第3話 それぞれの対応
総督府のマコウ人幹部は、会議室でローク星の軍用宇宙船からの通信を受けた。大型モニターがセットされ、しばらく雑音が続いたのち人の姿が映し出された。それはローク星の将軍のようだった。
「地球総督府のマコウ人の諸君。私はローク星の強制労働局のプロム将軍だ。君たちの星に逃げてきたウラク星人の引き渡しを要求する。そちらの責任者を出してくれ。」
その男は傲慢だった。まるで下の者に否応もなく命令するという態度だった。ドグマ副総督はムッとしたものの、それを押し隠して答えた。
「私は総督府の副総督のドグマだ。総督が不在のため私が責任者だ。その要求についてはマコウ本星と相談してから返答する。それまで待って欲しい。」
「いや、待てない。すぐに返事してもらおう。」
プロム将軍は首を横に振った。そして威嚇するように言った。
「時間稼ぎをしようとしても無駄だ。貴公らがその気ならこちらにも考えがある。力ずくで挑むまでだ。邪魔するならマコウも敵とみなす。大いなる血の雨が降るだろう。」
そこで通信が途切れた。後はいくら宇宙船に呼びかけても返事はない。ロークの軍用宇宙船は徐々に地球に近づいてきている。ドグマ副総督は考え込んだ。このままでは・・・。それは他の幹部の同じだった。会議室にしばらく静まりかえった。
もっともドグマ副総督はウラク星人の心配をしていなかった。彼の心の中は、この事態をうまく処理して本星の幹部の覚えをよくすることだけだった。だからここでの失策は避けねばならない。
やがてその会議室の静寂を破る者があった。それはリカード管理官だった。
「そんな要求を呑む必要はありません。それよりウラク星人のいるゼーフ人工島の警備を固めましょう。さすがにマコウがいれば手出しできないはず。」
だがドグマ総督はそれに賛成しなかった。
「リカード君。相手はローク星人だ。もしものことがあればマコウが巻き込まれる。ウクラ星人難民のために危ない橋を渡れというのかね。もしものことがあればどうする? 君の首だけでは済まない問題だぞ。」
ドグマ副総督はそう言ったものの、よい解決法があるわけではなかった。その会議は休憩をはさみながら、また次の日に持ち越しながらと日ばかりが過ぎていった。
やがてローク星の軍用宇宙船がやって来ることは、総督府の者から漏れてゼーフ人工島のウラク星人の間に知れ渡るようになった。それについて様々な憶測や情報が巷にあふれ、収拾がつかずに島中は大混乱になった。
「ここにいたらローク星人に殺される!」
その噂でウラク星人たちはパニックに陥っていた。そうなる前に彼らは何とか島から脱出しようとした。そのため島の出入り口の検問所の前には多くのウラク星人が長蛇の列を作って並んだ。だが検問所の業務が追い付かず、島から出られる数は少なかった。やがて方針が決まらない総督府の意向を受けて、検問所は閉鎖された。そのためほとんどのウラク星人が島に取り残されてしまった。
この事態に地球代表部も何の手も打てなかった。せめて検問をフリーパスにしてできるだけのウラク星人を救おうとしたが、総督府によって阻止された。ウラク星人を島からやたらに出してローク星人を刺激しないようにと。
大山参事は執務室で腕を組んで考えていた。夜は更けていたが彼にも打つべき手が見つからなかった。ウラク星人たちがこのままでは奴隷として連れ去られてしまうことに・・・。いや、その前に大きな悲劇が起こると・・・。その時、ふと人の気配を感じた。
「半蔵か。」
「悩んでおられるようだな。」
そう声が聞こえて、部屋の片隅から半蔵が現れた。大山参事は小さくため息をついた。
「ウラク星人のことは知っているな。このままではローク星人の思うがままだ。ウラク星人のことを思うとこのまま放ってはおけない。同じ地球に住む者として。」
「同感だ。しかし表立って打つ手がないようだな。」
「そうだ。総督府は方針が決まらないまま、日だけが過ぎている。ローク星人が来るまでにウラク星人を島から出さねば。このままでは多くがローク星人につかまるだろう。」
大山参事はそう言って机の引き出しを嗅ぎで開け、大きなマル秘のついたファイルを取り出して半蔵に渡した。
「これは?」
「ゼーフ人工島やそこに暮らすウラク人について調べた資料だ。それに緊急時の避難の資料もある。地球代表部で秘密裏に集めた貨物船でできるだけのウラク星人を脱出させる。ただし総督府の許可は下りていないから極秘に動く必要がある。君たちが島に潜入するステルスホバーや貨物船は梶山に用意させる。」
ファイルを見て半蔵がうなずいた。
「わかった。引き受けよう。どれくらい日があるのか?」
「多分、1週間だ。一人でも多くのウラク星人を救ってほしい。」
大山参事がそう言うと半蔵の姿は消えた。大山参事は、ふうっと息を吐いて机の上で指を組んだ。
「頼むぞ。半蔵。この地球で大惨事を起こしてならん!」
彼は祈るような気持だった。