おねぇ殿下の暇つぶし
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「エレノア・フーシェ! 貴女の悪事は全てお見通しだ!」
美しく整った顔を歪めて、侯爵令嬢エレノアを見据えた王子は言葉を放った。王子の背後には、チラチラ様子を窺うピンクのドレスの乙女。
「……殿下、私の悪事とは一体何の事でしょうか?」
「ほう、知らぬというのか……。」
スン――……っと、表情の抜け落ちた王子殿下。
冷ややかな瞳で私を見た後、殿下の袖をギュッと掴んだ乙女と視線を交わす。
ふうっ……と、呆れるような溜息を吐き、殿下は取り巻き達に合図を送った。
殿下の側近や、近衛達に囲まれた。
気迫の凄さに圧倒され、ペタリと座りこむ。
すると、皆一斉に……土下座した。
「「「エレノア様、どうにかして下さいっ!」」」
エレノアは戸惑い、目に涙を浮かべる。
「……チッ!」
思いっきり、舌打ちが聞こえてきた。
王子の背後から、ツカツカとヒールを鳴らしてピンクドレスの乙女がやって来ると、土下座中の近衛の背中を踏みつけた。
「ちょっとぉ〜!あなた達、ちゃんとシナリオ通りにやりなさいよねぇ!」
189センチの、フリルたっぷりピンクのドレス姿の王太子殿下は、プリプリ怒る。
「兄上、もう勘弁して下さい。エレノア嬢も、兄上に付き合わなくていいですから……。」
エレノアに近付き、スッと手を差し出す王子。
それを、王太子はペシっと叩いて、エレノアを抱きかかえる。
「エレノアちゃんは、私の婚約者だからね! 弟でも触らせてあげないわぁ。」
エレノアの涙を拭い、お姫様抱っこをした王太子は不敵に笑う。
こんなでも、乙女な王太子は敵国から自国を護り抜いた剣豪で、最前線で戦った軍の総指揮者だった。
そして、この国は平和になった。
国の為に尽くした王太子は時間を持て余し、自分の心に素直に生きる事を決めたのだ。
「ねぇ、エレノアちゃん。」
「何でしょう、殿下?」
「次の政策が通ったら、今度は聖女と勇者ごっこしない?」
「まあ!楽しそう。私が勇者をやりますね!」
「じゃあ、私は聖女風のドレスを用意しなくちゃねっ。」
お姫様抱っこのまま、二人は大広間を出て行った。
天才的に国を潤すバカップルを見送り、広間に残された全員の思いは一緒だった。
『確かに平和は最高だけど、次は聖女かぁぁぁぁ!!』
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