第6話 決戦
ゼウスは月面基地から離れた宇宙域に大編隊を展開して火星同盟軍の軍勢を待ち構えていた。
同盟軍は小惑星フォボスを中央に据え、戦艦と戦闘機がフォボス星の側面を取り囲むようにして接近していた。
ヘカトンケイルと呼ばれる小惑星移動装置がフォボス星の至る所に張りついていた。
ゼウスが指揮するキュクロプス戦艦の艦員たちは彼らに迫ってくるフォボス星を呆然と見ていた。
月面基地の情報部隊員がゼウスに伝えた。
「司令、フォボスは依然として月への軌道を進んでいます。どうやら本気のようですね」
ゼウスはフォボス星をにらんだ。
「あれを月にぶつけるつもりでいるのか。ハデスめ…正気とは思えん」
ゼウスは全艦隊に指示を飛ばした。
「総員に告ぐ。ただちに戦闘準備にかかれ。フォボスの両翼を引きはがしつつ小惑星移動装置を破壊せよ!」
アレスとアプロディテとヘルメスはクロノスが長年かけて開発していたテュポン戦闘機に乗って地球圏へと向かっていた。
アレスは操縦席に座り、アプロディテは副操縦席に座っていた。
ヘルメスはアレスの後ろからレーダーを眺めていた。
「すごいや。もうすぐ地球に着いちゃうよ。じいちゃんがこんなもの作ってたなんて全然知らなかったな」
アプロディテはヘルメスを指差した。
「あんたは後ろで大人しくしてなさい!」
「はは、撃墜されちゃったらどこにいても同じじゃない」
「あんたねえ…少しは緊張感を持ちなさいよ。チャンスは一度きりしかないんだからね!」
「へいへい、分かってますよ。邪魔だけはしないから安心してよ」
連合軍は苦戦を強いられていたが徐々に主導権を握りつつあった。
ゼウス艦隊はヘカトンケイル小惑星移動装置を破壊しつつフォボス星の軌道を月から逸らすために艦隊の火力をその星に向けて放っていた。
同盟軍のエレボス戦闘機がフォボス星の内部から突如として次々と現れゼウス艦隊に襲いかかった。
キュクロプス戦艦の艦員がゼウスに伝えた。
「司令、へパイストス隊長から救援信号が届いています!」
へパイストスがモニターに映し出されゼウスに呼びかけた。
「おおい! ギガス共が星の中からうじゃうじゃと湧いて出てきやがったぜ!」
「分かった。至急、増援を送る」
月面基地の情報部隊員がゼウスに伝えた。
「司令、また別の小惑星が現れました!」
「何だと!?」
「地球圏のレーダーに引っかからないようにかなり大周りしてきたようです! おそらく火星のもう一つの衛星ダイモスと思われます!」
「進路は…!?」
「今、正確な軌道を計算していますが…どうやら地球に向かっているようです!」
ゼウスは頭を押さえた。
「フォボスは囮でもあった訳か」
「地球から艦隊を向かわせますか!?」
「もちろんだ。地球に待機させてある全艦隊を出撃させろ!」
「了解!」
キュクロプス戦艦の艦員がゼウスに伝えた。
「司令、所属不明の艦船が本艦への交信を求めています。どうやら火星方面から地球圏に向かっているようです」
「民間人か…?」
「は、それがアレス元隊長の名を語っておりまして…」
ゼウスは艦長席から立ち上がった。
「すぐにつないでくれ!」
「は…はい!」
アレスとアプロディテとヘルメスがモニターに映し出された。
へパイストスがモニターを食い入るように見つめて目を血走らせた。
「ア、アレス…何でお前たちが!?」
アレスはゼウスに言った。
「父さん、ダイモスは俺が沈める。地球の艦隊は待機させてくれ」
「アレス…やれるのか?」
「そのためにわざわざ火星にまで行かせたんだろ?」
アレスとゼウスは笑みを浮かべた。
ゼウスはアレスに言った。
「分かった。ダイモスはお前に任せよう。任務を終えたらただちに報告しろ」
「了解」
「幸運を祈る」
アレスとゼウスの交信が途絶えるとヘパイストスは戦線を離脱して全速力で地球圏へと向かった。
「死に損ないがいい気になるなよ…!」