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slapstick fantasy ~王都外れの幻想動物園~  作者: 猫正宗
第3章 潜入!レッジャーノ幻想動物園
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幕間 バジリスクの従魔カースマルトゥ

「ママぁ! 山猫なんてつまんないよぉ。邪龍を見に行こうよぉ! そのあとは霊獣麒麟!」

「あ、たっくん! 走らないの!」


 山猫舎に背を向けて少年が駆けだした。

 そのあとを母親が追いかけていく。

 視察に励む俺は、その背中を微笑ましく見守る。


 山猫姿で展示ルームに入っているリコッタは、ちょっとしょんぼりとしていた。

 だが俺の心は晴れやかだ。実に清々しい。


「ミャミャー(わたし、人気がなくて、ごめんなさいなのです……)」


 あのガキはわかっていない。

 派手さはないが、山猫(リコッタ)もよいものだ。


「ふん、気にするな。お前はその分、お茶汲みなりで役に立てばよい。……それよりどうだ!」


 ばっと腕を広げた。

 リコッタに園内を見せる。


 見渡す限りのひと、ひと、ひと!


 休日の我がクラフトマン幻想動物園は、かつてない賑わいをみせていた。


「ニャワア!?(わぁ、すごいのです!?)」

「だろう! ふはっ! そうだろう! これもすべて俺さまの手腕だ!」


 邪龍に続いて霊獣麒麟。

 これらを立て続けに入荷しただけでも凄いのに、ここにきて我が幻想動物園は、更なる目玉商品を入荷していた。


 その目玉とは『蛇の王バジリスク』。


 俺は転んでもただでは起きない男。

 レッジャーノ幻想動物園に忍び込んだあの夜。

 鮮やかな我が手管を思い返す――


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 土煙が晴れていく。

 バジリスクを殴り倒した俺は、その場に片膝をついた。

 もう限界だ。


「つ、疲れたぁ……」


 リコッタにモツァレラにオスト。

 人化した俺の従魔たちが駆け寄ってきた。


「凄い一撃だったな! お疲れさまだ、フォル!」

「ふわぁ! こんな強い魔獣を倒してしまうなんて、さすがはフォルさまなのです!」

「働きすぎたのじゃ。妾は腹が減った!」


 俺を囲んでわいわいと騒ぎ始める。

 これでようやく事態も終結だ。


 モツァレラも取り返して目的は達したし、もう帰ろう。

 今日はさしもの俺も疲れた。

 さっさと寝たい。


「ではお前たち! 帰るぞ!」


 よいせと立ち上がって、膝についた埃を払う。

 従魔たちを引き連れて1歩を踏み出したところで、はたと思い付いた。


 気絶したバジリスクが引っ掛かる……。

 そうだ。

 こいつ……。


「……? フォルさま。帰らないのですか?」


 リコッタが立ち止まった俺に、小首を傾げた。


「……ふは、ふはははは! チャンス! これは千載一遇のチャンスだぞ!」

「なんじゃお主。ついに頭がおかしくなったのかぇ?」


 いきなり笑い出した俺に、みんなが訝しげな視線を投げ掛けてくる。


 というかモツァレラのやつ、好き放題いいよって。

 あとでお仕置きだな。


「……バジリスクだ」


 呟いた俺に、ますます従魔たちが不審そうな顔をした。

 ここまでヒントを与えてやっても、まだ分からんのか。

 まったくおつむの弱いやつらだ。

 俺は悲しいぞ。


「バジリスクがどうしたんだ? 気絶しているみたいだな」

「だからバジリスクだ! ふはっ! こいつ起こしてテイムするのだ。ふはは! これはいい見世物になるぞ! ふははははははははっ!」

「……はっ!? お前は天才か、フォル! その無茶な思いつき! まさに冒険じゃないか!」

「え……? はええええええ!? む、無茶なのですよぉ! また暴れ出したらどうするのですか!? オストさんもフォルさまを煽らないでほしいのです!」


 バジリスクに近づく。

 大きな鶏冠をスパンと叩いた。


「あわわ! 危ないのですよぉ!」


 リコッタが俺を止めようと、縋りついてきた。

 だがスルーだ。


 オストはわくわくした顔で成り行きを見守っている。

 状況を理解できていないモツァレラは、馬鹿面で突っ立っていた。


「なぁに、暴れたときはまたボコればいいのだ! そらっ、起きろお前!」


 瞬膜を閉じた蛇がピクピクする。

 もう一度、今度は強めに頭を叩くと、気絶から回復したバジリスクが、縦長の瞳孔で俺をジロリと睨んできた。


「はわわわわわっ! 起きちゃったのですよぉ!?」

「おいお前! 俺はビーストテイマーのフォルマッジョ。お前は俺の従魔になれ!」


 単刀直入に命じた。

 こういうのは初っ端が肝心なのだ。


 バジリスクは反応しない。

 うつむいて、じっとなにかを考えているようだ。


「こら! なんとか言ったらどうなのだ!」

「……シャア(……余は、負けたのか)」


 言葉の意味が伝わってくる。

 どうやら暴走は収まっているようだ。

 これなら会話が出来る。


「もう一度言うぞ? お前、俺の従魔になるのだ!」


 バジリスクがチロチロと赤い舌を出した。


「……シャワワ(……それはつまり、負けたのだから勝者に従えと、そういうことか?)」

「ふんっ。飲み込みが早いではないか。その通りなのだ! お前には我がクラフトマン幻想動物園の目玉商品かつ、俺の従魔になってもらう」


 少し考え込んだあと、バジリスクが頷いた。


「シュルリ……(いいだろう。世の理は弱肉強食。貴様の願いを聞き入れよう……)」


 素直なやつだ。

 聞こえてくる声は雌のものだし、もしかしてこいつ、俺に惚れたのではあるまいな?

