元だけが露出しているが、その鋭い視線には異様な冷たさが宿っている。


「続いて目に入るのは、黒いコートを身にまとった大男! 亜獣騎士団の副長であり、第一獣軍長――コンラッド・ゴドルフィン!」


 厚い胸板と広い肩幅、背中を覆い尽くす黒いコートが闇そのもののように揺らめいていた。

 鋭い目つきと無骨な顎が威圧感をさらに増幅させている。


「そして、最後は――巨人! 三メートルはあるでしょう! 天井に頭が付くほどのデカさ! 第二獣軍長、アーダム・ラウテンバッハ!」


 迷宮の低い天井を押し上げそうな巨体のアーダムが、天鳳騎士団パーティを睨み下ろしていた。

 その姿に観客席は一瞬、静まり返る。

 巨大な手が握る槌のような武器が、ゆっくりと足下に置かれた。

 顔が見えないほどの圧倒的なスケール感に、誰もが言葉を失う。


「ラルフさん。前に亜獣騎士団の紹介の時、思いっきりビビってましたよね?」

 アナがからかうように言うと、ラルフは焦ったように返した。


「亜獣騎士団の資料に『殺し屋』としか書かれてないんだから、そりゃビビるに決まってるでしょ!」


 観客の笑い声が一瞬だけ響くが、すぐにまた画面に映る三人の姿に呑み込まれていった。


 ☆☆☆


 迷宮内の静寂を切り裂くように壁が破壊され、飛び出してきたのは全身包帯に包まれた亜獣騎士団の第四獣軍長――アフマドだった。

 手にした奇妙な木の棒を肩に担ぎ、無言のままこちらを睨む。


「おいおい、あんなもんで迷宮の壁を壊すとか、あり得るのか?」

 祐馬が壁の瓦礫を見下ろしながら半ば呆れたように呟く。


「普通ならあり得んだろう。だが、魔具だとしたら話は別だ」

 竹熊が冷静に答える。


 アフマドの武器を観察しながら「剣というより、魔杖に近いな。魔剣士かもしれん」と続けた。


 右近は背中に背負った大刀に手を掛ける。

「タカさん。ここで”霧島”を抜くつもりか?」

 祐馬が慌てたように一歩後退し「待て! 僕は下がる!」と避難態勢をとった。


 その時、上空に響く冷静な声が状況を制止した。

 ――そこまで。そこの天鳳と、亜獣ども! ここから一合でも打ち合ったら、それぞれ減点五百ポイントですからね!!


 コンラッドが低い声で命じた。

「アフマド、退くぞ。高難度エリアで五百ポイント減点は致命傷になりかねん」


「ケッ! 了解」

 アフマドは不満げに肩をすくめたが、一応は従うそぶりを見せた。


 だが次の瞬間、祐馬が凄まじい速さで前進し、上段蹴りを放つ。

「抜かなきゃいいんだよなあ」と笑みを浮かべ、アフマドの頭上を掠めて後方に着地した。


「テメエ……」アフマドの包帯越しの目が鋭く光る。


 ――なにやってんの! アホ!! 今すぐ離れなさい!!


