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きみにとって  作者: つんく
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どん底の景色


 「自殺しようか…」



 俺はふとそんなことを呟いた。


 俺は今大学4年生、なんとなくここまで進学してきた。



 晴れて大学生になったが、振り返ってみると結局なにも成し遂げたことなんかない。授業を受け、なんとなくバイトをして、テストが近いからなんとなく勉強してきた。



 友達は少なかった。同じ3人くらいと毎日つるんで喋ったり、ゲームやアニメの話で少し盛り上がるくらい。



 正直、もう一度大学生活をやり直したいと思うくらい臆病でなにもやってこなかった。ただ毎日を同じように過ごしてた。



 そして社会人の一歩手前まで来ると、いきなり現実を突きつけられた。周りの友達はその現実を飲み込み、変わり、スーツに身をまとい、ほとんど会うこともなくなってしまった。



 俺もしょうがないから同じような黒い服を見にまとい、色んな場所を訪れ、眠い目をこすり、正直どうでもいい話を聞きまくって帰宅する、そんな生活を送った。



 SNSを見ると、友達が喜んでる。



 (就職先決まったんだ…)



 もう何度目だろう、このなんとも言えない感情は…。


 自分がこの世界から不要な人間だ、なんで存在してるの?と問われているような感覚に陥ってしまう。突然、目の前のレールが消えたような不思議で不愉快な感じ。



 気晴らしに大学行ってみるか…


 そういって大学に行ってみても気晴らしなんかにはならない。友達が満面の笑みではしゃいでる。そして俺を見ると聞きなれた声でいつもの挨拶を交わし、必ずこう聞いてきた。



 「どう…?」



 (どう?ってまあそういうことだろうな…)



 「いや、まだ…笑。厳しいなー笑」



 そう明るく振る舞うと友達は皆、申し訳なさそうに静かになり、離れていく。



 俺はなんのためにここまで生きてきたのだろう。俺は結局なにがしたいのだろう。俺はなんなんだろう…。



 そんな複雑な思いが積もり積もって、自分の存在にさえ疑問を抱いた。そして今俺は、自宅でぽつりと呟いた。「自殺しようか…」と。





 もう季節は夏。もう内定決まってる人が増えてくる、そんな時期。


 俺はつまり、一応、学生最後の夏を過ごしてる。



 (就職活動のモチベーションもないし、家にいても何もする気力もないし、外でも歩くか。)



 外の空気は蒸し暑く、以前なら不快だっただろうが今はそれもどうでもいい。空腹もそこまで感じない。





 俺は団地に住んでいて、近くには小高い山がある。小学生くらいの時期はよく探検して遊んでいた、住宅地が見下ろせる場所。


 中学生、高校生のときもたまに来て、住宅地を見下ろしながら気分転換してた場所。



 (行く宛てもないし、とりあえずそこ行ってみるか。)



 そう思い、久々に“思い出の場所”にやってきた。



 (ここは何も変わらないな。俺だけ変わったな…。)



 地面に腰を下ろし、ぼんやりと住宅地を見下ろしながらなにか考えるでもなく、ただぼーっとしている。昔からそうだった。





 ここに来はじめたのは小学生のとき、たまたま見つけてから。


 小学生のときなんてなんの悩みもないだろうと思うかもしれないが、1つだけとても衝撃的な出来事があった。


 同級生の女の子が身を投げたのだ。そのときの情景は今でも脳裏に焼き付いて離れない。



 俺は高いところが好きで、よくこっそりと学校の屋上に来ては寝たり、周りを見渡したりしていた。そこから彼女は身を投げたのだ。



 彼女が身を投げる瞬間、俺はたまたま屋上を訪れた。彼女はすでにバランスを崩しており、助けようと思って走り出し、叫んだがどうやっても間に合わなかった。


 そして脳裏に焼き付いたのは、彼女が悲しげにこちらを見ていた情景だ。


 その出来事はトラウマで、そのときの感情や言葉なんかは何も覚えておらず、ただ無音のその情景だけ記憶に残っている。



 この出来事がきっかけで精神的にダメージを負い、ふらふらと何かを探すように歩くうちに、たまたまこの場所を見つけた。


 この場所から見た住宅地は、自分をちっぽけに感じさせてくれて、そのトラウマから自分を救ってくれた大切な場所だ。



 「自殺しようか…。」



 そう呟いたとき、ふと、彼女は小学生にしてそこまで追い詰められ、悩み、苦しんでいたのかと思うと、その無音の情景とともに胸が締め付けられる。





 俺は目を閉じて、吹いてくる風を感じながら頭を空っぽにする。


 そんなとき、不意に声がした。



 「あの、突然ごめんなさい、ちょっと気になっちゃって話しかけちゃいました。」



 声のほうへ目を向けると、そこには少し幼さの残る、けれども大人な装いをした女性が立っていた。



 「そうなんですか笑。何が気になったんですか?」



 その女性はこちらに少し歩み寄りながらこう言った。



 「もしかして、自殺しようと思ってるのかなって」



 まさか自分の考えを言い当てられるとは思ってなかった。一瞬時が止まったように感じた。



 「どうしてそう思うんですか?」



 「私、人の気持ちとか考えって顔見たらだいたい分かるんです。それに、私も同じような経験ありますから尚更わかります。」



 俺はこの言葉を聞いた瞬間、内に溜め込んでいた、誰にも言えない苦しみをこの人なら受け止めてくれるのではないかと思った。



 そして、自分がなぜそう考えているのか彼女に喋った。彼女は俺の横に座り、同じように住宅地を見下ろしながら、「うん、うん、」と親身になって全てを聞いてくれた。



 不思議なことに、同じような経験をしていると分かっただけで、口から出すことが辛かったことが、まるでダムが崩壊したように止めどなく溢れた。そして俺は泣いていた。彼女も、泣いていた。





 全てを話し終えたら、少し気分が楽になった。口から出すって大切なのかもな、そう思った。



 「なんであなたが泣いてるの?」



 彼女にそう聞くと、彼女は涙を拭いながらこう答えた。



 「痛いほどあなたの気持ちがわかるから…。」



 俺はそんな言葉をかけられるとは思ってなかった。彼女に返す言葉は見つけられなかった。



 しばらくの沈黙。木々の葉が風に揺られ、ざわざわと音を奏でる。不思議と心地良い。



 ふと彼女は立ち上がると、こちらに振り返り沈黙を破った。



 「どこか、行きませんか。」



 「どこかって…何するんですか」



 「知らないけど、ここにずっといてもつまらないかなって。」



 まあ、たしかに。俺はとくになにをしたいわけでもなかったが、ここにずっといるよりはマシかなと思い、彼女と“どこか”に行くことにした。

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