 案外可能性あるぞ。


 背中越しに、リコッタの安堵する吐息が届いてきた。

 ともかく契約だ。

 バジリスクの額に手を翳す。

 従魔契約の魔法陣が現れた。


「おいお前。名前があるのなら言ってみろ」

「シュルルル(余の名はカースマルトゥ。世界中の蛇を統べる、蛇の王バジリスクだ)」


 カースマルトゥか。

 長くて呼びにくいから『マルツ』でいいか。


 契約の光が眩く輝いた。

 マルツが頭を垂れ、契約を受け入れる。

 胸元に従魔印が刻まれた。


 光が収束していく。

 目の前に現れたのは、豪奢な若緑色のドレスに身を包だ長身の女。

 ロングの緑髪に王冠を被った美女だ。

 縦長に切れた瞳孔と、微かに残る蛇肌が特徴的である。


「……これは?」


 マルツが人になった自分の姿を眺めた。

 少し驚いているようだ。


「それは『人化』の能力だ。俺の従魔になると、みなその能力に目覚める。ともかくこれからはお前も俺の従魔だ! 言う事をよく聞いて、きりきり働くのだぞ!」


 こうしてバジリスクのマルツが、俺の従魔となった。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 回想しながら、園内の視察を続ける。


 展示スペースで居眠りをするモツァレラを叩き起こし、のんびりモードのオストには、雷を纏って見物客を沸かせと無茶振りをして回る。

 どちらも盛況でなによりだ。


 そして次はお待ちかねのバジリスク舎である。

 歩いていくと、晴天の下、遠目からもマルツの威容が見えてきた。


「わあ! すっごいよ、お母さん! 見てみてぇ!」

「こら、たっくん! 柵に乗り出しちゃ危ないでしょ!」


 はしゃいでいるのは、どうやら先ほどの親子のようだ。

 楽しそうでなにより。

 リコッタの山猫姿はお気に召さなかったらしい少年も、壮観なバジリスクには大満足のようである。


「結構、結構! 大いに楽しんでいくのだぞ少年! ふはははははは!」


 高笑いをした。

 そのとき――


「フォルマッジョ・クラフトマン! やっと見つけましたわよ!」


 赤髪の女が肩を怒らせて近づいてきた。

 パルメだ。


 初老の執事と幾人もの黒服SPを従えた彼女がマルツを指差しながら歩いてくる。

 もう片方の手で、俺の目の前にとあるチラシを突きつけてきた。


「あなた! これはどういうことですの!」


 押し付けられたチラシに目を走らせる。


『大人気!?』

『こんなの今まで見たことない!』

『あのクラフトマン幻想動物園に、蛇の王バジリスクさんがやってきた!』

『山猫さんや邪龍さんや麒麟さんも、みんなを待ってるよ!』


 ……素晴らしい。

 実に素晴らしい出来栄えのチラシだ。


「ぬふっ。よいチラシだな。特にここに描かれているイケメン園長が、いい味出してる」

「そうじゃないでしょ!」


 なんなのだこの女。

 さっきからきゃんきゃんと、喧しいことこの上ない。


「バジリスクですわよっ、バジリスク! このバジリスクはウチの目玉商品ですわよ!」


 ちっ、小賢しい。

 気付きよったか。

 でも取りあえずは、一旦白を切ることにする。


「……し、知らんなぁ、証拠でもあるのか?」

「ふざけるんじゃないですわ! これは誰がどう見てもウチのバジリスクですわよ!」


 誤魔化されんか。

 パルメはぎゃあぎゃあと騒ぎ立てている。

 来園客たちが何事かとこちらに注目し始めた。


 ちょうどいい。

 この衆人環視のなかで、マルツが誰のものかハッキリとさせてやろうではないか。


「返しなさい! このバジリスクがいなくなったせいで、ウチの来園客が減っているのですわよ! いますぐに返しなさい!」

「ええい! 喚くな、鬱陶しい! これを見ろ!」


 懐から羊皮紙を取り出した。

 丸まっていたそれを広げて、目の前で騒ぎ立てる女に見せつける。

 パルメは信じられないものを見たように、大きく目を見開いた。


「んなっ!? そ、それはぁ!?」


 ふはっ!

 驚愕が心地よい。


「目ん玉かっぽじってみるがいい! これは労働契約書! 我がクラフトマン幻想動物園とバジリスクの間で交わされた、正式な労働契約の証なのだ! ふはははははは!」


 ぐうの音も出まい!


 俺の知謀が冴え渡る。

 こうなることを予見して、事前にオストに契約書を作らせ、マルツにサインさせておいたのだ。


「どうだぁ? 無理やり連れ帰るかぁ? 労働基準法違反で、王都労働基準監督署を敵に回すことになるぞぉ?」

「く……っ。くぅぅ……っ! まさかこんな意趣返しを!」


 パルメが地団駄を踏み出した。

 わなわなと震える彼女に老執事が耳打ちする。


「……お嬢様、分が悪うございます。ここは出直した方が……」

「わ、分かってますわよ! くぅ! あなた! 覚えておきなさい!」


 パルメが背を向けて去っていく。

 その姿はまさに敗者。


「ふはっ! 一昨日来やがれ! ふはははははははは!」


 完全勝利だ!

 俺は高笑いを続けながら、小さくなっていく女の背中を見送った。

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