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slapstick fantasy ~王都外れの幻想動物園~  作者: 猫正宗
第3章 潜入!レッジャーノ幻想動物園
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05 バジリスクが現れたが様子がおかしい。

「フォ、フォルさまぁ!」

「ぐ、ぐはぁ……! く、来るんじゃない!」


 駆け寄ってくるリコッタを制する。


 バジリスクが俺の体から牙を引き抜いた。

 狙った獲物を狩り損ねた大蛇は、不機嫌さを隠そうともせずに、舌をチロチロさせている。


「が……、かは……っ」


 真っ赤な血を口から吐き出す。

 俺は肩と脇腹を深く抉られていた。


「あ、あなた!? 大丈夫ですの!? そ、その傷は!?」

「シャアアアアーッ!」


 バジリスクが再びパルミジャーノを襲った。

 一度狙いを定めた相手を執拗に追い回すさまは、実に蛇らしい。


「きゃあああ!?」


 叫ぶ彼女を小脇に抱えて、バジリスクの攻撃を躱す。

 ガクッと膝が折れそうになった。

 だが気合いで踏み止まる。


「あなた! どうして私を助けますの!?」

「だ、黙っていろ! 舌を噛むぞ……!」


 初老の執事の下まで、なんとかパルミジャーノを運んだ。


「ぐぅ……っ。おいジジイ! あ、あとは任せて大丈夫か! がはっ」

「お任せ下さいませ! お嬢様はこの私めが、必ず安全な場所までお連れいたします!」

「そ、それよりあなた!? 大怪我を……!?」

「いいから、さっさとこの場を離れるのだ!」


 執事がパルミジャーノの手を無理やり引き、走り去っていく。

 これで彼女は大丈夫だろう。


 俺は肩と脇腹からダラダラと血を流しながら、バジリスクに向き直った。


「おい、お前! ぐふっ、いきなりなんのつもりだ!」

「シャアアアアアアッ!(………………ッ!)」


 問い掛けるもバジリスクの発する威嚇音は、意味をなしていない。


 なんだこいつ。

 なぜ会話ができない?


 考えようとしても、怪我のせいで意識が集中できない。

 頭がくらくらしてきた。

 血が足りないのだ。

 悪寒も止まらないし、身体中が痛む。

 もしかすると、これは毒が回っているのだろうか。


 それにさっきから危険なことになっている。

 意識の奥底で、黒い衝動が蠢き始めた。

 これは解き放ってはいけない魔王の力だ。

 なんとかそれを鎮めながら、バジリスクに語りかける。


「ひゅー、ひゅー。お、お前、急に襲い掛かってくるとは、何事だ! 事と次第によっては許さんぞ! ぜぇ、ぜぇ……」

「シャアアアアアアッ!(………………ッ!)」


 まただ。

 バジリスクの発する声は、言葉になっていない。

 こいつ、もしや暴走しているのか!?


「フォルさまぁ!? ああ、なんて酷い怪我を……!?」

「だ、大丈夫かフォル!」


 従魔のふたりが慌てて駆けよってきた。


 リコッタがザックから救急セットを取り出して、傷を手当てしようとする。

 しかしこの程度の治療では、応急処置にもならない。


「と、とにかく血を止めて、解毒しないと! オストさん! フォルさまを治療をしている間、バジリスクさんの足止めを、お願いしたいのです!」

「わ、わかった! 任されたぞ!」


 麒麟姿のオストが全身に雷を纏わせながら、バジリスクに向かって駆け出した。


「うぅ。この蛇、強そうじゃないか……。ええい、仕方あるまい! この僕が相手だ!」

「キシャアアアアアアアア!」


 聖獣と魔獣。

 2体の幻想動物が争いあう。

 その間にリコッタは、なんとかして俺を手当しようと四苦八苦していた。


「ああ……、ダメなのです。こんな下級ポーションや解毒草じゃ、焼け石に水なのです……」


 リコッタは今にも泣きだしそうな顔だ。


 まったく情けない顔をしよって。

 従魔にこんな顔をさせるもんじゃない。


 俺は彼女を安心させようと、もふもふの頭にぽふっと手を置いた。


「し、心配するな……。これしきの事、どうということもないわ……。かはっ」

「そんな……、そんなわけないのですよぉ……」


 安心させるつもりが、逆にリコッタの顔が歪んだ。


 おかしいぞ?

