01 福利厚生は大切
透き通るような青空。
燦々と降り注ぐ陽の光。
今日も今日とて俺は、ぶらぶらと園内を視察して回っていた。
ドードー鳥舎に、二足魔獣展示館に、山猫舎。
どこを覗いても来園客の姿が見える。
休日の我がクラフトマン幻想動物園は、実に盛況だ。
知らず知らずのうちに笑みが浮かぶ。
「ヒヒヒィーン!」
進行方向の少し先で、馬のいななきが響いた。
「お、ここも盛り上がっているではないか」
園の一角に設けられたイベントスペースから、親子連れ客のはしゃぐ声が聞こえきた。
たしか本日開催のイベントは『わくわくユニコーン(?)騎乗体験!』だったはずである。
10分の騎乗体験で1500イエン。
そのイベントに、なんと2組もの待ち行列ができていた。
これは快挙である。
どれどれ。
ちょっと覗いてみるか。
顔を出すと、すぐに子どもの声が聞こえてきた。
「ママぁ! これユニコーンじゃないよぉ!」
「え? でもたっくん。このお馬さん、角が生えてるわよ?」
「作りものだよぉ!」
ちっ……。
目敏いガキめ。
たしかにこの馬はユニコーンではない。
ただの白馬に、角のアクセサリーを装着したものである。
いわゆるユニコーン(?)だ。
ユニコーンだとは言い切っていないのだから、詐欺ではない。
その分、体験料金は控えめにしてあるしな。
「作りもののユニコーンなんてもういいよぉ! それよりバジリスク見に行きたい!」
「あ、待ちなさい! たっくん、走ると転ぶわよ!」
あのガキ、たっくんとか言うのか。
よく見るような気がする。
どうやら常連客のようだし、その名前覚えておこう。
俺は駆けていく親子連れの背中を見送った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
閉園後のクラフトマン幻想動物園。
園長室でリコッタとふたりのんびりしていると、人化した従魔たちが連れ立ってやってきた。
顔を出したのは、モツァレラとオストとマルツだ。
「はぁ、今日も疲れたなぁ。肩が凝ったよ僕は」
「余はそうでもない」
「そんなことより、妾は腹が減ったのじゃ」
ツギハギのソファに並んで座る。
へたったバネがぎしっと軋んだ。
みんなで座るとぎゅうぎゅう詰めだ。
肩と肩が触れ合う。
「こら、押すなお前たち!」
「ソファが小さいんじゃから、仕方なかろうが。それよりお主は何を食べているのじゃ?」
モツァレラが俺の手元を覗き込んだ。
まったく目聡いやつである。
「それはお茶請けの温泉饅頭なのですよ。いまお茶をお淹れしますねー」
リコッタがお茶を配っていく。
みんなで熱いお茶を啜り、ほっと息を吐いた。
「ふぃー、リコッタのお茶はうまいのぅ。ところで妾にも温泉饅頭を寄越すのじゃ」
「あ、はい。いまお出しするのです。まだあったかなぁ」
「こら。出さんでいいのだ! あとモツァレラは、先輩をあごで使おうとするな!」
「けちなのじゃ! 温泉饅頭くらい寄越すのじゃ!」
「だめだ、だめだ!」
「横暴なのじゃ! 給金のひとつも出ないブラックな職場環境で働いてやっておるというのに、温泉饅頭のひとつやふたつくらい寄越してもよかろう!」
来て早々騒がしいやつである。
というか誰がくれてやるか。
俺はモツァレラに見せつけながら、温泉饅頭を美味そうに頬張った。
リコッタが棚を開いて、がさごそとなかを探る。
「……うーん。やっぱりいまので、お饅頭、最後だったのです」
「なんじゃと!?」
「ふはっ! 残念だったなぁ!」
モツァレラがぐぬぬと歯軋りをする。
「うぬぬ……。毎日毎日、文句も言わずに見世物になっておるというのに、饅頭すら寄越さぬとは……。やってられんのじゃ! 待遇改善! 待遇改善を要求するのじゃ!」
いつもながら小うるさい幼女である。
喚くモツァレラの隣では、オストとマルツがのんびりと茶を飲んでいた。
「今日も騒がしいなぁ。ずず……。あぁ、リコッタのお茶が美味しい」
「いつもこのような感じなのか?」
「大体こんな感じだな。僕は割と平気なほうだけど、マルツは騒がしいのは嫌いか?」
「いや、余は特になんとも思わぬ」
ジタバタしていたモツァレラが、ふいに押し黙った。
どうしたのだろう?
ぽけーっとして、なにかを考えている。
「温泉饅頭……。温泉……。はっ!? そうじゃ。温泉旅行じゃ!」
黙ったと思ったら、またすぐに騒ぎ出した。
「妾は温泉にいきたいのじゃ! お主! 妾を慰安旅行に連れていくのじゃ!」
「はぁ!? いきなり何を言いだすのだお前は! ウチのどこにそんな余裕がある!」
自慢じゃないが、我がクラフトマン幻想動物園の経営は万年火の車だ。
無い袖は振れない。
「……いや、そうでもないぞ?」
オストが口を挟んできた。
こいつには金勘定の一切合切を任せている。
「このところ、経営は上向いてきている。もちろんまだまだ油断は禁物だが、慰安旅行に行くくらいのゆとりはあるだろう。僕は賛成だ。長期的な経営面からも、福利厚生は大切だからな」
「ほれ、お主! こやつもこのように言っておるわ! リコッタとマルツはどうなのじゃ?」
「わ、わたしなのですか? え、えっと、実はわたしも、温泉行きたいなって。えへへ……」
「余は、そうだな。温泉に興味はある」
く……っ。
こいつら結託しよってからに!
なんだかんだで全員乗り気のようだ。
「ほれ、おーんせん! ほれ、おーんせんっ!」
調子に乗ったモツァレラが囃し立ててくる。
たしかにこいつらは、我がクラフトマン幻想動物園の目玉商品たちだ。
たまにはのんびり休ませて、機嫌よく働けるように計らうことも必要かもしれん。
オストの言う通り、福利厚生の一環として。
「……よかろう、慰安旅行だ。次の休園日、お前たちを温泉旅行に連れて行ってくれる!」
わっと歓声が上がる。
しかしさすがは俺だ。
経営者としての器の大きさに惚れ惚れするな。
こうして従魔たちとの、1泊2日、温泉旅行が開催される運びとなった。




