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slapstick fantasy ~王都外れの幻想動物園~  作者: 猫正宗
第3章 潜入!レッジャーノ幻想動物園
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04 暗躍する人影

 閉園後のレッジャーノ動物園。

 あたりは薄暗く、しんと静まり返っている。


 そんな不気味とすら思える園の舎内に、どうやって侵入したのか、ひとりの怪しげな女の影があった。


「……こんばんはぁ。はじめましてぇ」


 場所はバジリスク舎の舎内だ。

 蛇の王が、床に伏せていた大きな首を起こす。

 物陰から姿を現した女が、無造作にその怪物に歩み寄った。


 バジリスクの視線には石化の力がある。

 だがそれを気にした様子もなく、女はバジリスクと視線を交えた。


 一見すると自殺行為にしか思えないその行動だが、女には特に変わった様子がない。

 バジリスクが警戒して「シャー!」と警告音を発した。


「ふふふ……。いまぁ石化の力を使いましたねぇ? でも弱っているならともかくぅ、万全のわたくしにぃ、そんな魔眼の力は通用しませんよぉ? それより……」


 女が口元に薄く笑みを讃える。

 だがそれに反して、目元は全く笑っていない。


 女がバジリスクの眼前に手をかざした。


「さぁ、わたくしのためにぃ、働いてもらいますからねぇ」


 虚空に幾何学模様の陣が浮き上がった。

 聖なる力が集束していく。


 女はその力を、バジリスクに向けて解き放った。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 深夜。


 一時撤退した俺は、今度はリコッタの他に麒麟のオストも引き連れて、再びレッジャーノ幻想動物園へと忍びこんでいた。


 もちろん目的はモツァレラの奪回だ。

 今度こそ連れ帰ってみせる。

 だがそのためには、あの労働契約書が厄介だ。


「お前たち。まずは園長室へ忍び込むぞ。そこで契約書を探すのだ! なければ事務室だ!」


 こそこそと物陰に潜みながら移動する。

 園長室のある建物前の広場までたどり着いた。

 すると眩しいライトの明かりが、いきなり俺たちをぴかっと照らした。


「うおっ!? まぶしっ!?」


 強烈な光に目を細める。


「お、おい、フォル! 僕たち囲まれているぞ!」

「た、たた、大変なのです! もう見つかっちゃいました!」


 周囲から大勢の人間の気配が漂い始めた。

 そのなかから、赤髪の女が歩み出てくる。


「おーほっほっほ! やはり忍びこんできましたわね! でも残念。あなたたちの行動は、全部お見通しですわよ!」

「くそっ……。パルミジャーノか!?」


 昼とは違い現在は閉園後。

 かつ深夜である。

 あたりにひとの目はない。

 つまりこいつらは、遠慮なく荒事に訴えかけてくるということだ。


 暗がりから幾人もの黒服SPが姿を現した。

 見ればやはり全員が武装している。


「さぁ、今度は逃がしませんわよ! あなたたち、ふん縛っておあげなさいな!」


 命令を受けた黒服たちが飛び掛かってきた。

 四方八方から同時に襲ってくる。


「わ、わ!? このひとたち、危ないのですよフォルさま!?」

「問答無用というわけか! リコッタは俺の後ろに下がれ! オストは戦えるのだろうな!」

「無論だ! ピンチだな! ははっ!」


 楽しげに笑うオストに若干イラッとしながら、黒服たちを迎え撃った。




 麒麟姿になったオストの一本角が、チリチリと微弱な電流を纏い始める。


「ぐおぉぉん! いかずちよ!」


 空から雷が降ってきた。

 稲光が辺りを明滅させる。

 しかしその雷は、黒服たちが用意した避雷針に誘導されてかき消えていく。


「くそ! こいつら僕の雷に、対策を用意しているぞ!」

「だったらわたしが! これでも、くらえっ……なのです!」


 リコッタが投げつけたくしゃみ玉が、炸裂した。

 しかし黒服たちは冷静だ。

 一斉にマスクをつけて、くしゃみを防いだ。


「おーほっほっほ! あなたたちのことは調べ上げていますわ! 観念なさい!」

「おのれ! 調子に乗るなよ!」


 途切れることなく襲い掛かってくる黒服を、ちぎっては捨てる。

 だが強気の発言で自らを奮い立たせたところで、多勢に無勢の現状は変わらない。


「おい、フォル! このままだと不味いぞ!」

「ええい、わかっておるわ!」


 だがどうする?