 こんなはずでは……。


 ふと思い返す。邪龍テイムに赴いたときは、傷ついたリコッタを俺が介抱してやったな。

 今回はあのときとは真逆という訳だ。


「あぁ、そういえば……」


 不意に思い出した。

 良いものがあるじゃないか。


「お、おい、リコッタ。俺の胸の内ポケット。……がはっ。そ、そこにエリクサーの小瓶があるのだ。それを使え……、げほっ」


 あのとき勇者の目を誤魔化して、ポッケないないしたエリクサー。

 まだ半分くらい残っていたはずだ。

 ちょろまかしておいたそれを、念のため懐に忍ばせていたのだ。


 リコッタが慌てて懐をまさぐってくる。


「あった! あったのですフォルさまぁ!」


 リコッタがぱぁっと笑顔になった。

 喜色満面だ。

 大慌てでエリクサーを俺に振りかける。

 途端に傷口が淡い輝きを発しながら塞がった。

 身体中から毒が抜けていくのがわかる。


「よがっだぁ……! よがっだのですよぉおお! びぇぇん……」


 窮地を脱した俺に、泣きじゃくるリコッタが縋り付く。

 ずびびと鼻水を俺の服でかんだ。


「んな!? ばっちいだろうが! ええい、もういい! お前は離れるのだ!」

「そんなぁ! あうう!」


 抱きついてくるリコッタをぺっと引き剥がす。

 俺は立ち上がり、離れた場所でオストと戦っているバジリスクをキッと睨んだ。




 オストとバジリスクの戦いは、バジリスクが優勢だった。


 麒麟の放つ雷撃を何度浴びても、凶悪な蛇の王はものともしない。

 強靭な尾で、鋭い毒牙で、攻撃を仕掛けている。


 逆にオストは石化の魔眼を回避するため、常に素早く動き続けなければならず、疲労困憊していた。


「待たせたな、オスト!」

「はぁ、はぁ……。回復したかフォル! もう大丈夫なのか!?」


 頷いて見せると、オストの雰囲気が和らいだ。

 きっとこいつなりに俺を心配してくれていたのだろう。


 ふふふ。

 なかなか主想いな愛いやつめ。

 臨時手当でもつけてやるまいか。


 おっと思考が脇道に逸れた。

 いまはそんなことを考えているときではないのだ。


「復活したならバジリスクの相手を手伝ってくれ! こいつは僕だけじゃ手に負えない!」

「そのことだが、オストよ! お前はこの場を離れて、邪龍舎に向かえ! モツァレラを解放してくるのだ!」


 オストが首を傾げた。


「なぜだ? 共闘しないのか?」

「馬鹿者! わからんのか! いまが千載一遇のチャンスなのだぞ!」


 この程度のことにも思い至らないとは、霊獣麒麟ともあろう者が、なんというおつむの弱さだ。

 俺は悲しいぞ。


「バジリスクが場を掻き乱した今こそが、チャンスなのだ! レッジャーノのやつらもみんな安全な場所へと避難している。こいつを倒してしまったら、やつらが戻ってくるだろうが! だがいまならば、暗躍し放題! リコッタのやつはもうすでに、労働契約書を探させに園長室へと送り込んだのだぞ!」


 オストの顔にピコンと理解の灯がともる。

 それと同時に不安そうな表情を向けてきた。


「まったく悪知恵の働く主め! 趣旨は理解した。だがフォルはたったひとりで、この怪物の相手ができるというのか!?」

「侮るなよ! この俺を誰だと思っている!」


 シャキーンと剣を抜いて頭上に掲げる。

 刀身が月明かりを反射した。


「俺は凄腕ビーストテイマーのフォルマッジョ・クラフトマン! バジリスクの相手程度、どうということもないわ! 実は試したいこともあるのだ!」


 先ほどから胸の奥で蠢き続けるこの破壊衝動。

 いつかは手懐けねばならないと思っていた、魔王の力……。


 今日はいい機会だ。

 俺はこの力を屈服させて、自分のものにしてみせる!


「そうか、承知した! では僕はモツァレラの解放に向う! あいつを連れてすぐに戻ってくるから、それまで無理はするなよ!」


 オストが空を駆けながら戦線を離脱していく。

 残された俺は、バジリスクに向き直った。




「シャアアアアアアアアアア!」


 バジリスクがギラリと光る瞳を向けてきた。

 縦長の瞳孔で睨んで来る。

 俺の体がつま先から徐々に石化を始めた。


「……ふん! 効くかそんなもの!」


 意識を集中してレジストすると、石化した箇所がパキパキと音を立てて、薄氷のように砕けた。


 いま、俺のこの身は、魔王の力を纏っている。

 完全に制御することは出来ておらず、漏れ出した力は一端に過ぎないとはいえ、その力は凄まじい。

 バジリスクの魔眼も、ものともせずである。


「今度はこちらの番だ!」


 両腕を振り上げてアタックする。

 剣に纏わせた闇色の瘴気を、バジリスクの巨躯に叩きつけた。


「ギジャアアアアアアアアア!」


 凶悪な大蛇が苦痛に呻く。

 瘴気は深緑の蛇の鱗を食い破り、内部にダメージを与えていく。


「どうだ! 思い知ったか! ……ぐぬぅ⁉︎」


 意識が飛びそうになる。

 気丈に振る舞ってはいるが、ずっと俺は湧き上がる破壊衝動と戦っていた。


 この悪意に飲み込まれてはいけない。

 飲み込まれたが最後、俺は自我を失い暴走してしまうだろう。

 目の前のバジリスクのように。


「ぐ、ぐぬぬぅ……」

「シュワアアアアアアアアア!」


 悪意の侵食を意志の力で抑え込んでいると、バジリスクが尻尾を叩きつけてきた。

 無防備を晒した俺に、その攻撃を防ぐ術はない。


「ぐはぁっ!?」


 吹き飛ばされた俺を、バジリスクが追撃してきた。

 毒牙を見せつけながら、噛みつこうと襲い掛かって来る。

 しかしバウンドするように地面を跳ねていた俺は、すぐさま起き上がり、迎撃体勢を整えた。


「思い上がるなよ、三下!」


 バジリスクの顎を下から蹴り上げてやる。

 続けて体ごと飛びあがり、蛇の鼻っ面に強烈な胴回し蹴りを叩き込んだ。


 頭部を上下からしたたかに打ち据えられたバジリスクは、声にならない叫び声をあげながら、

 俺から距離をとる。


「はぁ、はぁ……。どうした! 掛かってこないのなら、こちらから行くぞ!」


 戦いはこれからだ。


 切れた息を整える。

 黒い悪意に飲まれないように確と気合いを張り直して、俺はバジリスクへと飛び掛かった。

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