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slapstick fantasy ~王都外れの幻想動物園~  作者: 猫正宗
第2章 麒麟さんを捕まえて経営アドバイザーにしよう!
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05 麒麟を見つけたが様子がおかしい。

「――ッ!? いたぞ! 麒麟だ!」

「はぁ、はぁ。ま、待って下さいなのですよぉ!」


 やっと見つけた!

 木々の合間を縫って、カッポカッポと歩く麒麟の後ろ姿が見えた。


 遠目からでもはっきりとわかる。

 かなりの巨体だ。

 叫び声に気付いて、麒麟がこちらを振り返った。


「な、なんだお前たちは? 僕に何の用だ?」


 そういえば麒麟は普通に人語を操れるんだったな。


 麒麟との距離を1歩ずつ詰めていく。

 俺は初めて生で拝む麒麟を、じっくりと観察した。


 鹿とも馬とも思える立派な体躯に龍の顔。

 これは展示映えするぞ。

 迫力もあるしな。

 だが今しがた麒麟から発せられた声色は、『僕』なんて言っている割に年若い女のものである。


「俺の名はフォルマッジョ・クラフトマン! 幻想動物園の園長さまだ!」

「……は、はぁ?」


 麒麟は訝しげに首を傾げて、どこか軽い感じの声だ。


「お前たちは商工会議所の追っ手ではないのか? それでその園長さまが、どうした?」


 目の前の霊獣が、俺とリコッタを交互に眺める。

 先ほど俺がそうした様に、麒麟も俺たちを観察しているのだろう。


 ふむ。

 いきなり逃げ出したりはしないようだ。

 どうやら話をするつもりはあるらしい。


 それならばと、俺は単刀直入に用件を伝えることにした。


「おい、お前! 黙って俺の従魔になれ!」

「……いきなり随分な物言いだな。というよりも、従魔? 一体なんの話をしている?」

「俺はビーストテイマーだ。そしてこれからお前をテイムする」


 麒麟が訝しげな態度を、より一層露わにする。

 その表情は読めないが、おそらく今こいつは俺のことを警戒しているのだろう。


「……ビーストテイマーなんて言う割りに、従魔の1匹も連れていないようだが?」

「ふふん、お前の目は節穴か? リコッタ! この獣に、お前の山猫姿を見せてやれ!」

「は、はいなのです!」


 リコッタがぽややんとその姿を山猫に変える。

 さすがにこれには少し驚いたようで、麒麟は驚嘆の呟きを漏らした。


 巨大な霊獣が興味をそそられたように頭を下げて、小さな山猫姿の彼女を不思議そうに眺める。

 しばらくしてからリコッタは獣耳少女の姿に戻った。


「こんな感じで、フォルさまの従魔になると『人化』の能力が得られるのです」

「面白い。人化か。その能力を得て、人の姿で人の世に紛れて暮らすのも悪くはないが……」


 ……お?

 なんか意外と好感触だぞ?


 もっと難色を示されるかと思っていたが、案外今回のテイムはすんなりいくかもしれん。

 よし、ここは押しどころだ。


「そうだろう、そうだろう! しかも今なら、好待遇でお前を園に受け入れてやるぞ?」

「……好待……なんだと?」


 麒麟の目が鋭くなった。


「くくく。従魔となった暁には、お前も我がクラフトマン幻想動物園で働いてもらうことになる。だが、なぁに心配するな! うちの動物園の経営は非常に安定している! 宿舎完備で福利厚生もばっちり充実だ! 同僚になる従魔のみんなも、毎日笑顔で働いておるぞ!」


 一気に捲したてる。

 麒麟の目がますます鋭くなっていく。


「……安定した、経営……」

「そうだ! お前は今、路頭に迷っているのだろう? 給金も弾むぞ? しかもうちは至ってホワイトで、安心安全な職場だ!」

「……安心、安全……」


 麒麟が黙り込んだ。

 口を噤んだ麒麟の表情は厳しい。

 その目をみて俺は確信した。


 堕ちたな。

 これはもう俺の従魔になることを受け入れた雌の目だ。


「ふはっ、ふはははははははは! さあ、契約を交わそうではないか!」

「――断るっ!」

「な、なぬっ!?」


 馬鹿な!?

