邪智暴虐のクマ公
拝啓、お母さんお父さん。
僕は今、異世界にいます。そこでチートを使って世界を救う予定になっていましたが、あいにく私の異世界生活は波瀾万丈どころか地獄絵面を超えて般若心経を唱えていないとすぐにお迎えが来てしまうレベルになってしまいました。
この手紙を読んでいる頃には、きっと私は異世界で必死に生きていると思います。
けれども安心してください、私を異世界に連れて行った神様にお願いしその分のアフターケアとしてお母さんとお父さんになにか贈り物をしてくれるそうです。
きっと、今後の2人の生活を豊かなものにしてくれるに違いありません。
それでは、お元気で。敬具
「いやぁ、まいったなこりゃ。」
みなさん!おはようございます!こんばんわの人もいるのかな?
先日異世界に転移してきたハルカと申します、ハルカって名前で女の子だと思ったあなた!
残念無念!俺は男です。
先日、異世界を救って欲しいと神様に言われてただ今異世界生活二日目を迎えているのですが。
予定していたチートは無く、神様とは連絡が取れません!
なんてこったよ、パンナコッタまで言ったら寒すぎるからやめとこ。
「しかし、この森深くね?」
独り言でも言ってないとやってられないぜ!
って感じなんですよね今。
はぁ、身体能力向上・魔力無限・全属性使用可能・聖剣エクスキャリバー保持とかさまざまなチートを携え世界を救い。
地球に戻って余生を過ごすと言うハイパーハルカ計画が・・・、なんの因果か身体能力現状維持・魔力がそもそもあるのか不明・全属性?うまいの?・聖剣ひのきのぼう。
これ、つんでね?
やばくね?
俺死ぬの?
いやね、何を隠そうさっきからさ。
すげぇバケモンが俺の目の前で涎を垂らしてるわけよ、すげぇ長い現実逃避だと思わん?
俺も思うね。
「とりあえずなんだけどね?ハ、ハロー?」
一瞬の間が開き、目の前の化け物の姿勢が前屈みになった。
「や、やばくね?」
「グルゥァァァァァっ!!」
その前屈みな前傾姿勢から繰り出された砲弾のような突撃と、全てを喰らってやると言う意志を感じる咆哮。
ハルカはその場を横っ飛びで転がり込むことでなんとか回避する。
「あ、あぶな!!いやいやいやいや!無理ゲーだろ!」
危険を承知で立ち向かうと言う選択肢はこの時に消え去った、ハルカはとにかくこの場から逃げ目の前の化け物から距離を取ろうとする。
しかし、化け物の身体は四足歩行の時点で3メーターはある大型のケモノ。
その体躯は熊のような毛をしていて、体型は虎のようだが。尻尾や耳を見る限りクマに近いのではなかろうか?
「がぁぁぁぁ!!」
短く唸りを上げて突撃してくるクマもどきにハルカはただ逃げるしか行動を取れなかった、聖剣ひのきのぼうでは1秒ともたずハルカはクマもどきの腹の中に収まるのは目に見えているから。
ハルカは走った、かの暴虐邪智のクマ公を背に。
必ずハルカンティウスの命を守るために、ハルカは走り続けた。
「いやぁぁぁぁぉぁ!!!」
いやさ、もう必死だよね。
俺死んじゃうよね。
なんてことをもう何回思いながら走っただろう、ふと何でまだ何もされていないのだろうと後ろを振り返ると。
もうそこにクマ公はいなかった。
ハルカは走り続けて朦朧とする意識の中、安堵し気絶するように倒れたのであった。