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slapstick fantasy ~王都外れの幻想動物園~  作者: 猫正宗
閑話 みんなで行こう、温泉旅行!
29/31

05 みんなもう仲魔でした

 話を終えたわたしは、ふぅと息を吐いた。


「……なるほどな。おかしいと思ったのじゃ。風呂でお主の体を見たとき、従魔印がどこにも見当たらなかったからのぅ。すでに全部使われておったのか」


 いつの間に起きていたのだろう。

 モツァレラさんが納得したように呟いた。


「そうか。きっとこの人化の力は、魔王に由来するものだな」


 魔王は付き従う魔人に、人化の能力を与える。

 オストさんもそれを知っていたみたいだ。


「あと、あやつの力の源もな。余や貴様らは並みの聖獣、魔獣ではない。そこらのビーストテイマーでは、契約を交わすことすら叶わん」


 マルツさんも合点がいったようだ。

 でも話の感想は、それだけなんだろうか?


「お、恐ろしくはないのですか? フォルさまは、魔王の悪意を宿しているのですよ?」


 みなさんを見回した。


 オストさんもマルツさんも、普段となにも変わらない表情をしている。


 モツァレラさんには、きょとんとした顔で見返された。

 問いの意図がわからないといった様子だ。


「……なぜ妾が、あんなアホを恐れねばならぬのじゃ?」

「こら、モツァレラ。アホは言い過ぎだぞ。……気持ちは分からなくはないが」

「余には恐れるものなど、なにもない」


 あっけに取られた。

 相応の覚悟をもって過去を打ち明けたのに、拍子抜けしてしまう。


「み、みなさん……。すごいのですね……」


 理解した。

 きっとこのひとたちは、もうすっかりフォルさまに心を許しているのだ。


「えへ、えへへ……」


 なんだかとても嬉しい。

 わたしは3人に向き直って、居住まいを正した。

 丁寧に頭を下げる。


「いきなりどうしたのじゃ、リコッタ?」

「フォルさまはいつも、自分のなかの魔王と戦っているのです。……お願いします、みなさん。わたしと一緒に、どうかフォルさまの支えに……」


 静寂が部屋に流れた。

 しっかりと頭を下げ続ける。

 しばらくして、沈黙が破られた。


「僕たちはもう、フォルの従魔なんだ。お前に願われるまでもない」

「余は敗北を受け入れ、あやつのものとなった。ならば、あとは従うのみ」

「な、なんじゃお主ら? 妾はしらんぞえ? と、とにかく頭をあげるのじゃ!」

「み、みなさん……っ」


 空気を読まない一部の意見は、参考程度に留めておく。


 みんなの想いは同じだった。

 ならきっと、これからも大丈夫のはずだ。

 なにが起きてもみなさんとなら、乗り越えていける。


 胸の内で特別な『なにか』が芽吹こうとしている。

 これはとても暖かいもの。

 わたしはそれを、たしかに感じながら微笑んだ。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 温泉宿に泊まり、一夜があけた。


 今日は従魔たちを連れて、我がクラフトマン幻想動物園に帰る日だ。


 俺は布団に包まったまま、瞼を開けた。

 起き抜けで頭がぼーっとしている。


「おはようございますなのです、フォルさま!」


 勢いよくドアが開けられて、リコッタが飛び込んできた。

 続いてモツァレラにオストにマルツ。

 俺の従魔たちが、ぞろぞろと後に続いて部屋に入ってくる。


「まだ寝ていたのか貴様。そろそろ朝食の時間が終わるぞ」

「僕たちなんて、早起きして朝風呂に入ってきたんだぞ?」

「早う起きるのじゃ。ご飯の時間に間に合わなくなったら、どうするつもりじゃ!」


 モツァレラがトコトコと歩み寄ってきた。


「起きるのじゃ! てや!」


 布団を捲られる。

 冷えた空気が肌をさした。


「さぶっ!? なにをするのだ、お前は!」

「いいから起きろフォル。 ほら、ちゃんと顔を洗ってくるんだぞ」


 なんなのだ、こいつら。


 ぶつくさこぼしつつも、リコッタに布団の片づけを命じてから、洗面所に向かう。


 冷たい水で顔を洗う。

 ぼやけていた頭がしゃっきりし始める。


 なんだか背中に、複数の視線を感じた。

 手拭いで顔を拭って振り返ると、従魔たちが全員そろって俺の背中を眺めていた。


「……なんだ、お前ら?」

「な、なんでもないのですよー」

「なんでもないのじゃ」

「なんでもないぞ?」

「そうだな、余もなんでもない」


 まったくよくわからんやつらだ。

 ……いや、待てよ。


 はたと気付く。

 こいつらもしかして、やっと俺の格好良さに気付いて、見惚れていたのか?


 なるほど、なるほど。

 今更ではあるが、鈍感なこいつらにしてはよく気付いたものだ。


「ふふふ……。やはり俺は罪深いな」

「……は? アホ面下げて、何を言っているのじゃお主は」

「ふはっ。そう照れるな! やるではないかお前たち! ようやく俺の魅力に気づいたか! ちゃんと俺にはわかっているぞ!」


 従魔たちが、苦虫を噛み潰したように顔を顰めた。


「そ、それはそうとして、フォルさま! みんなで朝ご飯にいくのですよー」

「うむ、そうだな。園に帰ったらお前らは午後から展示スペースに缶詰だ。しっかり食べて英気を養っておけよ!」

「なんだって!? 今日は1日休みじゃないのか?」

「横暴なのじゃ! 旅行帰りの1日くらい、丸々休ませるのじゃ!」

「え、えっとフォルさま。わたしも今日は、休みたいなぁって……」

「……余は、どちらでも構わん」


 一斉に反対された。

 この福利厚生の温泉旅行で、こいつら怠け癖でもついてしまったか?

 これはまた、しっかり締めていかないとなぁ。


「ええい! うるさい、うるさい! 働かざるもの食うべからずだ!」


 浴衣姿のまま、部屋をでる。

 従魔たちはまだぶうぶうと不満を垂れていた。

 まったく喧しいやつらめ。


「妾は帰っても、今日は働かんのじゃからな!」

「ならばお前は飯抜きだ!」

「な!? 酷いのじゃ! パワハラなのじゃ!」

「こいつ……! どこでそんな言葉を……!」


 ぎゃあぎゃあと騒ぎあう。

 俺は従魔たちを引き連れ、宿の朝食会場へと向かった。

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