私は悪役令嬢だそうなので、従兄弟が助けてくれました

私の知らないところで話が進んでいましたわ。

私は公爵家序列第一位アルトワ家の長女、ソフィーと申します。我らがユーバーリーファルング国の王太子、レアンドル様の婚約者です。私とレン様は仲睦まじく、お似合いの二人として皆から憧れを集めていました。ですが最近、貴族学園に入学してからレン様の様子がおかしくなりました。

私とお話している時に、目を合わせてくれません。それなのに、何かある時は必要以上に優しくなりました。…その原因はすぐにわかりました。レン様は浮気をしていたのです。相手は男爵令嬢のポーラ・ギーズさん。結婚前に火遊びだなんて、レン様らしくはないけれど意外な一面を見られたわ。

もちろん私は、そんなレン様を怒ったりはしません。気付かないふりをします。レン様の口説き文句を本気にしているポーラさんには悪いけれど、レン様は浮気相手に本気になるほど馬鹿ではない。だから、大丈夫。

ー…

入学してから早二年と数ヶ月。もうすぐ貴族学園からの卒業が近いというのに、レン様はポーラさんとの縁を切ろうとなさらない。それどころか、私のことを邪険にするようになった。

…ポーラさんと関わるようになってからレン様は変わってしまわれた。いつも常に微笑みを絶やさない、完璧な王太子であったのに、彼女と浮気をしてからは感情を表に出すことが増えた。ポーラさんと一緒にいる時はとびきり甘い笑顔を。私を見かけたら苦虫を噛み潰したような表情を。

レン様を取り戻すには、ポーラさんに消えてもらう必要があるだろう。ただ、いきなり殺すのは可哀想だから最初は警告するだけにしてあげよう。

ー…

私は、ポーラさんの周りの人間を買収して、彼女に嫌がらせをするように頼んだ。嫌がらせの内容は任せた。

それでも、彼女がレン様の側を離れることはなかった。むしろ、レン様の側で守られていた。

なんで、なんであんな娘が。レン様の寵愛を得られるのよ。

私はレン様に相応しくある為に努力した。文字通り血を吐くほどの努力を。王太子妃教育も頑張って、見た目にも気を遣った。毒に慣らされるための訓練だって耐え抜いた。魔法の訓練も頑張った。

一方のポーラさんは、見た目だって普通に可愛い程度。魔法も少ししか使えない。教養だって私よりあるはずがない。毒に耐性もないからすぐに暗殺されるだろう。そんな平凡な娘に私が負ける？レン様を取られる？

そんなこと、あっていいはずがないじゃない。

ー…

「ソフィー」

「レン様！」

レン様が久し振りに私を訪ねてきてくれた。嬉しくてすぐに駆け寄る。レン様は人のいない場所で話をしようと言った。私は素直に応じる。

「うん。ここなら人気もないし大丈夫だろう」

「レン様？…！」

私はいきなりレン様に頬を打たれた。何故？

「もうポーラへの虐めはやめろ。君がこんな女だとは思っていなかった。残念だ。しばらく学園から出て実家で反省していろ。どうせもう単位は取れていてあとは卒業するだけなんだろう？」

「…！」

「君の虐めの件は父上に話して、僕との婚約は解消させてもらうからな。話はそれだけだ」

レン様は踵を返して立ち去ってしまう。私は止めようとしても勝手に溢れてくる涙を拭うので精一杯だった。

ー…

レン様の言うとおり、単位は取っておりあとは卒業するだけなので、実家で休むことにした。荷物を持って実家に帰る。するとちょうど従兄のリュシアン従兄様が来ていた。

「やあ、私の可愛いお姫様。久しぶりだね。…どうかしたのかな？」

お父様とお母様とリュシアン従兄様をみたら、安心してまた涙が溢れてきた。

「ソフィー？大丈夫かい？こっちにおいで」

リュシアン従兄様は小さな頃のように私を抱きしめてあやしてくれます。

「しばらく背中をポンポンしてあげよう。ソフィーはこれが好きだろう？」

リュシアン従兄様の腕の中で私は安堵して、そのまま泣きじゃくって眠ってしまいました。

ー…

「おはよう、私の可愛いお姫様」

目が覚めると、自室のベッドの上でした。

「一緒に学園までついて行った侍女に大体の話は聞いたよ。辛かったね。今は屋敷から出る必要もないし、好きなだけゆっくりするといい」

リュシアン従兄様はやっぱり優しい。

「僕が解決しておいてあげるからね」

そういって頭を撫でてくれるリュシアン従兄様は、どこか暗い表情を浮かべていた。

ー…

学園の友達から手紙が届いた。私は一歩も屋敷から出なかったから知らなかったが、どうやらポーラさんとレン様が性病にかかったらしい。

なんでも、ポーラさんがイケメンの元男娼に入れ込んでエッチなことをする仲にまで発展し、その男娼は実は性病にかかっていたため移されたとか。その後男娼は雲隠れしたらしい。そして、その状態でレン様ともエッチをして…ということらしい。

レン様はまだ治療法もわかっていない性病にかかってしまったため、王太子の地位を剥奪され離宮に閉じ込められたとか。第二王子殿下が王太子となられた。

もちろん王家はこのことを隠蔽しようとしてポーラさんとそのご家族を適当な罪をでっち上げて処刑したものの、その頃には既に噂になっていて後の祭りだったとか。

そして私とレン様との婚約は白紙となった。新しい私の婚約者はなんとリュシアン従兄様だ。

「リュシアン従兄様」

「婚約したのだし、従兄様はいらないよ」

「リュシアン様」

「なにかな？私の可愛いお姫様」

「もしかして、ポーラさんに男娼をあてがったのって…」

リュシアン様が私の目を塞ぐ。

「そんなことはお姫様が気にすることじゃないよ」

…ならば私も気にしないことにしよう。

「はい、リュシアン様」

「ふふ、素直で可愛い」

こうして私は意図せず仕返しが出来、幸せになれたのでした。