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【1-8】感謝される価値

 巨人はリュウの蹴りが効いているのか、目を閉じて近くの物を手当たり次第に壊しながらこちらに向かって来ている。

 

 俺を排除するというよりは、辺り一帯を全て壊している感じだ。

 

 みんなを巻き込むわけにはいかないが、俺が別の場所に誘導しようと走っても、今の巨人には意味がないだろう……。

 

「カルハ、俺の後ろに隠れてくれ」


「何を言っているの? 貴方は異世界から来たばかりで能力もないのよ。そんな人が戦えるわけないじゃない」


 俺が庇うようにカルハの前に立つと、彼女は驚いた表情を浮かべ、慌てて俺を止めた。

 

 異世界から来たばかりの俺を勇者と戦わせようとしていた件は完全に棚に置かれているが、今はそんなことを考えている暇はない。

 

「そうだな。リュウみたいに倒すってのは難しいかもしれない。けど、……大丈夫。絶対俺が何とかするから」


 俺は心配をかけないよう彼女に笑顔を向ける。


 さっきまで取り乱していたカルハだったが、俺の笑顔につられたのか、ふっ……と心底嬉しそうに笑った。

 

「ありがとう……、でも大丈夫よ。貴方は私が守るわ」


 そう言うとカルハは、両手を広げて俺の前に立った。


 さっき最後の手段と言っていたが、他にも策があるのだろうか。

 彼女の表情は自信に満ち溢れている。

 

 しかし迫り来る巨人に対し、カルハは両手を広げたまま少しも動かない。

 まさか……。

 

「カルハ!」


 俺は彼女の行動の意図に気づき、止めようと立ち上がった。

 だが、巨人はもうすぐそこだ。もう間に合わない!

 

「今度は、今度こそは……私が貴方を……」


 カルハは覚悟を決めたように拳を強く握った。

 そして巨人が彼女の目前まで迫ったその時、シャンッと鈴の音が辺りに鳴り響き、巨人はピタリと動きを止めた。

 

「なんだ? どうなってんだ?」


 俺は状況がわからず辺りを見渡した。

 すると、全身を赤いフードで覆った誰かが空に浮いているのが目に入った。

 

「誰だ?」

 俺の問いかけに答えは返ってこない。


 赤フードは、右手に持ったお祓い棒を巨人に向けてふぁさーと空気を撫でるように振った。

 すると、巨人の四方に大きな光の鳥居が現れた。

 

 鳥居は徐々に巨人に近づいていき、その姿は大きな光に包まれて見えなくなってしまった。

 

 赤フードは、左手に持っている大量の鈴が付いた棒をシャンッと鳴らした。

 音が辺りに響き渡り、光の鳥居が消えていく。

 

 完全に光が消えた時、その場に巨人と赤フードはいなくなっていた。

 

「なんだ今の? あれもカルハの召喚獣なのか?」


「彼女はそうね、召喚獣というわけではないけれど……。私たちの味方よ」


 カルハの言葉は歯切れが悪かった

 。俺を召喚するぐらいだから人手不足なのかと思っていたが、洋館の中には他にも仲間が何人かいるのだろうか。

 

 色々と気になることはあるが、俺は今、彼女に言わないといけないことがある。

 

「カルハ、さっきはありがとう」


「何のこと?」

 カルハは突然お礼を言われたことに対し、少し驚いた表情で聞き返してきた。


「巨人が襲ってきた時、俺の前に立って体を張って守ってくれようとしたんだろ? ネクロマンサーだから、てっきり俺に早く死体になってほしいのかと思ってた」


「貴方はネクロマンサーをなんだと思っているの……」

 カルハは呆れたように手で眉間を押さえている。

 

 ……自分を犠牲にし、命懸けで守ってくれたカルハ。

 

 俺を異世界に召喚したネクロマンサー。

 これだけを聞けば信頼できる要素はないし、情報を引き出す利用目的や多少の下心以外で、そんな奴に協力しようなんて思わない。

 

 でも、カルハの表情や言葉、行動を見て、俺が彼女に協力する理由は変わった。

 

 助けられた恩義もあるが、彼女が俺の力を必要とするのであれば、それに全力で応えたい。


 決意を固めた俺の傍で、カルハは気絶しているルーリアを庭の椅子に座らせ、彼女の頭を撫でている。

 

「別にお礼を言われるようなことはしてないわ。それに私には、貴方に感謝されるほどの価値がない」


 俺からの感謝の言葉を受け取ることなく、カルハは洋館の方へと歩き出した。

 

「価値ってどういう――」

 俺が問いかけようとすると、カルハは屋敷の扉に手をかけてこちらを振り返った。

 

「私は昔……、人を殺したから……」


 そう言った彼女の目は、ひどく冷たく底が見えないほどくすんでいた。

 

 そんな彼女に対して、俺は何も言うことができなかった。

お読みいただきありがとうございます。

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よろしくお願いします。


次回もお読みいただけると嬉しいです。

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