第3話 出立
アレスとアプロディテは宇宙エレベーターに乗っていた。
アレスは自動車椅子から立ち上がりアプロディテに支えられて眼下に広がる地球を眺めていた。
アプロディテは宇宙ステーションに到着するとサングラスを外して周囲を伺った。
宇宙ステーションは閑散としていた。
地球連合軍の軍人たちが駅員に代わってそこに滞在し宇宙を監視していた。
ポセイドンはアレスとアプロディテを見つけると大声で呼びかけ手を振った。
「おうい、こっちだ!」
アレスとアプロディテと軍人たちはその声に驚いてポセイドンを振り返った。
アレスとアプロディテとポセイドンはトリトン小型旅客機に乗って火星へと旅立った。
アプロディテは旅客室で宇宙の景色を眺めていた。
ポセイドンは操縦席に座って煙草を吹かしていた。
アレスは副操縦席に座って最後に戦闘機に乗っていた日の事を語っていた。
アレスは月面に落ちる直前にかろうじて戦闘機から脱出したが地面に強く叩きつけられ重傷を負った。
生命は取り止めたが両足の自由を失った。
今では松葉杖を突いて何とか歩けるようになるまでに回復したがパイロットとして再び戦うには身体が傷みすぎていた。
「医者は歩けるようになっただけでも奇跡だと言っていましたよ」
アレスがそう言うとポセイドンは深くうなずいた。
「きっとそうだろう。デルポイの病院で初めてお前に会った時は目も当てられないくらいだったからな。命があっただけでも儲けものってもんだろう」
ポセイドンは煙を吐き出した
「お前は月面防衛隊の英雄だ。若い者の中にはお前の事を軍神だと言って崇めてる奴までおる」
アレスは腕を頭の後ろに回して笑った。
ポセイドンは煙草を灰皿に押し付けて笑みを浮かべた。
「まあ、軍神は言いすぎだわな。だが、わしもゼウスもお前のことを誇りに思っとる。それだけは忘れるなよ」
アプロディテが操縦室のドアを開けた。
「ねえ、まだ着かないの?」
ポセイドンはアプロディテを振り返った。
「ん、ああ…あと小一時間ってとこか」
「ほんとに…火星になんか行ってどうするつもりなの?」
「それは着いてからのお楽しみだな」
アプロディテは舌を出した。
「何よ、けちなおっさんね」
「わはは!」
アプロディテは操縦室を眺め回した。
ポセイドンは身を乗り出してアレスに小声でにやけながら言った。
「おい…それにしても良い女だな。いったいどこで知り合ったんだ?」
「オリンピアの病院ですよ」
「そうか。お前もそろそろ身を固めたらどうだ。いや、しかしあんな気が強いのを奥さんにしたら尻に敷かれるな」
アプロディテは二人の後ろに立って腰に手を当てた。
「ちょっと、二人で何こそこそと話してんの?」
ポセイドンはとぼけた顔で咳払いをした。
「いや、今後の為になる話をな」
「へえ、私も聞かせてもらっていいかしら」
「いやいや…お前さんには教えられんことも色々とあるんだよ」
アプロディテはポセイドンに顔を近づけて問い詰めていた。
アレスは笑みを浮かべ窓の外に広がる星々を眺めた。
一行は火星にたどり着いた。
テラフォーミング装置が火星の軌道上を回っていた。