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きみにとって  作者: つんく
9/10

旅の終わり。始まり。

 朝日が窓から差し込み、俺は目を覚ました。


 手際よく身支度を終え、目的地までのルートを確認する。



 「よし、行くか…」



 いよいよ目的地を目指す。


 バス1本で行けるため、最寄りのバス停に向かう。バスの標識を確認しつつ、バスに乗り込む。



 (そういや、どうやって乗るんだ…? 日本と同じなのか…?)



 俺の前に乗りこんだ人が運転手になにか言っている。次に運転手は俺を見る。



 (何言ったんだ…? 目的地…?)



 とりあえず発音もよく分からないので漢字なら伝わると信じ、冊子に書かれた文字を指さしてみる。どうやら目的地を言うので合っていたらしい。



 「ふぅ…。」



 とりあえず席に座る。中は日本のバスとさほど変わらない。バスが出発する。


 どうやら目的地までは割と時間がかかるらしい。



 しばらくバスに揺られると、あることに気付く。日本だと、停留所を出発するときに次の停留所の名前が読まれ、近づくと再びアナウンスをしてくれる。


 だが、台湾のバスは停留所に着く前に車内アナウンスがされない。それどころか車内に目的地が示されていない。



 (え、今どこ…??)



 バス停を窓から目視で確認する。なんとか確認した停留所の名前から、目的地はまだまだ先のようだ。



 (こりゃやべえ…。いつ通り過ぎるかわからねぇ…。)



 それからどきどきしながら停留所を確認していった。だが、幸運にも観光スポットだからというのもあって同じ場所で降りる観光客がたくさんいた。俺はその流れにのって、無事に目的地へ到着した。



 (ここが…。)



 まさに目の前には、夢の中で見た景色とほとんど変わらない場所があった。赤いちょうちんが連なり、なにかを調理しているにおいもする。



 とりあえずそこを通っていく。多くの人たちが行き交い、活気に溢れている。



 食べ物を買って食べてみる。やはり日本人の口にも合っておいしい。


 ふと、夢の中で見た景色を思い出した。



 (ここ一緒に歩いたなぁ…夢の中だけど…。一緒に来てみたいな…。)





 石段をのぼっていき、開けた場所へ出た。周りを見渡すと、荘厳な山々を見ることができた。



 「うわ、すげぇ…。」



 彼女と一緒に見ていた…。夢の中だったけど。

目の前がかすんでくる。



 (ん…?)



 俺は泣いていた。悲しいのだろうか。そんな単純な気持ちではない、とても複雑で心がじんわりと温まる不思議な感覚。



 今までの、なんでもなかった自分の人生、終わらせようかなとも思っていたそんな人生。


 あのとき終わらせていたら、彼女も、この景色も、この不思議な感覚も知ることができなかったのか…。



 俺は初めて心の底から、生きててよかったなと感じた。


 温故知新という言葉がある。昔のことを振り返り、新しいことへ繋げる。まさに彼女と出会ってから、そんな時間を過ごした気がする。



 気分が落ち込み、視野が狭くなり、生きる目的も見失っていた俺を、昔遊んでいた場所へ連れ出し、夢で行ったことも無い新しい場所に連れていってくれた。


 そして今、俺は今まで閉じこもって失っていた勇気を出し、来たことも無い海外で見たことも無い壮大な景色を見て涙している。



 「ありがとう…。俺、自分のやりたいこと見つけたよ。周りの目なんか気にせずに、駆け出してみるよ。ありがとう…。」



 そう呟いた。そこに彼女はいなかった。だが、心は満たされていた。今まで思い詰めて溜まっていた何かが、涙に洗い流されるようだった。



 こうして俺のちょっとした冒険は静かに幕を下ろした。





 無事、俺は日本へと帰ってきた。一応彼女の分もお土産を買って帰る。もしかしたら会えるかもしれないからだ。



 家に着く。母親が出迎えてくれた。



 「おかえり。」



 「ただいま。」



 ただ、どうやら俺の表情がいつもとは少し違っていたらしい。



 「なにかいいことでもあった…?」



 母親に突然そんなことを聞かれた。俺は答えた。



 「うん。いいことあったよ。またいつか話すよ。」



 「そっか。よかったね。」





 俺は自室へと戻った。荷物の整理が大変だ。



 お土産を1ヶ所に集め、友達の分、家の分、そして彼女の分に分けた。彼女にはもしも会えたら渡す、会えなければ自分用にすることにしていた。正直、あまり期待していない。



 「疲れた…。でも、よかった…。」



 ベッドに横たわり、そう呟くと、俺はいつの間にか眠っていた。





 翌日。学生最後の夏休みの終わりも秒読みとなっていた。


 俺は彼女分のお土産を手に、いつものコースを歩く。やはりいない。



 (まあ、そっか…。)



 最後にいつもの場所へ向かう。相変わらず誰もいない。風の音、木々が揺さぶられる音が俺を迎えてくれた。



 「ただいま…。」



 いつもの開けた場所で、住宅街を眺める。



 (見る景色が違うと、感じるものも全然ちがうなぁ…)



 そう思いながら目を閉じる。風が吹き抜け、俺を優しくなでる。とても気持ちがいい。



 「またここ来てたんだ。」



 「え…?」



 目を開けると、そこには彼女がいた。

ついに再会できましたね…。


次回がたぶん最後になります。

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