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 -4 『没落ロリにプロポーズ』

 突然異世界に飛ばされて、最強のステータスを手に入れて第二の人生を歩み始められるかと思ったその矢先。

 思わぬ落とし穴に俺はショックを隠せないでいた。


 とはいえ放心している場合ではない。


 目の前にはネズミモンスターがおおよそ十匹。


 ダメージの最低保証があるのだとすれば、奴らに一斉に襲い掛かられれば俺はたちまち死んでしまうわけだ。


 なにしろHPはあと8しかないのだから。


「くっそう。最強ってなんだよ」


 どれだけステータスが高くとも、雑に十回殴られれば死ぬなら意味がない。


 俺の思い描いていた最強っていうのは、どんな攻撃も無効化したように跳ね返し、圧倒的な力で敵を捻じ伏せる。一切の危険もシリアスもなくて、高らかに笑いながら、常に余裕を孕んで異世界を謳歌する。


 そんな最高のセカンドライフだったというのに。


「とにかく、過剰とはいえ攻撃力はあるんだ。蹴散らすしかないな」


 やるしかない、と覚悟を決める。


 俺のすぐ後ろで頭を抱えながら屈み込んだ少女の、背負っている長剣の柄がちょうど目の前に伸びている。


 これなら殴るよりずっと早そうだ。


「この剣、借りるよ」

「ふぇ?! あ、あの、これは――」


 咄嗟に顔を持ち上げた少女の声も待たず、俺はその剣の柄を握って鞘から引き抜いた。


 白銀の刃が天にかざされ、まばゆく煌く。


 ――すげえ、マジモンの剣だ。


 チャンバラごっこしてた新聞紙でもなく、修学旅行などで売ってるプラスチックの刀でもなく。まさしく、武器としての剣。


 重さが手にずっしりときて、感慨深さが込み上げてくる。


「うおりゃあ!」と適当に振るってみると、空を切るように風の刃が伸び、風圧でネズミモンスターの体を切り裂いた。


  『80000』


 いいダメージだ。

 体力上限10だから無意味だけれど。でも爽快感はあるな。


 もう一度剣を横に一薙ぎ。

 腰の据わっていない素人の振りだが、筋力補正などがあるのだろうか、ネズミたちをばったばったと捻じ伏せることができた。


 気が付くと十匹前後いたネズミたちは、俺の数振りによってあっという間に全滅してしまっていた。


 ――なんかこれ、最強ものっぽくね?


 俺自身が苦労して得た力でもないのに、つい得意げに表情がにやける。


 最強の力を使って爽快に敵を倒し、女の子を救う。

 いかにも漫画やアニメの主人公っぽくて格好いい、気がする。


 ……ブスッ。


「いってぇ!」


 不意に、俺の首すじにとげ針のようなものが刺さり、たまらず悲鳴を上げた。


  『ダメージ1――残りHP7』


 あの俺に挑んできた少女が、少し離れたところで吹き矢を構えていた。


「チッ。混乱に紛れて暗殺するつもりだったのに」

「ふざけんな馬鹿!」


 チクリとする程度の一撃でも十回食らえばお陀仏なのだ。

 こんなところでどさくさ紛れに殺されてはたまったものではない。


 俺は急いで彼女の元に駆け寄り、ぱこーん、と頭を叩いた。


 少女のHPが減る様子はない。


「なるほど、殺意がなければ最低保証ダメージにはならないのか」


 つまりさっきの吹き矢にはちゃんと殺意が乗っていたわけだ。


 いっそのこと殺意を込めておけばよかったか。

 いや、命を狙われているとはいえ、女の子を傷つけるのは些か気が引ける。


 というか、モンスターならともかく、人を殺すことにも躊躇がある。

 最強の力を上手く使って、何事もなく、誰を殺すこともなく平和に過ごせれば一番だ。


「ま、とりあえずこれで一段落だな」


 他にネズミモンスターがいないか確認し、ようやく俺は一息ついた。


「大丈夫だったか?」


 地面にへたり込んだ女の子へ手を差し伸べる。


 ――あ、なんかこのシチュエーション格好いいかも。


 自分で自分にふと酔いしれそうになる。


 そう、まさにこんなことをしたかったのだ。

 最強の力で誰かをお手軽に助け、お手軽に感謝され、そのお礼でお手軽に生活できる。


 それこそが俺の、最高のスローライフ設計。


 きっと助けられた女の子は俺に感謝してたまらないことだろう。

 なんて考えていたが、しかし彼女は俺を見て、呆けたように口を開いたままだった。


 いや、視線の宛ては俺ではなく、俺が手にしている長剣だ。


 もしかして勝手に使ったのはまずかっただろうか。


「…………し」

「し?」


 女の子がぼそりと言葉を漏らす。

 そして目を見開いて俺の顔を見ると、


「信じられません! まさかこの怪剣を扱える人が本当にここにいただなんて!」

「な、なんだよ急に。まさか大変なことをしちゃったのか?」

「そうです。とても大変なことです!」


 息を荒げて女の子は続ける。

 そして体を激しく上下に弾ませ、前のめりになるように俺へと詰め寄って言った。


「責任をとって、結婚を前提に弟子入りさせてください!」

「……は?」


 弟子入りなのに、結婚?

 なんというか、いろいろと想定外すぎる。


 突然の少女のプロポーズに、俺は思わず呆気にとられてしまっていた。


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