表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/43

【1-5】初仕事の高すぎるハードル

 声のした方に目を向けると、声の主の少女は光の中にいた。

 

 肩まで伸びた透明感のある薄い空色の髪はハーフアップにまとめられており、生気を感じられないほど肌は白い。

 

 俺と同い年ぐらいであろうその少女は、白いワンピースを着ているからか、日の光を受け全身が輝いているように見える。

 

 その姿は晴天を連想させ、太陽が彼女を愛しているのだと錯覚させられるほどの綺麗なお嬢様だった。

 

 気になる点として、そのお嬢様には角と尻尾が生えており、爪は長く鋭い。

 そして、頭に矢、腹に刀が突き刺さっている。

 

「おいカルハ、別の世界から誰か呼んだってよーたが、こがな奴が本当に強いんじゃろうなー」


 綺麗なお嬢様は、清楚な第一印象とは違った方言のような粗暴な口調で話しながら、エメラルドグリーンの瞳をこちらに向けてガンを飛ばしてきた。

 

 ……腹に刀、刺さってますよ。

 

「リュウ、貴方が来ると話がややこしくなるから後で説明するって言ったわよね。この人は私を……いえ、私たちを助けてくれる大切な人よ」


「こがな奴がのぉ……」


 リュウと呼ばれた少女はずかずかと俺に近づき、不良の三年生が新入生をビビらせるような敵意むき出しの表情で、俺の全身をじっくりと観察してきた。

 

「俺はレンマ。状況はよくわかってないが、よろしくな」


 カルハの仲間であろうリュウに握手を求めて手を差し出した。

 できるだけ友好的に接したつもりだったが、彼女はそれを無視して観察を続けている。

 

 そんな見るからに喧嘩腰で絡んでくる彼女をカルハが制した。

 

「リュウ、私は彼と話しているの。貴方はルーリアと一緒に遊んでいて」


「わかったけえ、そがに邪険にせんでも見とっただけじゃろうが」


 リュウは満足したのかニヤッとギザギザした歯を見せて笑い、ルーリアの方へ歩いて行った。

 

 リュウが引いたのを見て、カルハはホッと息をついた。

 

「ごめんなさいね。あの子は私を心配してくれているだけで……」


「大丈夫。気にしてないから」


 リュウの行動はカルハを思ってのことだったらしい。

 確かに、急に別の世界から人を呼んで、『自分たちを助けてくれる人』なんて説明を受けたら、どんな奴かを見定めたくなる気持ちはわかる。

 

「それでね、レンマ……私たちに協力してくれるかしら?」


 不安げな上目遣いで問いかけてくるカルハ。


 ……さて、俺はどうするべきか……? とはいっても答えは決まっている。


 今の俺に何ができるのかは正直わからないが、やり取りした感じでは彼女たちは悪人じゃない気がする。

 助けを求めているのなら、俺は全力で期待に応えたいと思う。

 

 しかし、出会ったばかりの彼女たちを完全に信用するわけにはいかない。

 かといって、協力を断れば何をされるかわからない。

  

 俺が巨人のような化け物がいるこの世界で生き残るためには、彼女たちに協力する形をとり、そのうえでこの世界のことや、俺が召喚された理由などの情報を集めるべきだろう。

 

 それに彼女が俺を召喚した以上、元の世界に戻る鍵も彼女にあると考えるのが筋だ。

 協力しない選択肢なんて最初からない。

 

 信頼を得れば情報も得やすくなる……。


 つまり俺が協力するのは、決してカルハに一目惚れをしたから良いところを見せたいとかいう、下心満載な理由じゃない。

 ちゃんと考えに考え抜いた結果のクレバーな選択だ。

 

 誰に向けてなのかわからない自己弁護を脳内で終え、俺は胸を叩き笑顔を作る。


「ああ、俺にできることなら任せてくれ。それでカルハ、さっき言ってた『やってもらいたいこと』ってなんだ?」


「ありがとう……。貴方への依頼。それはね……、私をこの洋館に縛り付けている『ある人物』を倒してほしいの」


「ある人物……?」


「そう、でも今は詳しく言えない……。それはあくまでも最終目標だから、時機を見てまた私から話すわ」


 明言せず、濁すような言い方をしたことに引っかかりを覚えた。

 しかし、その人のことを思い出したのか、カルハは体を震わせ怯えたように目を伏せたので、これ以上追求できなかった。

 

 追求がなかったことで、カルハは元の態度に戻り、逆に俺に質問をしてきた。


「それより一ついいかしら? 異世界から召喚された者は、何か特別な能力を持っているらしいのだけれど、貴方は何か心当たりある?」


「……今のところ……思い当たるものは……ない……かな?」


「……そう」

 明らかに空気が変わった。

 

 何の能力もないことで早速期待を裏切ってしまったのだろうか、カルハの表情は少し悲しげだった。

 

「……ならまずは、簡単な仕事からやってもらおうかな」


 まずい、無能力者だとわかったからか、幻滅して彼女の想定よりも簡単な仕事にされてしまったような気がする。


 今ので、最終目標を話すまでの時機とやらが伸びたんじゃないのか?

 

 まあ、俺も異世界に来たばかりだし、簡単な仕事からステップアップしていく方がありがたい。それに、どんなことでも全力でやれば彼女たちの助けになると思う。

 ……そう思いたい。

 

「簡単なことでも、カルハの頼みなら何でもやるよ」


「そう言ってもらえると嬉しいわ」


 俺の答えを聞いて、カルハは一呼吸置いた後、その簡単な仕事の内容について話してくれた。

 

「もうすぐここへ、貴方を倒すために勇者がやってくるわ。貴方にはそれを撃退してほしいの」


 ……初仕事なのに内容重くね?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