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slapstick fantasy ~王都外れの幻想動物園~  作者: 猫正宗
第3章 潜入!レッジャーノ幻想動物園
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02 ライバル女園長、登場

 ガヤガヤと楽しげな喧噪が俺の鼓膜を震わせる。


 見渡す限りのひと、ひと、ひと――


 リコッタとふたり、肩をいきり立たせて乗り込んだレッジャーノ幻想動物園は、見たこともないような盛況ぶりだった。


「な、なんなのだこれは……」


 思わず呆然と立ち尽くす。


「ぜぇ、ぜぇ、待ってくださいなのですよぉ、フォルさまぁ!」


 大きなザックを背負ったリコッタが、ようやく追いついてきた。

 満員の来場客を掻き分けて、息を切らせながら俺の隣に並ぶ。


「……おい、リコッタ」

「はぁ、ふぅ。は、はい。なんなのですか?」

「なんだここは」

「はへ? レッジャーノ幻想動物園、なのですよ?」


 俺は拳を握りしめながら、わなわなと震える。


 これが……。

 これがレッジャーノ幻想動物園。


 一面を見渡して戦慄した。

 そこかしこに咲いたリア充カップルの満面の笑み。

 はしゃぎまわる子供を微笑みながら窘める幸せ家族。


 なんということだろう。

 我がクラフトマン幻想動物園を、遙か凌駕する規模の賑わい。

 比較にもならないほどの盛り上がりではないか!


「はえー。レッジャーノさんは凄いのですねぇ。さすが王国一と謳われるだけのことはあるのです! やっぱり幻想動物園は、こうでなくっちゃですねぇ!」


 リコッタは腕組みなんてしながら、訳知り顔でうんうんと頷いている。


 レッジャーノ幻想動物園は王国一。

 そういう噂はたしかに聞いていた。

 だが人づてに聞くのと、実際にこの目で見るのとでは大違いだ。

 知らず知らずのうちにごくりと生唾を飲み込む。


「……これは……敵だ」

「はい? なにか言ったのですか、フォルさま?」

「この幻想動物園は、敵なのだ! 我がクラフトマン幻想動物園の乗り越えるべき目標!」

「え!? はええええっ!? む、無茶なのですよぉ!?」


 リコッタが山猫耳と尻尾をピンと立たせて、大声を上げる。

 大きく目を見開いて俺を見上げるその表情が『なに言ってんだこいつ。あたま大丈夫か!?』と語っていた。


「ふん! とにかくまずは敵情視察だ! 園を見て回るぞ。ついて来いリコッタ!」

「は、はいなのです!」


 取りあえず俺は、レッジャーノ幻想動物園の視察を始めた。

 モツァレラのことはすぽーんと頭から抜けていた。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「……ぉお……。ぅぉお……」


 思わず変な声が漏れた。


 眼前で巨大な幻想生物が、重厚感のある巨体を横たえている。

 魔法による不可視の障壁で仕切られた、すぐ向こう側だ。


 周囲では俺と同じようにド迫力の怪物を目前にした見物客たちが、ぽかんと口を開けて度肝を抜かれていた。


「な、なんなのだ、こいつは……」


 ドデカい緑色した蛇の体と、頭部に生えた王冠のような鶏冠。

 デカさだけなら邪龍以上だ。


 怪物が薄く瞳を開いてこちらを見た。

 縦長の瞳孔でじろりと見つめられると、背中をゾワゾワと怖気が走る。


「これは……、別格だ……」


 視察したレッジャーノ幻想動物園には、目を見張るような様々な幻想生物が展示されていた。


 たとえば八本脚で駆ける神の馬『スレイプニル』。

 グリフォンと雌馬の間に生まれた幻想生物『ヒッポグリフ』。

 地獄の番犬ケルベロスの兄弟とされる双頭の犬『オルトロス』。


 どれも我がクラフトマン幻想動物園なら、エースを張れる幻獣や魔獣だ。


 だがなかでも、いま目の前にいるこいつは別格である。

 邪龍のモツァレラや麒麟のオストと比較しても遜色ないようなレア度。

 迫力も申し分ない。


「え、えっと……、どれどれ……」


 狼狽していると、リコッタが展示スペースの説明板を覗き込んだ。


「ふむふむ。この蛇さんは『魔獣バジリスク』らしいのです。なになに。『これは世界中の蛇の頂点に君臨する、蛇の王です。非常に強力な毒を持ち、その瞳は見ただけで石化をもたらす力を持っています』って書いてるのですよー」

「はぁ!? 見ただけだと!? や、やばいではないか! さっき目が合ったぞ!」


 こんなことで石にされては堪らんぞ!

