第5話 動き出した闇
笠取荘の隠し部屋に5人が集まった。ローク星の軍用宇宙船がゼーフ島の近くにあり、何らかの行動しようとしているのは確かだった。
「こんなに早く・・・」
それほど早く宇宙船が来るとは地球代表部はおろか、半蔵にも予想外だった。あと1週間程度は時間があると思っていたのに、これでは脱出作戦は中止となった。
「お頭、それに島の様子も不穏な空気に包まれているようです。ウラク星人たちは抵抗しようとしているみたいです。」
疾風はフリー記者の佐藤翔として情報を各方面から集めていた。彼はローク星人とウラク星人がぶつかれば大惨事になると憂慮していた。それに・・・。
「ウラク星人が抵抗しようとすれば危ない。今来ているローク星人は軍のものだ。平気で通常武器を使ってくる。マコウの武器監視装置などで取り締まれるわけがない。レーザー銃や高性能爆弾を使ってくるだろう。」
半蔵はそう言った。その言葉に佐助が驚いて目を見開いた。
「それじゃあ、戦争ではないですか!」
「いや、戦争などではない。これは虐殺だ。ローク星人は意に添わぬウラク星人を抹殺するのだ。見せしめのために。」
「そ、そんな・・・」
佐助は言葉を失った。あんなにやさしく親切なウラク星人たちが・・・。佐助の脳裏には知り合いのウラク星人の顔が浮かんだ。あのニムダや彼の妻のマリー、そして幼い娘のリーヤが。
「そんなこと許せません! お頭!」
佐助は声を上げた。半蔵は眉間にしわを寄せた。
「我らにはもはや手が出せぬかもしれぬ。だが・・・」
半蔵が言いかけた時、暗号無線を傍受していた児雷也が叫んだ。
「お頭、大変です。ローク星人が島に上陸したようです。」
「なに!」
半蔵は驚いた。こんなに早くローク星人が動くとは・・・。これは元々、地球にいるウラク星人の虐殺を計画していたのかもしれない。見せしめのために・・・。
「これは多くの血が流れる・・・」
半蔵はそう言ってため息をついた。佐助はもうじっとしていられなかった。
「島に行ってみます。何かの役に立てるかもしれない!」
「待て! 佐助!」
半蔵は止めたが佐助は隠し部屋を飛び出して行った。彼は浜に隠してあるステルスホバーで島に渡るつもりだった。
「お頭! 佐助だけを行かしていいのですか?」
霞が心配そうに尋ねた。半蔵は「うむ。」と腕組みをしながら言った。
「我らにはやることがある。軍用宇宙船についての資料は地球代表部から取り寄せる。それを元に疾風と児雷也は船の状態を調べろ。合わせて中で何が行われているかを探れ。きっと動きがあるはず。霞は潜入の用意だ。」
「はっ。」
疾風と児雷也、そして霞は隠し部屋を出て行った。半蔵は大きく息を吸い込んでそれを吐きながら考え事をしていた。
地球代表部でも大騒ぎになっていた。ローク星の軍用宇宙船の動きが予想外に早く、ゼーフ人工島に上陸したとの情報を得ていた。こうなってはウラク星人を秘密裏に島から脱出させることなどできない。大山参事は執務室で腕を組んで目を閉じて考えていた。
「どうするつもりだ?」
そこに半蔵の声が聞こえてきた。大山参事はぱっと目を開けた。すると目の前に半蔵が立っていた。
「むろん、作戦は中止だ。」
「だがウラク星人はどうするのだ。このままでは彼らに待っているのは悲惨な運命だけだ。」
半蔵はそう言った。だが大山参事に妙案があるわけではなかった。
「確かにそうだ。しかしもう普通のやり方ではどうにもできない。」
「我らが動く。軍用宇宙船について詳細な資料が欲しい。侵入を試みる。」
それを聞いて大山参事は目を見開いて驚いた。ローク星の軍艦に乗り込むとは・・・。いくら半蔵たち忍者であっても・・・
「ふふふ。心配するには及ばぬ。我らならできる。図面が手に入ればな。」
「そうか。それなら秘密裏に手に入れた物がある。マコウ人の秘密ファイルからだが。それにこれも極秘だが、軍用宇宙船の中から地球代表部に接触を試みた者がいる。」
大山参事がそう言うと、半蔵は「ほう!」と声を上げた。
「宇宙船に乗るローク星人は一枚岩ではない。ローク星のやり方に疑問をもった者が大勢いるようだ。彼らと接触すれば協力を望めるかもしれない。」
「うむ。わかった。これは頼りになる。」
半蔵の目が光った。大山参事はさらに言った。
「だが相手はローク星人。その中でもプロム将軍は冷酷さでは有名だ。今までの相手とは違う。」
「わかっておる。厳しい戦いになるであろう。しかし我らはやり遂げる。」
半蔵はそう言うとその姿を消した。大山参事はふうっとため息をついた。