03 我らは王都中央警備隊
「よしリコッタ! それでは聞き込みを始めるぞ!」
「はいなのです!」
さて。
では早速、麒麟の捜索だ。
街路樹の枝でチュンチュンとさえずっているスズメの下へ足を運ぶ。
「どこにいくのですか、フォルさま?」
「……お前、俺の能力を忘れたのか?」
俺は凄腕のビーストテイマーだ。
他のビーストテイマーには出来ないことでも、俺ならできる。
そのうちのひとつが、動物との『会話』なのである。
「おい、そこのスズメ!」
「……チュン?(……何かしらぁ?)」
「あ、なるほどなのです」
ようやく理解が追いついたようだ。
まったく鈍いやつめ。
リコッタのことは放っておいて、聞き込みを続ける。
「お前、最近ここいらで麒麟が逃げ出したのは知っているか?」
「チュン、チュチュン(ええ、もちろん知っているわよぉ)」
「ほう……。リコッタ! コイツにパン屑を与えてやるのだ!」
リコッタがザックからパンを取り出して、細かく千切る。
スズメは与えられたパン屑を美味そうについばみながら、教えてくれた。
「チュン、チュンチュンチュ……(あれはそう、数日前の明け方だったわ……)」
「いいから手短に話すのだ」
「チュンチューン(んもうっ、せっかちさんなのねぇ)」
スズメが言うには、なんでも麒麟は東の方角へと、空を駆けながら去って行ったらしい。
「よし! この調子で聞き込みを続けていくぞ!」
「はいなのです、フォルさま!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
数日後。
俺たちは、王都から遠く離れた山間部までやってきていた。
ここは霊験あらたかな霊峰の麓だ。
むき出しになった山肌を晒して、いくつもの尾根が連なっている。
遠くの峰は霞んでしまって、はっきりと姿を眺めることは叶わない。
「ええい、まったく! どこにいるのだ麒麟のヤツは!」
なかなか姿を見せない麒麟に腹を立てる。
とはいえ、さすがにもう近いはずだ。
麒麟を目撃したと話す動物たちの数が、あからさまに増えてきている。
この感じだと、もうそろそろ見つかってもよさそうなものなのだが……。
「ぜぇ、ぜぇ、フォ、フォルさま……。そろそろ、休憩したいの……です」
先に立って歩く俺の背中に、リコッタの声が投げ掛けられた。
息を切らして、なんとも情けない声である。
「さっき休憩したばかりではないか!」
「さ、さっきって、朝に休憩しただけなのです。もう結構、経ってるのですよぉ! ぜはぁ」
そうだったか?
リコッタは山のような荷物を背負って、膝をプルプルと震わせている。
まったく軟弱なヤツめ。
だがたしかに、少し休憩をいれたほうが良さそうだ。
「ちっ、あそこの岩場まで歩くぞ。着いたら少し休憩だ」
「は、はいなのです! ぜぇはぁ、やったぁ!」
リコッタの表情がぱあッと華やいだ。
「んくんくんく、ぷはぁー、うまい! もう1杯なのです!」
大きな岩の縁に腰を下ろしたリコッタが、脚をぶらぶらさせながら水筒の水を飲んでいる。
幸せそうな吐息。
腕でぷはぁと口元を拭うその様は、まるで酒飲みのオッサンのようだ。
「なかなかいい眺めなのですねぇ」
鼻歌を歌いながら、彼女が遠くを見通した。
俺もつられて視線を遠くへと向ける。
目に飛び込んできた景色は、大小様々に連なる山々と遠く霞む峰。
絶景だ。
水墨画にでもすれば似合いそうな風景である。
「まったく、こんなところまで遠出をする羽目になるとは……」
1日、2日で見つかると思っていたが、見通しが甘かったようだ。
なかなか骨が折れる。
正直ちょっと面倒になってきた。
「まったく……。どこにいるのだ麒麟のやつめ」
ぶつくさとこぼした途端、遠くの空を霊獣が駆けていった。
「ちょ!? あれ見ろリコッタ! あそこなのだっ!」
いま麒麟がいた!
悠然と空を駆けるその霊獣は、後ろ姿をちらっと見せたあと、山間へと消えていく。
「あ!? いまのは麒麟さんなのです! フォルさま!」
「わかっておるわ! いくぞリコッタ、ついてこい!」
腰を上げて走り出した。
リコッタが大きなザックを背負ってその後に続こうとする。
だがそのとき――
「待てい、貴様ら!」
山の麓側。
少し視線を下げた方向の離れた位置から、何者かに呼び止められた。
いきなりの大声に少し驚いてしまう。
「なんなのだ、急ぐというのに!」
「貴様ら、このような場所でなにをしている!」
声の出所に目を向ける。
するとそこには幾人ものむくつけき男たちがいて、こちらを睨み付け、坂を登ってくるところだった。
「ただの旅人には見えんな……。怪しい奴らめ! 名を名乗れ!」
「はん! お前たちのほうこそ何者なのだ!」
「我らは王都中央警備隊! 王都の商工会議所より逃げだし、行方知れずとなった霊獣麒麟を探している!」
王都の?
