第2話 不穏な予感
その頃、大型の軍事宇宙船が地球に近づいていた。それは何とローク星のものだった。その報告を受けた総督府では大騒ぎになっていた。(この地球を侵略しに来たのか!)と。
だが冷静に考えればマコウ星が管理している地球を襲えば、銀河帝圏全体を敵に回すことになり、さすがにそれはあり得ないと思われた。だが非常事態には違いなく、総督府の主な者が会議に招集された。
そこにはドグマ副総督、リカード管理官、サンキン局長をはじめ、マコウの幹部がずらりと並んだ。まず総督府の書記官が宇宙船の映像を出して説明した。
「ローク星の軍事宇宙船です。兵員を多数乗せていると思われます。ただ1隻のみであり、彼らの意図は不明です。」
「何もわからんと言うのかね? それでは対策の立てようもない。マコウ本星には?」
「すでに連絡済みです。しかしいまだに何の返答もありません。」
それを聞いてドグマ副総督は渋い顔をした。そこでリカード管理官が手を挙げて発言した。
「マコウが任されている地球に、事前通告もなくこのような軍事宇宙船を寄越してくるとは考えられぬことです。早速抗議して追い返すのが一番と考えます。」
「だがな、奴らを怒らせたてしまったら・・・」
ドグマ副総督はそれに二の足を踏んだ。もしローク星の機嫌を損ねて攻撃でもされたらたまったものではないと・・・。ここは穏便に事態を収束したいと考えていた。
「マコウは宇宙帝圏の主要惑星です。ローク星の者にもそれはわかっているでしょう。ここで下手に出ると後でつけ込まれることになります。毅然とした態度が肝要かと思います。」
そこまでリカード管理官が発言したとき、会議室に対外担当の書記官が飛び込んできた。
「ローク星の軍事宇宙船の司令官から交信を求めています。」
「なに! そうか! ではつなげ!」
ドグマ副総督は大声を上げた。その場にいる一同は、一体、ローク星が何を要求してくるか、緊張の面持ちでその通信がつながるのを待った。
健はニムダに家に泊めてもらって様々な話を聞いた。それは彼の研究テーマのゼーフ人工島の社会生活に関することが多かったが、そのうちウラク星の話になった。そこは健がいつも聞いているように素晴らしい星だったようだ。それがいきなりローク星の侵略を受けた。ウラク星がローク星を脅かしているという誰かがでっち上げた話のために・・・。
「私は悲しい。あの故郷がローク星人によって踏み荒らされ、我々は失ってしまった・・・」
悲しそうにするニムダに健はかける言葉がなかった。あれからもう10年は経つというのに難民になったウラク星人には心に大きな傷を残していた。
「それから我らウラク星人は宇宙全体に散らばってしまった。それぞれが流れ着いた惑星で生きてはいるがもう故郷に戻ることはできない。それに・・・」
ニムダは声を潜めた。ここから先はあまり他の者に知られぬように、妻さえにも言えぬことのようだった。
「宇宙に散らばる同胞から得た情報だが、ローク星の奴らが流れついたウラク星難民が住みついた惑星に行っては、力づくで連れ帰っているようだ。噂では労働力、いや奴隷として使うためと言われている。」
「そんなことが・・・」
健は絶句した。ニムダの顔は暗かった。
「ローク星の奴らならやりかねない。もしこの地球に着たらと思うと、私は不安でたまらない・・・こんなことはパニックになるから誰にも言えないが・・・」
ニムダは唇をかみしめた。それは自分一人に胸にしまいたかったことだが、誰か信用できる者に聞いて欲しかったようだ。
「そんなことはさせないはず。ここはマコウ人が保護している惑星だ。いや、たとえマコウ人が君たちを売ろうと地球人は決してそれを許しはしない!」
健は思わずそう言った。だがそれは健の願望だった。こんな非道なことを許してはいけないと・・・。
「ありがとう。君がそう言ってくれるだけで救われた気がする。」
ニムダの顔が少し明るくなった。