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 -8 『初めてのドラゴン退治』

「来いよドラゴン。今度は俺が相手だぜ」


『強イチカラ……寄越セ……』


 やはりこのドラゴンには俺の最強の能力が知られているようだ。俺が少し歩くだけで、奴も追いかけるように後を付いてきた。


 間違いなく狙いは俺だ。

 だが注視してくれているだけヴェーナが不意を突きやすくなる。


 あとは適当にミュンたちを守りながらヴェーナに攻撃させるだけだ。


『チカラァ……』


 ドラゴンの口許で赤みがかった光が丸く収束しはじめる。


「ドラゴンのブレスです。とても強力な攻撃魔法です」


 後ろで尻をついているミュンがそう教えてくれた。


 ドラゴンの口許に強い力が集まっているのがわかる。ぴりぴりと肌を焼くようなざわつきが、その力の強大さを感じさせた。


 大技がくる。

 さすがにそのまま素直に受けるのは危ないだろうか。


「なにしろHPが10しかないんだもんな。」


 かといって避ければ、後ろにいるミュンに直撃してしまうだろう。


「エイタ様、これを」


 ミュンが這い蹲るようにして、背中のバックパックに刺さっている長剣の柄をこちらに差し出してきた。


「このクレスレブは魔を切り裂く魔法剣だと聞きます」

「なるほど」


 いよいよドラゴンからブレスが、太い光線のようなブレスが放たれた瞬間、俺はクレスレブの柄を手にして居合いのように乱雑に振り抜く。


 その白銀の刃によって、ブレスはチーズを裂くように割れ、霧散した。


 熱波が漂い、強大なブレスの余韻が肌を焦がす。


 すごい。

 こんな戦闘、ゲームで見た。

 まさか自分が経験することになるとは思わなかったが。


 学校の勉強みたいに「ここ○○でやったとこだ」なんて予習できてたらよかったのだが、いくらゲームで予習しても意味がないだろう。


『ホウ……耐エルカ……』


「あんなもん、今の俺からすれば羽無しの暖房扇風機みたいなもんだぜ」


 へへっ、と余裕に鼻を鳴らす。


 ドラゴンが俺たちへ攻撃してきた隙を見計らい、こっそりと背後に回ったヴェーナが吹き矢を飛ばした。


 俺にさっき1ダメージ与えたとげ針だ。


 よりのもよってなんでそんな地味すぎる攻撃を、とも思ったが、最低保証のおかげでダメージが通る。


 しかしドラゴンは飛んでくる針にいち早く気付き、軌道を見極め、翼を羽ばたかせた風によってそれを払い落とした。


『当タラナケレバ……ドウトイウコトハナイ……』


「なるほど、その手があったか!」


 目からうろこといった風にヴェーナが驚いた顔を見せる。


「なにやってるんだ馬鹿」

「だってあんたには通じたもん!」

「そ、それはそうだけど……」


 しっかり1ダメージ通された俺はつい口ごもってしまった。まるで俺まで間抜けだったみたいで、自分の情けなさが口惜しい。


『猪口才ナ……マトメテ屠ッテヤル……』


 ドラゴンがまた口許に炎を纏い、今度は見上げた空全体を満遍なく覆うかのような幅広いブレスを吹き出した。


 クレスレブによってどうにか直撃こそは免れる。

 だが、撒き散らされた炎は、、俺達の周囲の地面を溶かすように焼いた。


 地面が溶岩のように明るく発光し、熱を放つ。

 噴き上がる白い煙とともに熱気が俺たちを襲う。


「あつ、熱っい!」


 肌が焼けそうなじりじりとした痛み。


  『ダメージ1――ダメージ1――』


「ちょっと待て、ちょっとずつ削られてるじゃねえか!」


 まさかのスリップダメージか。


 同じくダメージを受けているミュンを抱え上げ、大急ぎで焼け焦げた場所から離れる。


「あ、ありがとうございます」


 米俵のように運ばれるミュンが照れくさそうに頬を染めて礼を言う。だが、俺にとってはそんな場合ではない。


 継続ダメージを受けてしまったせいで、俺のHPはもう5になっていた。


 ――最強ステータスを手に入れたはずなのにもう半分じゃねえか!


 最強ものはもっと、苦労もせずにあっさりと勝てるものなのではなかったのか。


「俺が思ってた最強ものと違うぞ馬鹿やろう!」

「最強、もの?」

「いや、こっちの話だ」


 それもこれもヴェーナのせいだ。

 それと、ダメージ最低保証。せめて無効化くらいしてくれよとは思う。


 なんて理不尽な世界なんだ。


「もういっそのこと『やる』か……」


 後のことばかり考えていても、今をしくじれば意味がない。


 ミュンを離れたところに放置し、俺は「よし」と覚悟を決めた。


「そっちが炎なら、こっちだって」


 腕に力を込める。

 さっき、ヴェーナに対して放った時の感覚を思い出す。


 攻撃魔法。

 ダメージが通るように、殺意を込めて。


 ――フレイム!


