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9.sideジージル



 そこから数日後ルルー様が子爵夫妻の気を引いている間にミルー様を子爵夫妻の元から引き離し、人気のない場所へと連れ出した。



『ジージル?何するのよ!?お姉様が…』



『…ルルー様はたぶん大丈夫です。それよりミルー様に話があるんです』



『…私に?』


 

 俺の言葉に怪しげな視線を向けるミルー様。俺だってルルー様のことが心配だが、ルルー様に頼まれたから仕方がないんだ。



『はい。…最近のミルー様はどこか様子がおかしいですよね?ルルー様がそれをとても心配なさっているんです。何か理由があるのなら話してくれませんか?』



『……お姉様が?』



『はい』



『…お姉様が気になっているから話を聞こうとしているの?』



『はい。そうです』




 俺の言葉に何故か傷ついたような怒ったような表情になりながら、ミルー様は肩を落とした。



『…そうよね。別にあなたはどうとも思っていないわよね。…ほんと腹が立つわ』



『え?』



『…いえ、別に何でもないわよ。…ちょっと最近色々と悩むことがあって疲れていただけよ』



『その悩むこととは?』



『………』



『ミルー様。話して下さい』



 俯いてしまったミルー様に近づき少し屈んでミルー様の顔を覗き込む。するとミルー様の瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちギョッとする。



『!?』



 まさかあの高飛車で俺達を見下して虐めてくるミルー様が俺の前で泣くとは思わずあたふたとしてしまう。



『ミ、ミルー様?』



『…ねぇジージル。私の家族って何か変なの?』



『え?』



 慌てる俺に向かってミルー様はそうポツリと言葉をこぼした。



『…この間のパーティの時に仲のいい令嬢に言われたのよ。土属性はありふれた属性だって』



『…それは』



 それは本当のことだ。だけど今のミルー様にそれを言うのはなんだか憚られてしまって言葉が続かない。



『…だけどそんなの信じられなくて屋敷に帰ってから一生懸命本を探して調べてみたけれどお父様達が言っているような特別だってことは本当に一切書かれていなかったわ…』



『……』



『…私、ずっと土属性は特別な属性だって思っていたわ。だからこそお父様達がお姉様を見下すのもそれを持って生まれなかったお姉様が悪いんだと思っていた。だけど土属性が特別でないのならそこまでお姉様を馬鹿にする意味がわからない。それに誰がどの属性を持って生まれるかなんて所詮は運なのでしょう?必ず親と同じ属性の子どもが生まれるかはわからないって本にも書いてあったしジージルも両親とは違ったわよね?…たまたまお姉様は風属性を持って生まれてしまっただけ。それなのにどうしてお父様達はお姉様やジージルを虐めるの?私達は別に特別でも選ばれた人間でもないのに。でもそれを言ってもお父様もお母様も「土属性ではないのだから当たり前の対応だ。土属性以外に価値はない」って言って怒るのよ』



『………』



『どうしてそこまで土属性にこだわるのかわからなくて混乱したわ。でもその時にね、ふと思ってしまったのよ。じゃあ私は?って。価値がないっていうのなら私が土属性じゃなくなってしまったらお父様達はどうするんだろうって。だから私、2人に聞いてみたのよ。私がもし土属性じゃなくなったらどうする?ってそれでも愛してくれる?って。そうしたらお父様達なんて答えたと思う?』



『…なんて答えたんですか?』



『「あり得んな。そうなったらお前もあの出来損ないみたいになるだけだ」「せっかくここまで可愛がってきたのに全て台無しになってしまうわ」」って言って簡単に笑うのよ?あれだけ可愛いだの大切だの言っていたくせに酷いと思わない?』



『っ』



 ミルー様が泣きそうな顔で笑う。



『…ねぇジージル。私って何?今までお父様達の言うことをちゃんと聞いて生きてきたのにお父様達にとって私は土属性を持っていることしか価値がない人間なの?』



『っそんなことは!!』



『……お世辞ならいらないわよ。…私、その時初めてお姉様が羨ましいと思ったわ』



『え?』



『…お姉様はお父様とお母様には嫌われているけれどジージルみたいにお姉様を大切にしようと守ろうとする味方がたくさんいるわよね?なのに私には誰もいないのよ。お父様とお母様だけが私の味方。お父様達が正しいと言っていることを私はしているだけなのにみんな私から離れていく。お父様達の言うことを信じてそれを外で言えばみんなから笑われてみんなが離れていく。もうお父様とお母様の何を信じていいのかわからない。だって言うことを聞けば聞くほど私からみんな離れていくもの。調べれば調べるほどお父様達が言う言葉は間違っているって思ってしまうもの…。…だけどお父様達以外誰も何も私には教えてくれないのよ。何が正しいのか悪いのか誰も私には教えてくれないっ!私はこれから何を信じてどうすればいいのよ!!』



『………ミルー様』



 ミルー様が悲痛な声で叫ぶ。



 屋敷の者達は気軽にミルー様に話しかけないように言われている。それにミルー様には常に子爵夫妻が張り付いていて本当のことを言いたくても言えないし、子爵夫妻からの不興を買いたくないからみんなミルー様には近づかない。こんなにも弱っているミルー様なんて初めて見た。



『…ジージル教えてよ。私って変なの?私は何か間違っているの?…お願いだから教えてよ…』



『……っつ!』



涙を必死に耐えようとしながらもポロポロとこぼしてしまっているミルー様の姿に胸が締め付けられどうにか泣き止んで欲しい一心で抱きしめる。



『…っジージル?』



『ごめんミルー様。俺ミルー様もあいつらと同じだってずっと思ってた。ミルー様のこと何にも知らなかったのにごめんっ』



 ミルー様も子爵夫妻よりマシだったとしても所詮は土属性主義の頭がおかしな人だと思っていた。だけどやっと本当の意味であの時ルルー様が言っていた言葉の意味がわかった。なんで子爵達と同じだと思ってしまったんだろう。まだミルー様は小さいんだ。両親の言うことが全て正しいと思ってしまっていてもおかしくないじゃないか。あれだけずっと張り付かれているんだから。それでもミルー様はそのまま流されず、おかしいと気づいてどうしてなのかを考えられる人なんだ。…このままミルー様が間違った道に進んでしまう前にちゃんと教えないと。これ以上こんな悲しい顔をしていてほしくない。ミルー様にはこんな顔は似合わない。



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