 背中に冷や汗が流れる。


「あ、大丈夫みたいなのです。『当園では、展示スペースに魔法で安全措置を講じていますので、安心してバジリスクの威容をお楽しみ頂くことができます』って書いているのです!」


 ホッと胸を撫で下ろした。


 冷静に考えるとそりゃそうだ。

 見つめられただけで石にされてしまうような状態では、展示など出来ない。


 大きく息を吐いた。

 改めてバジリスクを眺める。


 闇を凝縮したかのように鈍く光る深緑の鱗。

 王であることを誇示するかのような、王冠状の見事な鶏冠。


 ……欲しい。

 こいつが我が幻想動物園にもいれば、邪龍や麒麟と並ぶ良い目玉商品になるだろう。


「……あ。忘れていた」


 そういえば、邪龍で思い出した。


「どうしたのですかフォルさま?」

「モツァレラだ! ここに来た目的をすっかり忘れていたのだ!」

「あ!? ほんとなのです!」


 リコッタが慌てて手に持った園内マップを開く。

 指先で地図をなぞりながら、ある一点で手を止めた。


「ここなのです! ここに邪龍舎が新設されているのですよ!」

「よし、いくぞリコッタ! 待っていろモツァレラのやつめ!」


 俺たちはバジリスク舎に背を向けて駆けだした。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 邪龍舎へと辿り着いた。

 俺たちの目に、腹立たしい姿が飛び込んでくる。


「グルォ……(はむはむ。美味いのじゃあ……)」


 そこは綺麗な展示スペースだった。

 見物客で人だかりが出来ている。

 広くて清潔なその邪龍舎で、モツァレラが悠々とくつろぎ、ほわぁと緩んだ顔で食事を楽しんでいた。


「こら! お前はこんな場所でなにをしているのだ!」

「……グルリ?(……ん? なんじゃ?)」


 モツァレラが、頭を上げてキョロキョロと辺りを見回す。

 齧っていたのは見るからに高級そうな肉の塊だ。

 というか、うまそうだな。


「モツァレラさん! どうして出て行っちゃったのですか!?」


 ようやくモツァレラが俺たちに気付いた。


「ギャルル(なんじゃ。お主らも食べにきたのかえ?)」

「訳の分からんことを! お前はこんなところで一体なにをしているのだ!」

「引き抜きっ! これは引き抜きなのです!」


 モツァレラが首を傾げる。

 見た目だけなら恐ろし気なその仕草に、周囲の見物客が沸いた。


「……ギュギリ?(……なにを言っておるのじゃ? 引き抜き?)」

「つまりヘッドハンティングなのですよ!」

「ガ、ガルル?(ヘ? ヘッドハン?)」


 モツァレラが混乱している。

 というかコイツの弱いおつむで、ヘッドハンティングなんて、そんな高度な言葉が理解できるわけがないだろう。


「ヘッドハンティング! ヘッドハ――ふむぐぉ!?」

「ええい、もうお前は黙っているのだ!」


 抱き寄せて、口を手のひらで塞いだ。

 リコッタが変な声をあげて黙る。

 ジタバタと暴れる彼女のことはスルーして、モツァレラに向き直った。


「お前! なぜ出て行ったのだ!?」

「グルルガロ?(出て行った? さっきからなにをいっているのじゃお主は?)」

「我が園に不満があるなら、言ってみるがいい!」

「ギュリグルオ?(不満? 不満なら山ほどあるが、……妾はちょっと、美味い肉を馳走になりに来ただけじゃぞ?)」


 どうにもさっきから話が噛み合わない。

 これは一から詳しく話を聞いたほうが良さそうだ。


 口を塞いでいたリコッタを、ポイッと放り投げて解放する。


「……ぷはぁ! 酷い! 酷いのですよ、フォルさまぁ。けほっ、こほっ」


 事の経緯を改めて尋ねようと口を開きかけた。

 そのとき――


「おぉーっ、ほっほっほっほぉー!」


 どこからともなく、女の高笑いが聞こえてきた。

 振り返ると赤いドレスを着た、赤髪の女がいた。


「ようやくやって来ましたわねぇ! 待ちくたびれましてよ!」

「ぬ!? お前は何者だ!」


 仁王立ちをした赤い女が踏ん反り返る。


「私はパルミジャーノ・レッジャーノ! このレッジャーノ幻想動物園の園長ですわぁ!」

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