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slapstick fantasy ~王都外れの幻想動物園~  作者: 猫正宗
第3章 潜入!レッジャーノ幻想動物園
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01 ヘッドハンティング邪龍

 その日の夜。

 モツァレラは邪龍舎の寝所で晩ご飯を食べていた。


「グルルゥ……(はぁ。美味しくないのじゃ)」


 大きな肉の塊を、これまた大きな邪龍の口でもそもそと囓る。

 脂身が少なくパサパサとした何かの肉だ。

 とても美味しそうには見えない。


「グギュル……(A5ランクの王国産特上牛が恋しいのう……)」


 贅沢がバレた結果、モツァレラは食事の質を落とされていた。

 ため息を付きながら、彼女はさして味もしない肉を啄ばみ、食事を続ける。


「ギギュリ、グルアッ!(ただ働きの上に食事まで粗末とは、やってられんのじゃ! いっそストライキでも起こしてやろうかぇ!)」


 盛大に愚痴をこぼす。

 そのときモツァレラは、寝所の外の僅かな気配に気付いた。


「……ギュルリ?(……何やつじゃ?)」

「……これはこれは。さすが邪龍さま。勘付かれましたか」


 扉ごしに声が掛けられる。


「グルル!(お主、何者じゃ!)」

「お待ち下さい。そのお姿でお話しになられても、なにを仰っているのか分かりかねます」

「……グルァ(……しばし待つのじゃ)」


 邪龍の大きな体が小さく変じていく。

 2本の龍角を生やした黒髪の和装幼女が現れた。


「それでお主、何者じゃ?」

「……お初にお目に掛かります。私はレッジャーノ幻想動物園からの使いの者にございます」


 扉を開いて入ってきたのは礼儀正しい初老の男。

 品良く背筋を伸ばした、白髪の執事然としたその彼が、丁寧に頭を下げた。


「レッジャーノ幻想動物園……とな?」

「そうでございます。それはそうと、邪龍さま。随分とお粗末な食事をされているご様子」


 男の瞳が、妖しげに光る。

 モツァレラの頬が、羞恥に赤く染まった。


「し、仕方なかろう! これしか食べるものがないのじゃから!」

「わかっております。わかっておりますとも、ええ。……ですがそのようなお食事は邪龍さまに相応しくありません。もっと質の良い食事をしたくは、御座いませんかな?」


 質の良い食事。

 モツァレラの喉がゴクリとなる。


 男は彼女の反応に満足したように頷くと、満面の微笑みで話し始めた。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 窓からキラキラと輝く陽の光が差し込んでくる。


 ツギハギのソファに座って、のんびりと朝の微睡みを楽しんでいると、園長室のドアがガチャリと開かれ、リコッタが姿を現した。


 入ってきた彼女は顔を出して早々、挨拶もせずにキョロキョロと室内を見回し始める。


「どうしたのだ、リコッタ?」

「あ、フォルさま。おはようございますなのです」

「うむ」


 挨拶を交わしながらも、リコッタは何かを探し続けている。


 テレビの裏側。

 ソファの下。

 観葉植物のかげ。

 ゴミ箱のなか。


「……おい、どうしたのだ?」

「それが、朝からモツァレラさんの姿が見えないのです」

「便所にでも行ってるんじゃないのか?」

「おトイレはさっき探したのですけれど居なくて。……もう朝ご飯の時間なのにどこにもいないなんて、おかしいのです」

「……なんだと?」


 あの食い意地のはった邪龍が、飯時に姿をくらました?


 違和感を覚えた。

 首を傾げていると、麒麟のオストが園長室に顔を出した。


「なんだお前たち。ふたり揃って、小首を傾げて」

「おはようございます、オストさん」

「ああおはよう。フォルもおはよう」

「うむ。それよりオストよ。お前はモツァレラのヤツを見なかったか?」

「いや、今朝はまだ見ていないな」


 おかしい。

 あいつをテイムしてから今まで、こんなことはなかった。


「まったく何をしているのだ、あのガキンチョは。もう開園時間になってしまうぞ!」

「わたし、ちょっと園内を探してくるのです!」

「待てリコッタ。ならば僕も付き合おう」


 従魔たちは頷き合って、部屋の外へ飛び出していく。


 だが開園時間になっても結局、モツァレラの姿はどこにも見つからなかった。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 俺はイライラとしながらリコッタが戻るのを待っている。


