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 -9 『殺意溢れるアットホームな職場です』

 結局、その少女がドラゴンであることは間違いないようだった。


 スクーデリアと名乗るそのドラゴンは、自分の艶かしい手足を眺めながら感慨深そうにしていた。


「懐かしいわねぇ、この姿。私が二十歳の頃だから、二百年ぶりくらいかしら」

「二百年?! 何歳なんだよいったい」


 その人間的な外見は、どこからどう見てもせいぜい十八歳程度だ。


「竜族は長命なんです」


 そう教えてくれたのはミュンだった。


「竜族の寿命はおおよそ七百年といわれています」

「マジか。すげえな」


 なるほど。だとしたら、仮に二百歳としてもまだ若い部類に入るわけだ。


 スクーデリアに先ほどまでの攻撃的な様子はなくなっている。

 力が抑えられて、性格も大人しくなったということだろうか。


 とにもかくにも、スクーデリアが力を失ったのは、やはりマルコムの腕輪による封印のおかげということだ。


「ちなみにあれ、術者を殺せば封印も解けるわよ」


 しれっとヴェーナが呟く。

 途端、スクーデリアの目に閃光が走ったように見えた。


 だがマルコムはそんなことも露知らず、高笑いをしている。


「はーっはっはっ。こんなか弱い女性になった彼女にみすみす殺されるような勇者ではないさ」

「あらぁ、随分とたくましいのねぇ」

「当然さ。勇者だからね。もう一度言うよ。勇者、だからね」


 スクーデリアがマルコムに歩み寄り、おっとりとした口調で投げかける。


 それに気分をよくしたマルコムは、間近に見える彼女のたわわな胸元を何度も盗み見ながら有頂天に舞い上がっていた。


 まるでキャバクラでキャバ嬢おだてられるオッサンのようだ。勇者という称号の輝きなんてどこにもない。


「さっすがぁ。こんな凄く頼もしい人に攻撃しようとしてたなんてぇ。わたし、どうかしてたのねぇ」

「なあに気に病むでない。許そう。勇者は懐が深いのでな。もう一度言うよ。勇者は懐が――ふごっ!」


 優しく寄り添っていたと思ったスクーデリアが突然にマルコムの後頭部を掴み、押さえ込んで激しく地面に叩きつけた。


  『ダメージ300』


 不意打ちのクリティカルヒット。

 明らかな致命的ダメージである。


 しかしマルコムはむくりと立ち上がる。


「あぶない。致命的なダメージを受けたときに確率で1で耐えられる『女神の加護』がなければ即死だった」


 なんだよそれ。

 というか、保険入っておいてよかったぐらいの軽いノリで言える状況ではないだろうに。


「ごめんなさぁい。この体は久しぶりだから手が滑ってしまってぇ」


 ほがらかにスクーデリアは言う。


 いや、明らかに嘘だろう。

 殺意がなければダメージとして通らないことは把握済みだ。


 だがそのことを知ってか知らずか、マルコムはまた鼻血を吹き出した顔でへらへらと笑みを浮かべていた。


「まったくぅ。このおっちょこちょいめ。女神の加護が発動しなければ即死だったゾ!」


 ハートマークでもつきそうな軽いノリで返すマルコムに、俺はもはや呆れを通り越して笑ってしまった。


 お人好しなのか、ただの馬鹿なのか。


 おそらく後者だろう。


 苦笑を浮かべる俺の頬を、吹き矢の針がかすめる。


 ふとヴェーナを見やると、頭の後ろに手を組みながら素知らぬ顔で口笛を吹いていた。


 こいつ、明らかに俺を殺すつもりでやりやがった。


「あぶねえだろ!」

「え、なんのこと?」

「後ろの手に吹き矢握ってるの見えてるんだよ」

「これは……竹笛よ」


 嘘付け。無理があるだろ。

 むしろこんな状況でおもむろに笛を取り出す奴の方が意味がわからない。


 ヴェーナから向けられている明確な殺意。


 そのヴェーナがもう見習いとは知らず「私は魔王を倒す勇者だ」と意気込むマルコム。


 そんなマルコムを、力を取り戻すために明らかに狙っているクーデリア。


 なんてひどい相関図だろうか。

 みんながみんな、殺意高めすぎだろ。


「エイタさん。疲れたお顔ですけど大丈夫ですか?」


 ミュンが心配そうな顔を浮かべながら健気に覗き込んでくる。


 その素直な優しさに、俺は心の中で涙を流し得ないくらい安心した。


「ミュン。お前がいてくれてよかったよ」

「ふえっ?!」


 俺ががっしりと彼女の肩をつかんだせいで、ミュンの顔が真っ赤に紅潮する。


「いつまでも、綺麗なままのミュンでいてくれ」

「は、はい……?」


 俺の言葉にミュンはきょとんとしていたが、それでいい。

 殺伐としたこのメンバーの中の唯一の清涼剤として、俺は彼女の存在に心から感謝した。


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