05 みんなもう仲魔でした
話を終えたわたしは、ふぅと息を吐いた。
「……なるほどな。おかしいと思ったのじゃ。風呂でお主の体を見たとき、従魔印がどこにも見当たらなかったからのぅ。すでに全部使われておったのか」
いつの間に起きていたのだろう。
モツァレラさんが納得したように呟いた。
「そうか。きっとこの人化の力は、魔王に由来するものだな」
魔王は付き従う魔人に、人化の能力を与える。
オストさんもそれを知っていたみたいだ。
「あと、あやつの力の源もな。余や貴様らは並みの聖獣、魔獣ではない。そこらのビーストテイマーでは、契約を交わすことすら叶わん」
マルツさんも合点がいったようだ。
でも話の感想は、それだけなんだろうか?
「お、恐ろしくはないのですか? フォルさまは、魔王の悪意を宿しているのですよ?」
みなさんを見回した。
オストさんもマルツさんも、普段となにも変わらない表情をしている。
モツァレラさんには、きょとんとした顔で見返された。
問いの意図がわからないといった様子だ。
「……なぜ妾が、あんなアホを恐れねばならぬのじゃ?」
「こら、モツァレラ。アホは言い過ぎだぞ。……気持ちは分からなくはないが」
「余には恐れるものなど、なにもない」
あっけに取られた。
相応の覚悟をもって過去を打ち明けたのに、拍子抜けしてしまう。
「み、みなさん……。すごいのですね……」
理解した。
きっとこのひとたちは、もうすっかりフォルさまに心を許しているのだ。
「えへ、えへへ……」
なんだかとても嬉しい。
わたしは3人に向き直って、居住まいを正した。
丁寧に頭を下げる。
「いきなりどうしたのじゃ、リコッタ?」
「フォルさまはいつも、自分のなかの魔王と戦っているのです。……お願いします、みなさん。わたしと一緒に、どうかフォルさまの支えに……」
静寂が部屋に流れた。
しっかりと頭を下げ続ける。
しばらくして、沈黙が破られた。
「僕たちはもう、フォルの従魔なんだ。お前に願われるまでもない」
「余は敗北を受け入れ、あやつのものとなった。ならば、あとは従うのみ」
「な、なんじゃお主ら? 妾はしらんぞえ? と、とにかく頭をあげるのじゃ!」
「み、みなさん……っ」
空気を読まない一部の意見は、参考程度に留めておく。
みんなの想いは同じだった。
ならきっと、これからも大丈夫のはずだ。
なにが起きてもみなさんとなら、乗り越えていける。
胸の内で特別な『なにか』が芽吹こうとしている。
これはとても暖かいもの。
わたしはそれを、たしかに感じながら微笑んだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
温泉宿に泊まり、一夜があけた。
今日は従魔たちを連れて、我がクラフトマン幻想動物園に帰る日だ。
俺は布団に包まったまま、瞼を開けた。
起き抜けで頭がぼーっとしている。
「おはようございますなのです、フォルさま!」
勢いよくドアが開けられて、リコッタが飛び込んできた。
続いてモツァレラにオストにマルツ。
俺の従魔たちが、ぞろぞろと後に続いて部屋に入ってくる。
「まだ寝ていたのか貴様。そろそろ朝食の時間が終わるぞ」
「僕たちなんて、早起きして朝風呂に入ってきたんだぞ?」
「早う起きるのじゃ。ご飯の時間に間に合わなくなったら、どうするつもりじゃ!」
モツァレラがトコトコと歩み寄ってきた。
「起きるのじゃ! てや!」
布団を捲られる。
冷えた空気が肌をさした。
「さぶっ!? なにをするのだ、お前は!」
「いいから起きろフォル。 ほら、ちゃんと顔を洗ってくるんだぞ」
なんなのだ、こいつら。
ぶつくさこぼしつつも、リコッタに布団の片づけを命じてから、洗面所に向かう。
冷たい水で顔を洗う。
ぼやけていた頭がしゃっきりし始める。
なんだか背中に、複数の視線を感じた。
手拭いで顔を拭って振り返ると、従魔たちが全員そろって俺の背中を眺めていた。
「……なんだ、お前ら?」
「な、なんでもないのですよー」
「なんでもないのじゃ」
「なんでもないぞ?」
「そうだな、余もなんでもない」
まったくよくわからんやつらだ。
……いや、待てよ。
はたと気付く。
こいつらもしかして、やっと俺の格好良さに気付いて、見惚れていたのか?
なるほど、なるほど。
今更ではあるが、鈍感なこいつらにしてはよく気付いたものだ。
「ふふふ……。やはり俺は罪深いな」
「……は? アホ面下げて、何を言っているのじゃお主は」
「ふはっ。そう照れるな! やるではないかお前たち! ようやく俺の魅力に気づいたか! ちゃんと俺にはわかっているぞ!」
従魔たちが、苦虫を噛み潰したように顔を顰めた。
「そ、それはそうとして、フォルさま! みんなで朝ご飯にいくのですよー」
「うむ、そうだな。園に帰ったらお前らは午後から展示スペースに缶詰だ。しっかり食べて英気を養っておけよ!」
「なんだって!? 今日は1日休みじゃないのか?」
「横暴なのじゃ! 旅行帰りの1日くらい、丸々休ませるのじゃ!」
「え、えっとフォルさま。わたしも今日は、休みたいなぁって……」
「……余は、どちらでも構わん」
一斉に反対された。
この福利厚生の温泉旅行で、こいつら怠け癖でもついてしまったか?
これはまた、しっかり締めていかないとなぁ。
「ええい! うるさい、うるさい! 働かざるもの食うべからずだ!」
浴衣姿のまま、部屋をでる。
従魔たちはまだぶうぶうと不満を垂れていた。
まったく喧しいやつらめ。
「妾は帰っても、今日は働かんのじゃからな!」
「ならばお前は飯抜きだ!」
「な!? 酷いのじゃ! パワハラなのじゃ!」
「こいつ……! どこでそんな言葉を……!」
ぎゃあぎゃあと騒ぎあう。
俺は従魔たちを引き連れ、宿の朝食会場へと向かった。