 上空から響くレイの怒鳴り声が、場の空気をさらに張り詰めたものにする。

 幸い、減点はないようだった。


「アフマド、いい加減にしねえか」

 コンラッドが重々しい声で制すると、アフマドは小さく舌打ちをしてから肩を竦めた。


「……チッ! わかったよ」

「悪かったな。こちらの不可抗力だ。この借りはいずれ返すということで勘弁してくれ」


 コンラッドが強面に無理やり笑みを浮かべた。

 その表情にさらに威圧感が増し、祐馬は一瞬、言葉を失う。


「お、おう。じゃあ、いいよ」

「いいのか、お前。やけに、あっさり退くな」竹熊が半信半疑で訊ねる。

「だって、竹さん。あいつの顔、怖いんだもん」祐馬がポツリと返す。


 その間に迷宮の壁は自動修復を始め、先ほどの破壊の痕跡はみるみる埋められていく。

 修復が終わる頃、アフマドが不機嫌そうに首を傾げ、中指を立ててみせた。


 それを見た祐馬も悪戯っぽい笑顔を浮かべ、同じように首を傾げる。


 壁が完全に復元され、静寂が戻ると、右近が呟いた。

「お前、呪ったな?」


 祐馬は肩をすくめながら「タカさん、先に()()()()()のはアッチだぜ」と悪びれずに嗤った。


 ☆☆☆


「よくわかんないんだよね。第一が最強とか言われるのって。どこの軍団長や師団長でも、個人の強さでいえば同レベルなんじゃないの?」

 迷宮を歩きながら祐馬が右近に訊ねた。


「適正だよ。第一は精兵で、強さと機動力、それから肝っ玉。第二は防衛。第三は後方支援、第四は特殊部隊が定石だ」

 右近は淡々と答える。


「そういえば、竜騎士団って最近まで第四がなかったんでしょ? のんびりしてるというか、大らかというか……」


 祐馬の感想に、右近が思い出したように言う。

「そういえば、黒街の通常エリアで竜騎士の新第四師団長を見たが――アレはヤバいぞ」

「ヤバいって、タカさんが言うの?」


「……どういう意味だ?」

「ああ、いや。なんでもない」祐馬は肩を竦めて話題を変えた。


「そんなこと言うなら、うちだっておかしいだろう。近衛兵団が月の巫女集団って、他から見たら奇妙に映るかもしれん」と右近が言う。


「まあな。『上様が美女軍団を侍らせている』とか言う奴もいるし、けしからんことだ」と竹熊。


「いや、いるでしょ。巫女さま軍団。お化けとか怖いじゃん」

 真剣な顔で祐馬が返した。


「お前が怖いとか言うな」右近が半ば呆れたように返す。

「なんでだよ!」祐馬が抗議の声を上げる。


「剣を抜くと鬼になるだろ。お前は」右近が言うと「そんなことねえよ」と祐馬が返す。

「いいや。鬼だね。異常者だ」竹熊も言った。


「変態だな。変態剣士だ」右近が冗談混じりに付け加えると、祐馬は顔を赤くして振り返った。

「ちょっと! 何言ってんの、タカさん! ふざけるなよ!」


「おっと。ここら辺かな?」

 竹熊が指差した場所には、わずかに光を放つワープポイントがあった。


「竹さん。流石だぜ」

「作り手としたら、どこになにを造るのか。まあ、職人の考えることは皆、似たようなもんだ」と竹熊は鼻を鳴らした。


「第一階層だからな。どこに飛ばされたとしても、損はするまい」

 竹熊が慎重に言葉を選ぶ。


「いきなり階層主の前に放り出されたりして」祐馬が軽口を叩くと、右近が苦笑しながら否定する。

「ないない。いくら大権威といえども、そこまで理不尽な真似はしやせんだろう」


 三人は互いに軽い目配せを交わすと、ワープポイントに足を踏み入れた。


 ☆☆☆


「さあ! いきなり、大迷宮第三層の階層主の前に出現しました! 一体どうやったんでしょうか?! 天鳳騎士団パーティ!」

 観客席の興奮が伝わる実況の声が響く。


 ワープ先に立ち尽くす三人の前には、巨大な扉が音を立てて開かれていく。


「では戦ってもらいましょう! 相手は怒れる雄鶏、首都大学総長ゾーエ先生お得意の召喚魔獣! 禁術階層レベル十二! ドーピング・コカトリス!」


 その言葉が終わると同時に、地鳴りとともに巨大な影が部屋の奥から現れる。


 現れたのは異形の大鳥――頭部は巨大な鶏、目には血走った赤い輝きが宿り、鋭い爪と筋肉質の足が地面を踏み鳴らしている。

 その体躯は普通のコカトリスの倍以上あり、毛並みには毒々しい緑と紫が入り混じった模様が浮かんでいた。


「おいおいおいおい。タカさん。タカさん」

 祐馬が目を丸くしながら呟いた。


「言うな。言いたいことは、大体わかる」


「ドーピング? ただでさえ凶暴なコカトリスになにしてんだよ」

 竹熊が金棒を握り直し、表情を引き締める。


「目を合わせるな。尻尾の蛇から、石化の呪いが飛んでくるぞ!」

 右近が警告を発しながら、背中の剛剣”霧島”に手を掛けた。


 ドーピング・コカトリスは甲高い声で鳴き叫び、地面を力強く踏み鳴らすと同時に、口から紫色の霧を噴出させる。


「毒か? それとも呪いの霧か!」

「二人とも下がれ! 防御する!」

 竹熊が叫び、金棒を構える。


「さあ、始まりました! 第三層階層主とのバトル! 天鳳騎士団パーティは、この難関を突破できるのか!?」

 実況のアナの声が再び響き渡り、観客たちの歓声が迷宮内にも反響していた。

 お読みいただきありがとうございました。

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