そして、寂しい
彼女は一体どこへ行くのだろうか…。
俺は彼女と行き先を話し合うでもなく、いつもの小高い山を下っていく。
俺が住んでいる場所は都会から離れた、いわゆるベッドタウンで、住宅がひしめき合っている。大学も少し離れた場所にあり、授業に合わせて交通機関を乗り継ぎ向かう毎日を送ってきた。
彼女と肩を並べ、とぼとぼと住宅地を歩いていく。
辺りからは、夏休みだからだろう、昼過ぎだということもあり子供たちのはしゃぐ声が聞こえる。
(そういえば俺も、そのはしゃぐ声を持っていたな…)
そんなことを思いながら住宅地を歩く。
テレビの音が外に漏れている家もあった。窓を開けているのだろう。
(俺の家はすぐエアコンつけるのによくやるな…笑)
歩き続けると、だんだんと周りが騒がしくなってきた。セミの鳴き声だ。そういえば、夏って騒がしかったんだっけ…。
ふとセミの鳴き声がする場所を探すと、そこには公園があった。昔よく友達と遊んでた。
小さな子たちが、まるで当時の自分を演じるように楽しげな声を発しながら走り回っている。
「公園行ってみない?」
久々に聞いた彼女の声でふと我に返った。
「え、公園? うん、行ってみようか。」
公園へ足を踏み入れ地面を踏む度に、どこか懐かしい、ざっざっという音がはっきり奏でられる。触感もどこか懐かしい。
この公園はいつからあるのだろうか。
少なくとも俺が使っていたころとほとんど変わっていない。公園のにおいも同じ。忘れていた思い出が五感を通してうっすらと思い出される。
「うわー! ブランコ懐かしい! ちょっと座りたい!」
彼女が幼い女の子のようにはしゃいでいる。
「ブランコか…懐かしいな。行ってみようか。」
夏だからだろう、ブランコはすっかり熱くなっていた。子供たちが遊ばないのも納得できる。
2人でブランコに座ると、俺はぼーっと走り回る子供たちを見ていた。まだ自分たちの先のことなんて知らない、いや気にしないその子供たちは、今したいことを無我夢中でやっている。とても眩しく、羨ましかった。
「この公園、懐かしいね。よくここで遊んでたんだ。だいたいここに来れば友達が先に来てて、遊んでたよね。」
彼女にそう言われ、ふと昔のことを思い出す。
「そうだね、俺も定番の場所だったよ。毎日来てた。」
「やっぱそうだよね笑。」
「てことはここら辺の人なの?」
「うん、そうそう。もしかしたらこの公園で知らないうちに会ってるかもね。」
そんな他愛のない会話を彼女とする。彼女に年齢を聞かれたので答えると同い年らしい。ほんとにここで会ったことがあるのかもな…、そんなことを思った。
俺は生まれも育ちもずっとここだ。ここら辺で通うといえばここだろうと学校の検討もつく。ただ彼女は学校名は教えてくれなかった。なにか言いたくない理由があるのだろうと、気遣って詮索はしなかった。
気づくと先ほどまで目の前ではしゃいでいた子供たちの姿はない。スマホを見ると1時間以上ここで喋っていたらしい。
時は金なりということわざがあるが、こんなに楽しい時間を過ごしたのはいつぶりだろうか。金でまたこんな時間が手に入るなら使いたい、心からそう思えた。
「あの子たち、いつの間にか帰っちゃったね。私たちもそろそろ帰ろっか。」
「そうですね。」
本当は嫌だった。だけど彼女にも予定があるのかもしれない。だが、もう会えないかもしれないという不安を感じた。そこで彼女に思い切って連絡先を聞いてみた。
「連絡先? ごめん、今ケータイ持ってない…。でもまた会えると思うけどね。同じ住宅地に住んでるんだし。」
「たしかに、そうだよね。ごめんね突然。」
彼女が微笑む。また会える、会えるよね。
そう自分に言い聞かせ、公園で別れた。
「またねー!」
「うん、今日はありがとう。」
公園を出てお互い反対方向に歩き出す。歩を進めるにつれ、お互いに離れていくことに少し寂しさを感じ後ろを振り返ると、彼女の姿はもうそこにはなかった。
誰もいなくなった公園で、セミの鳴き声だけが寂しく響き渡っていた。