 どうやってこの窮地を乗り切るか?

 ない頭をフル回転させた。

 そのとき――


「キシャアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 甲高い叫び声が、夜闇(やあん)を切り裂いた。


 声のしたほうに顔を向ける。

 ズルズルと巨大なものが地面を這いずる音が聞こえた。


 なんだ?

 一体なにが近づいてきている?

 この場にいる全員が、争いを中断して注目する。


 その怪物は、暗闇の中からぬるりと姿を現した。


 新緑の鱗が月明かりを鈍く反射する。

 王冠を模したような鶏冠が、巨大な頭部とともに夜空へと持ち上がっていく。


 遥かな高みで鎌首をもたげたその蛇が、頭上から場に集った者どもを睥睨した。


「はわ、はわわわわ……」


 リコッタが俺の背中に隠れて小さくなる。


「な!? こ、こいつは昼間に見た……!?」


 突如として現れた闖入者は、蛇の王バジリスクだった。




「な、なんですの!? 一体どうして、バジリスクがここに!?」


 パルミジャーノや黒服SPたちが、パニックに陥っている。


 なんだ?

 こいつらにも想定外の事態なのか?


「シャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 バジリスクが大木のように太い首を、地面を攫うようにして振り回した。

 黒服たちが薙ぎ払われていく。


 これはどうしたことだろう。

 仲間割れか?


 ふはは!

 ちゃんと躾けておかないからこうなる!


 成り行きを見守っていた俺だが、ふいにある事に思い至った。

 ……これは、チャンスかもしれん。


 騒ぎに乗じて園長室に忍びこんで、モツァレラの労働契約書を盗んじまおう。

 チラッと横目で、パルミジャーノたちの様子を伺う。


「お嬢様! はやく、こちらへ!」

「え、ええ! わかりましたわ!」


 パルミジャーノは執事に手を引かれて、混乱したこの場を離脱しようとしている。


 ふふふ。

 しめしめだ。


 俺も園長室に忍び込むべく、ひっそりと踵を返す。


 そのとき気が付いた。

 バジリスクが、逃げていくパルミジャーノの後ろ姿を見つめている。


 必死に駆けていく彼女たちは、自らが狙われていることに気付いていない。


「お、おい! パルなんとか!」


 大きな声で呼び掛けるも、俺の声は彼女の耳には届かない。


 バジリスクが大きな口を開けて、パルミジャーノに襲い掛かった。


「シャアアアアアアアアアアアッ!」

「ちっ! バカが!」


 俺は疾風のように飛び出した。


「な、なんですの!? きゃあ!?」


 振り返ったパルミジャーノが、襲いくるバジリスクにようやく気付いた。


 金切り声をあげる。

 耳をつんざくようなその悲鳴を浴びながら、なんとか間に割り込んだ俺は、パルミジャーノを大きく突き飛ばし……。


 ――その瞬間、全身を衝撃が襲った。


「ぐはぁ! ……か、かはっ」


 思わず血反吐をはく。

 吹っ飛んだパルミジャーノは、地面に激しく尻を打った。


「あいたぁ!?」

「いやぁああっ!? フォ、フォルさまぁああ!」


 声と悲鳴が重なった。

 視界の端に、リコッタが顔を青くして駆け寄ってくる姿が映る。


 パルミジャーノを庇った俺は、彼女に代わり、バジリスクの毒牙に体を貫かれていた。

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