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slapstick fantasy ~王都外れの幻想動物園~  作者: 猫正宗
第2章 麒麟さんを捕まえて経営アドバイザーにしよう!
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04 麒麟を探して

「なぬっ!? お前は!?」

「あぁっ!? 勇者さまなのです!」


 ペコリーノが額に掛かった前髪を掻き上げた。

 前にあったときと寸分違わぬ、気の強そうな眼差し。

 真っ直ぐに俺たちを見据えてくる。


「久しぶり……、というほどでもないわね。フォルマッジョ・クラフトマン」

「そういうお前はペコリーヌ」

「ペコリーノだっつってんでしょ!」


 相変わらず気の短いやつだ。

 ちょっとしたことですぐに腹を立てやがる。


「ゆ、勇者さま、困ります!」

「……なにが困るのかしら?」

「勇者さまは、我々とともに麒麟を捕縛することがそのお役目のはず! 不逞の輩を庇い立てされては困るのです!」

「……不逞の輩ねぇ。果たしてそれは、どちらなのかしらねぇ」


 ペコリーノと男どもが、わちゃわちゃと揉め始めた。

 煙玉を投げつけるタイミングを失ってしまった。

 黙ってことの成り行きを見守る。


「大体ねぇ。あたしが庇ったのはそっちの園長さんじゃなくて、あなたたちなんですけど」

「……は?」

「わからないかしら? あのまま争いになっていたら、下手をすればあなたたち、……皆殺しにされていたわよ?」


 ペコリーノの言葉に男たちが目を丸くする。

 だが次の瞬間には堰を切った様に笑い出した。


「は、ははは! これはまた! くくくく!」

「勇者さまでもご冗談を仰るのですなぁ! ははは!」

「ひひひ……。み、皆殺しときましたか、わははは!」


 馬鹿笑いだ。

 そんな警備隊の様子を眺めて、彼女は小さく嘆息する。


「……まったく。知らないって幸せなことよねぇ」


 ペコリーノは笑い続ける男たちに一頻り軽蔑の視線を向けた。

 俺のほうを振り返る。


「ねぇ園長さん。あなたも麒麟を探しているのよね?」

「……ふん。何のことだ?」

「なにか情報を持っているのなら、教えてくれないかしら?」

「それを聞いてどうする?」

「あたしたちは麒麟を探しているの。王都商工会議所から王国に依頼があったのよ」


 なるほど。

 それで王都中央警備隊なんぞが、出張ってきているのか。


 だがそれにしたって勇者までが、獣1匹ごときの捜索に随行することはないだろう。

 まぁこのご時世、世間的に魔王は不在なのである。

 倒すべき敵もいなくて、よっぽど暇を持て余してるんだろうなぁ、こいつ。


「それでペコリーヌよ。お前たちは麒麟を見つけたらどうするつもりなのだ?」

「どうもしないわよ。商工会議所に返すだけ」


 それは困る。

 そんなことをされては、我がクラフトマン幻想動物園の新目玉商品、兼ただ働き経営アドバイザーをゲットするという、俺の計画がパアになるではないか。


「……おい、リコッタ」


 チラと背後に視線を向ける。

 声を潜めながらリコッタに話しかけた。


「……いまから5秒後だ。あっちに向かって全力で走り出すのだ」

「は、はい?」


 戸惑うリコッタを放ったままペコリーノに向き直る。


「それでどうなの? 情報を持ってるなら教えなさいよ」

「……さぁてなあ」

「もちろんただとは言わないわよ? 内容次第で相応の謝礼を――」

「ふんっ!」


 言葉の途中で煙玉を投げつけた。

 連中のまっただ中に着弾したその玉から、もうもうと煙が立ち上る。


「――んなっ!?」

「いまだ、リコッタ! 走るのだ!」

「は、はいなのです!」

「な、なに!? なんなのこの煙は!? こほっ、こほっ」

「ふは、ふははははは! 馬鹿者が! あの麒麟は俺のものなのだ! お前らなんぞに渡してたまるかー!」


 高笑いを残して、俺はリコッタとともにその場を走り去った。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「麒麟! 麒麟のやつはどこなのだ!」


 ペコリーノや王都中央警備隊を撒いた俺たちは、麒麟の行方を追って険しい山道をひた走る。


「はぁ、はぁ……ま、待って下さいなのですよぉ、フォルさまぁ!」

「先ほどチラッと姿が見えたときは、たしかこの辺りに消えていったはずだ……」


 立ち止まり、辺りを見渡した。

 だが麒麟の姿はどこにも見当たらない。


 歯痒い気持ちで唸っていると、大きなザックを背負ったリコッタが、ひいこら言いながらようやく追いついてきた。


「こら、遅いぞ!」

「ひ、酷いのですよぉ! ぜえ、はぁ。フォルさまも荷物、持って欲しいのです!」

「却下だ!」


 リコッタの泣き言を一蹴した。

 辺りを注意深く探る。


 地面に蹄の跡のひとつもないものか。

 いやそういえば麒麟のヤツは、空をパカパカと駆けていたな。

 となると蹄の跡なんて、残っていないかもしれない。


(……うぬぬ)


 早くしないと、せっかく撒いたあの厄介者どもに追いつかれてしまう。目を皿にして麒麟の足跡を探る。


「フォルさま。フォルさま」


 膝に手をついていたリコッタが、息を整えてから側に寄ってきた。


「なんだ? 今は忙しいのだ。というかお前も麒麟の痕跡を探すのだ!」

「えっと、それも大切だと思うのですけど、フォルさまはどうやって麒麟さんを捕まえるつもりなのですか?」


 そういえばそうだな。

 改めて考えてみる。

 当初の計画では、麒麟の寝込みを襲ってふん縛ってやろうと考えていた。

 何度でも寝込みをアタックという方法である。

 まぁ邪龍のモツァレラを捕まえようとしたときと同じ要領だ。


「……とはいえ、今度もそんな悠長なことはしてられんな」


 なにせ背後から厄介者どもが追いかけてきているのだ。

 特にペコリーノに追いつかれたら面倒この上ない。


「ぐぬぬ、仕方あるまい。今回は交渉で解決する、麒麟のヤツは、好待遇で招き入れざるをえんか」


 そうだなぁ。

 3食昼寝付きの週休2日。

 さらに従魔手当を5000イエンつけてやろう。

 これならきっと飛びついてくるぞ。


 逃げ出した麒麟のことだ。

 今頃ヤツも行き場をなくして、路頭に迷い始めている頃合いだろう。

 となればこれは破格の条件だ。

 うちも財政はギリギリだが、なぁに雇用条件だってそのうち働きに応じて下げ、……見直してやればいい。


「……く、くくく」

「ふ、ふぇ? フォルさま? また良からぬことを考えているのですか?」

「ええい、やかましい! ここには麒麟はおらん! さっさと向こうを探すぞ!」

「は、はいなのです!」


 リコッタを連れて、俺は再び山道をかけ始めた。

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