 これほどの好条件の何が不満なのだ!


 第一つい今しがた、あんなに熱烈な視線を俺に向けて、従魔になりたそうにしていたではないか!


「お、おいリコッタ! 聞き間違いか? 俺には『断る』と聞こえたぞ?」

「はいなのです、フォルさま。麒麟さんはたしかにそう言ったのですよー」

「な、なんだとぉ!?」


 麒麟は大きな体をプルプルと震わせていた。次第に鼻息も、ふぅふぅと荒くなってきている。


「どいつも、こいつも……」


 麒麟が堰を切ったように愚痴をこぼし始めた。


「安定、安心、安全! そんなのばっかりじゃないか! もうたくさんだ!」


 額に青筋を立てて、どうやら相当堪っていたようだ。


「お、おい麒麟?」

「ど、どうしたのですか?」


 麒麟がクワッと目を見開いた。


「いっつもそうだ! 商工会議所の連中め、ぶくぶくと肥え太った豚ばかりを僕の目の前に連れてきやがって! もうお前たち十分稼いだだろう! これ以上の富を欲してどうしようと言うのだ! 更に安全な儲け方なんぞ僕に求めるな! 大体人生に挑戦はつきものだろう! 波瀾万丈でこそ人の生は輝くし、それは霊獣だって同じなんだ! 同じなんだよ! あそこにいると生きながら腐っていくんだ! わかるかお前にこの感覚が! 挑戦のない一路順風、すべてがとんとん拍子な毎日! 永劫に続くかのように変哲のない、そんな怠惰とさえ思える日々のなかで自分が腐っていくんだ! 挑戦がしたい、挑戦がしたい! 僕は挑戦がしたいんだよぉ! 挑戦がッ、挑戦……うわあああああああん!」


 目の前の獣が、唾を飛ばして叫びだしたかと思うと、今度はわんわんと泣き始めた。


 というか、情緒不安定にもほどがあるだろう。

 大丈夫か、こいつ?


 一瞬やっぱり従魔にするの止めようかなぁ、なんて考えが浮かんだが、せっかくこんな僻地まで追いかけてきたんだ。

 ともかくまずは宥めようと、麒麟に近づいてく。


「お、落ち着くのだお前。そ、そうだ、リコッタ! ザックから飴ちゃんを――」

「来るなああああああっ!」


 天から稲妻が降ってきた。

 俺と麒麟の間に落ちた極太の雷が、視界を明滅させる。


「うお!? な、ななな、なんだというのだ!?」

「フォ、フォルさま! 大丈夫なのですか!」


 ぷすぷすと大地が焦げるにおい。

 顔を上げれば、麒麟と目が合った。

 麒麟は額の一本角に、チリチリと微弱な稲妻の残滓を纏わせている。


「――な、なんだ今のもの凄い音は!?」

「――落雷だ! こっちから聞こえてきたぞ!」


 遠くでガヤガヤと騒ぐ声が聞こえた。

 大勢の人間の気配がする。王都中央警備隊のやつらだ。


「くそ! アイツらもうこんなところまで追いついてきたのか!」


 どうやらいまの轟音を聞きつけたようだ。

 彼らの気配に気付いた麒麟が、さっと身を翻した。

 俺は立ち去ろうとする後ろ姿を呼び止める。


「ま、待つのだ!」

「うわああ、うわあああああああん!」


 情緒不安定な麒麟は泣き止まない。

 静止の声を無視して、空中を蹴り、天に向かって駆け出していく。


「ちっ。追うぞ、リコッタ! ここまで来て、逃がしてたまるか!」

「は、はいなのです!」


 巨躯が遠退いていく。

 俺たちは大慌てで、麒麟の背中を追って駆けだした。

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