警備隊などという割りに、柄の悪そうな男たちだ。
男らは横柄な態度を隠そうともせずに、肩をそびやかせながら歩み寄ってくる。
「おい、貴様らぁ? なぜ我らから逃げようとしたんだ? んん?」
「……なんのことなのだ?」
「とぼけるな! 我らの姿が視界に入った途端、逃げだそうとしただろうが!」
話しかけてきた男が、威嚇する様にそばの岩をガンと蹴飛ばした。
どうやらこいつらは、俺とリコッタが急いで麒麟を追いかけようとしたのを見て、なにか勘違いをしたらしい。
「ほぉら、言ってみろ貴様? 山賊行為にでも精を出していたかぁ? んん?」
「山賊!? ち、違うのです! わたしたちは麒麟さんの姿が見えたから急いで――」
「あ!? こら、リコッタ!」
「――んもごォッ!?」
慌ててリコッタの鼻と口を手で塞いだ。
しかし少し遅かったようだ。
警備隊の男たちの目の色がみるみるうちに変わっていく。
「おい、そこの女ぁ、もう一度行ってみろ! 『麒麟』がどうしたって?」
「んもごぉ! ふもごぉ!」
「ええい、お前はもう喋ろうとするな! 愚か者め!」
腕のなかでリコッタがジタバタと暴れている。
顔を真っ赤に染めて何だか苦しそうだが、取りあえず放っておく。
「言え! 麒麟を見たのだな! おお?!」
「ふんっ。知らんのだ、そんなことは」
「隠し事をするとためにならんぞぉ! 痛い目にあわされたいのか?」
「……なんだと?」
やる気かこいつら。
というか山道ですれ違った一般人を相手に、何をどうするつもりなんだ。
俺はそっとリコッタの口から手を離した。
「ふもがぁ! こほっ、けほっ! ……すぅぅ、はぁぁ」
リコッタが大きく息をしている。
腕に抱えた彼女が、恨みがましそうな目で俺を見上げてきた。
「ひ、酷いのですよ、フォルさまぁ……」
「ええい、やかましい! 迂闊なことを喋りよってからに!」
「ごごご、ごめんなさいなのです!」
両手で頭を抱えながら、リコッタが丸くなる。
彼女はその姿勢のまま、小声で話し出した。
「お、王都中央警備隊って、過剰な暴力沙汰をよく起こすので、すごく問題視されているのですよ。たまにニュースになるくらいなのです」
「……ふん」
「気をつけて下さいなのです、フォルさま。この人たちは荒っぽいのです」
抱きとめていたリコッタを腕から解放する。
にやにやと嫌らしく嗤いながら、威圧してくる警備隊の連中に向き直った。
「麒麟など知らん」
「ほう、白を切るつもりか? 痛い目を見なければ分からんようだなぁ?」
「……図に乗るなよ三下ども。俺を誰だと思っている」
どうやら争いは避けられないようだ。
「リコッタ、お前は下がっているのだ!」
多勢に無勢ではあるが、まあなんとかなるだろう。
軽く煙に巻いたら、ザックごとリコッタを担いで逃げてしまおう。
俺はそう考えて覚悟を決める。
「腕の2本や3本は覚悟してもらわねばなぁ。くくく」
柄の悪い警備隊の男どもが武器を構えた。
それと同時に、俺も腰に佩いた剣をシャキーンと引き抜く。
……と見せかけて、反対の手に煙玉を握りしめた。
(こいつをぶつけて、とっととトンズラなのだ)
「一介の冒険者風情が! 我ら王都中央警備隊に歯向かったことを後悔させてやる!」
「ふん! 俺は冒険者ではない! 幻想動物園の園長さまなのだ!」
緊張が高まっていく。
まさに一触即発といった雰囲気だ。
……先手必勝!
煙玉を振りかぶった。
そのとき――
「幻想動物園の園長……? はっ!? ま、待ちなさい、あなたたち!」
緊迫した空気を引き裂いて、凜とした声が響き渡る。
警備隊の男たちを掻き分けて、後方からつい最近知り合った顔が進み出てきた。
「いますぐに争いをやめなさい!」
「ゆ、勇者さま……」
男たちがたじろぐ。
人垣を割って現れたその人物は、金髪碧眼の女勇者ペコリーノ・ロマーノ。
その人であった。




