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超弩級彼女ヘカトンケイル  作者: ウミノサチ
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1-1.すべての素材が愛おしい

「オズワルド!珍しく遅えじゃねえか」

「すみません、ジャンク」

「寝坊か?それともカミさんに惚気てたのか?」

「まあそんなもんですよ」

 言うねえと声量の大きい若店主は椅子替わりの樽を転がしてきた。



 自宅を出て、メインマーケットとは反対方向に路地を抜ければ、行きつけの店がある。といっても食堂や酒場という行きつけではなく、あくまでも職業柄での行きつけだ。所謂得意先である。

 所狭しと並ぶ工房通りに一際目立つ一本の巨木。それがこの店、素材工房〈ジャンク・ド・ジャンク〉の目印だ。そしてそれを営むのが若店主のジャンク。懐が広く気さくで、細かいことは気にしない男の中の男のような性格。だが素材を前にすればたちまち人が変わる。眼光に鋭さが帯び、拡大鏡に頼らずとも並べられた素材の良し悪しを測り始める。

 この日も、オズワルドが持ち込んできた素材に身を乗り出しては、その眼は爛々と輝いていた。


「アイスドラゴンの鱗に、ヒールボアの踵。それから」

「こっちはアメギライガエルの真皮かい?えらく通なモン仕入れてきたな。というか、よくお前こんなん捌けるな」

「そうです?駆け出しのハンターでも、それこそ俺でも倒せそうな魔獣だと思いましたけど」

「腕の話じゃなくだな…アメギライガエルの皮なんて誰も剝ぎ取りたがらねえって話だ」

「素材を選ぶようでは、俺も解体屋やっていませんよ」


 オズワルド・マクスウェルは解体屋である。


 と言っても、街の外に出て魔獣を狩るハンターではない。まして巨大魚や食肉を切り分けるパフォーマーでもなければ、人体をバラバラにする狂人でもない。

 オズワルドは、魔獣専門の解体屋だ。主にハンターや討伐隊に同行し、彼らが倒した魔獣から牙や爪や鬣や、時には肉体を切り開いて心臓を取り出したり、毛や肉片の後処理をした後に骨のみを取り出したり――とにかくそう言った素材を取り出し提供する専門の職業である。ハンターの中には解体のいろはを技術として備えている者もいるが、大抵は解体屋に依頼が来るのだ。おかげで、魔獣の体を解体するだけでこうして今日も飯にありつけているのである。


「マクスウェルの解体はこの街随一ってな。いつぞやに聞いてきた依頼主の無茶振りにも応えやがったときは、この俺も目を疑ったぜ。なあ?まさか――『脳と眼球を神経系が繋がったまま納めてくる』解体屋がいるなんて思わねえだろう」

「あれは流石に苦労しましたね。肉体が腐食してしまう前に切り出さないといけなかったし、何より場所が悪かった。サイレントグールの群れに囲まれた時は投げ出そうかと思いましたよ」

「はは、そういやああの時のお前はいつにもまして酷かったなあ。依頼主の方も悪戯にそんな依頼を出したもんだから、腰抜かして魚人みてえな顔しやがったんだったか」


 ハンターという職業自体が依頼主の依頼をこなす形で成り立っているので、自ずと解体屋もハンター同様依頼主に雇われる()()()形となる。()()()というのは正確には雇われるわけではなく、依頼をこなしますよという契約上の主従というだけで、依頼主に直雇用された傭兵やメイドとは異なるということだ。解体屋が同行する場合は主に二つ。その依頼主自身が素材を欲している場合と、ハンター自身が討伐したついでに素材にあやかりたい場合である。前者は依頼主から発生した給金をハンターと分け合い、後者はハンターから直接手当金を貰う。それぞれにメリットがあり、またデメリットがある。特に後者におけるデメリットは、命の危険にさらされることもあり得る非常に“デカい”デメリットがある。



「それでジャンク、紹介したいハンターとは?」

「ああそれな。向こうが紹介してほしいって聞かなくてなあ。〈デリケンドークの隠れ家〉って飯処で待ってるってよ」

「〈デリケンドークの隠れ家〉、ですか」


 ジャンクのような素材を扱う工房では、ハンターが多く出入りする。魔獣討伐で得た素材を換金し、あるいは装備品加工の為の素材を調達しに素材工房を訪れる。工房としてもハンターは解体屋同様様々な素材を集めてくれる蜜蜂のような存在で、かつ金を落としてくれる非常に重宝したいお得意様だ。故に独自のネットワークも築かれやすい。工房経由で解体屋を紹介したり、依頼をとって来たりすることもある。

 解体屋の中にはハンターが集まる組織に所属して活動する者もいる。大抵依頼を共にこなす両者であるから、言ってしまえば「同じ組織である方が楽」なのだ。解体屋は街を駆けずり回る必要もなく安定して仕事が舞い込んでくるし、ハンターはお抱えの解体屋のおかげで依頼をこなすだけでなく素材という副収入が確実に手に入る。オズワルドはフリーの解体屋だが、しばしば加入のお誘いが舞い込んでくるのだ。


「何だ、知らねえのか。知ってると思って場所は聞いてねえんだが」

「大丈夫ですよ、場所は分かります。ただ――あそこの料理、あんまり美味しくないんですよね」


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