 そう唱えようとした途端、しかしドラゴンの真下で蠢く何かに気付いた。


 マルコムだった。

 鼻血を盛大に垂らしながら、地を這うように忍び迫っていた。


 懐から何か腕輪のような物を取り出し、ドラゴンへ向けて掲げる。


「私は……勇者……。全世界の女性のため、決して、負けは……許されぬのだ……」


 掲げた腕輪が眩しく輝く。


「――シール!」


 そうマルコムが唱えた途端、その腕輪の輝きは腕のように伸び始め、頭上に佇むドラゴンを瞬く間に包み込んだ。


『ナッ……コ、コレハッ……!』


 光に包まれたドラゴンを中心に、まるで包帯で幾重にも巻かれるかのように、呪文の刻まれた光の帯がその巨体を締めつけていった。


 ドラゴンは暴れるが、その拘束を抜け出せない。もはや物質ではなく概念に縛られているかのように、ドラゴンを包む光の帯は伸縮自在だった。


 やがてその帯の発光が落ち着きを見せると、ドラゴンはたちまち大人しくなった。そして光の帯が緩やかに解け、マルコムの持つ腕輪へと戻っていく。


 そうして、天を覆い隠すほどの巨大なドラゴンは、その巨躯を一瞬にして消してしまったのだった。


 俺は「何が起こったんだ?」と困惑していた。

 マルコムが何かをしたのはわかる。だが、攻撃ではなさそうだ。光の帯が奴を包んだとき、ドラゴンへのダメージ表記はいっさい示されなかった。


「ふふっ……」


 鼻血を垂らしながら、マルコムは前髪を払い、格好つけたポーズで不敵に笑む。


「勇者の私を油断したな。これは勇者にだけ与えられる、最強の封印魔法だ」

「封印魔法?」

「そう。勇者の素質を持つもののみが神より預かりし技。邪悪な力を持ちし魔物から魔力を奪い、この腕輪に封印する。それがこの魔法だ」


 そんな凄いものがあったのは。


「すごいじゃんか。それがあればどんな敵だって倒せるのか」

「なお、クールタイムはあと1000日だ」

「……は?」

「あと1000日だ」


 ――ほぼ三年後じゃねえか!


 おそらく魔王と戦うための神聖な道具なのだろう。

 果たしてこんなところで使ってしまってよかったのだろうか。


 だがマルコムは、皆を守れたという充足感からか、まったく後悔のなさそうな笑みを浮かべていた。


 まあ、いい奴なのだろう。


「……アイタタタタ」


 巨大なドラゴンの姿があった場所から、艶やかな声がふと聞こえる。


 おっとりとしていて、間の抜けた可愛らしい声だった。


 ドラゴンの浮かんでいた真下から、にょきりと人影が立ち上がる。


 ほとんど黒に近い褐色の髪。熱を持ったように火照って見える健康的な肌。髪は翼のようにふわりと膨らみのあるパーマで、身の丈ほどの長さがあった。


 なにより特徴的なのは、前かがみに立ち上がった彼女が揺らす胸元のふくらみ。

 ヴェーナやミュンのような幼げな体つきと比べて、ひどく目に毒なたわわな果実がくっついていた。


 そんな突然現れた彼女が、組んだ腕に豊満な胸を乗せながら眉をひそめる。


「もう、ひどいわねぇ。いたいけなドラゴンにこんな仕打ちだなんて」

「この子が、ドラゴン?」


 首をかしげる俺に、いまだ鼻血を流したままのマルコムが自信気に言う。


「私の魔法は大成功なのだ。しかとあのドラゴンの力を封印できたのだ」

「マジか。ってことは、本当にあの子がさっきのドラゴンってことか?」

「その通ぉぉぉぉり!」


 マルコムが鼻血まみれになった胸を張る。


 衝撃的だ。

 あれほど巨大で凄みのあったドラゴンが、まさかこんなッ綺麗な女の子になってしまうとは。


 メスだったということなのだろうか。

 それにしては声がずいぶん野太かったが。


 呑気に欠伸を浮かべながら伸びをするその女性に、俺たちの視線が一心に注がれる。


 ぐっと胸をそらすと、たわわな巨峰がぷるんと揺れ、俺とマルコムは吸い寄せられるように凝視してしまっていた。


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