 リコッタはいま、王都中央警備隊の屯所まで出向かせていた。

 行方知れずとなったモツァレラの捜索願を届け出るためだ。


「……遅い。リコッタはまだ戻らないのか!」


 もうとっくに園は開園していた。

 いまは昼休憩の時間である。

 さっきから邪龍目当ての来園客から、苦情がひっきりなしに届いている。


「そう焦るなフォル」

「別に焦ってなどおらんのだ!」

「なに、モツァレラのヤツはあの通り目立つ。放っておいてもそのうち見つかるさ」


 休憩時間を園長室で過ごすオストは、なんだか余裕綽々の態度だ。

 というかむしろ、どこか嬉しそうですらある。


「ふんふんふふーん」


 ちっ。

 鼻歌なんぞ歌いおって。


「……おいオスト」

「ん? なんだ?」

「お前……モツァレラがいなくなったというのに、随分と楽しそうだな?」


 オストが、はっとなった。

 ばつの悪そうな表情で俺から顔を背けていく。


「そそ、そんな。た、楽しそうなんてことは……ないぞ?」

「お前いま、鼻歌を歌っていただろうが」

「べ、べべ別に、もっとピンチになったら楽しいだろうなぁ、なんて思ってないからな!?」

「嘘を吐くな!」


 なんて不謹慎なヤツだ。

 俺はにこにこと上機嫌な霊獣と、バチバチやり合った。




「た、たたた大変なのです、フォルさまッ!」


 ようやくリコッタが帰ってきた。

 だが随分と慌てた様子だ。

 息を弾ませ、脚をもつれさせながら園長室に飛び込んできた彼女の手には、1枚のチラシが握られていた。


「どうしたのだ、リコッタ!?」

「これを見て下さいなのです! 号外! 号外チラシが配られていたのです!」


 差し出されたそれを受け取り、目を細めて眺める。

 どうやらそのチラシには、邪龍の姿が印刷されているようだ。

 これは、いつぞやウチの幻想動物園が刷った邪龍広告のチラシか?


 ……いや、違う!

 これはウチで刷ったチラシではない!

 あのチラシに描かれていたイケメン園長たる俺が、こいつには描かれていない!

 なのに邪龍が描かれているだと!?


「ど、どういうことなのだ!」


 顔を近づけて、そこに書かれた謳い文句を食い入るように見つめる。


『わぁ凄い!?』

『レッジャーノ幻想動物園に、邪龍さんがやってきた!』

『いきいきと大迫力の邪龍さん! みんなを誘って見に来よう!』


 明るくポップな字体が映える。

 チラシには、たしかにそう書かれていた。


「は、はぁっ!?」


 驚きに思わず甲高い声を上げてしまう。

 わなわな肩を震わせていると、俺の背中越しにオストが手元のチラシを覗き込んできた。


「どれどれ……?」


 オストはそこに書かれた文字を読むなり、ぱぁっと顔を明るくさせた。


「うはぁ!? 目玉商品の移籍か!? ピンチ! こんなの、絶対的ピンチじゃないか!」

「モツァレラさんが! モツァレラさんが引き抜かれちゃったのです!」

「あは! まさか僕が入って早々、こんな素晴らしいピンチが到来するなんて!」


 従魔たちがぎゃあぎゃあと騒ぎ出す。

 俺は手元のチラシをぐしゃっと丸めて、喉の奥から声を絞りだした。


「…………おのれ、あの邪龍の小娘め!」


 甘い顔をしていれば、主従関係も弁えずに図に乗りよって!


「ピーンチ! ははっはー! ピーンチ!」

「あわわわわ。ヘッドハンティング! ヘッドハンティングなのです!」

「ええい、うるさいぞ、お前たち!」


 一喝してふたりを黙らせる。


「とにかく、レッジャーノ幻想動物園とやらに向かうぞ! すぐに支度をしろリコッタ!」

「は、はいなのです!」

「僕は!? 僕も行きたいぞフォル!」

「お前は麒麟舎で缶詰なのだ! モツァレラの分までしっかりと客を楽しませておけ!」


 オストが「そんなぁ」と情けない声をだす。

 その隣ではリコッタが手際よく、いつもの大きなザックに荷物をまとめて、よいせと背負った。


「いくぞ! お仕置きをしてくれるのだ! 待っていろモツァレラめ!」

「準備オーケーなのです!」


 俺はリコッタを引き連れて、園長室を飛び出した。


こちらの章から隔日投稿とさせて頂きます。

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