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 -3 『責任者でてこい』


 叫び声は甲高い女の子のものだった。


 さっきもネズミが襲い掛かってきたくらいだ。他にも攻撃的なモンスターがいて、誰かが襲われていてもおかしくはない。


「お前の連れか?」

「何のことよ。それより命を――」

「あー、もういい!」


 目の前の少女は無視し、俺は声の聞こえた方へと急いで向かった。


 細い洞窟が長々と続いていたが、道はほとんど一本道になっていて迷うことはなかった。どうやらここは山の登山道らしい。薄暗い空洞ばかりかと思っていたが、少し走ると尖った岩肌を露出させた広場にたどり着いた。


 青い空が目に入り、明るさの違いに目が眩む。


 植物のあまりない岩山。

 巨大な生き物が口を開けたような形状の、断崖のへりとなったその広場で、身を屈めて座り込む女の子の姿を見つけた。


 大きな荷物を背負った小柄な少女だ。おそらくまだ十代前半だろうか。


 栗色で、セミロングのツーサイドアップな髪。リボンの付いたひらりとした短いスカートは、こんな無骨な山中にはひどく不似合いなほど可愛らしい。


 しかしもっと不似合いに見えるのは、彼女が背負っているものだ。荷物の詰め込まれた大きなバックパックと背中の間に、彼女の背丈ほどありそうな巨大な長剣が挟まれていた。


 あの子の武器なのか、と思ったが、当の彼女はと言うと、十匹前後のモンスターネズミに囲まれて泣き顔を浮かべている様子だった。


 とても戦えそうな様子ではない。


 これはもしや、窮地に立たされたヒロインの元へ駆けつけて救い出す、というよくあるパターンなのでは。


 ――なるほど。俺の最強能力はこの子を助けるためにあるんだな。


 そしてあわよくば彼女の深く感謝され、命の恩人と讃えられ、働かずとも飯が出てくるヒモ生活に移れるというところまで妄想した。


「よし、これだ」


 俺は颯爽と、その少女とモンスターとの間に立ち塞がった。さながらヒーローアニメのような状況に気分を高揚させながら、勝手に気前良く頬がにやける。


 庇うように手を広げた俺に、モンスターネズミの棍棒が襲い掛かってきた。


 だがそんな攻撃、防御力999の前には痛くも痒くもない。


 俺の頭上にダメージ表記の数字が浮かぶ。


  『ダメージ1』


 ほらな、カスダメージだ。


 続いて頭上に緑の体力ゲージが現れる。それが思ったより大きく減り、


  『残りHP9』


「………………ええっ?!」


 一割削られてるじゃねえか!

 というか、なんで俺のHPは10しかないんだよ!


 他のステータスはみんな999とかなのに。


 それに防御力だってカンストしてるんだ。

 アナライズで見ても攻撃力がたった3しかないネズミの攻撃くらい無傷で防げてもおかしくはないだろ。


 殴ってきたのとは別のネズミモンスターが、今度は石ころを投げてくる。それは緩やかな曲線を描き、俺の膝にこつんとあたる。


  『ダメージ1――残りHP8』


 ――やっぱりめっちゃ食らってるじゃねえか!


「うぎゃああああ」


 まったく痛みなんてないのに、もうHPが二割も削られたことに幻覚のような痛みを感じ、膝を抱えて転げまわった。


 どうなってるんだこの世界。

 カンストの能力を得られて俺は最強なんじゃなかったのかよ。


 アナライズを使って、意識してなかったネズミたちのHPの数値を見てみる。


 みんな、10。

 後ろで蹲っている少女の数値も、10。


 つまりなんだ。

 この世界は体力上限がみんな10で、どんな攻撃でも最低保証で1ダメージはいる世界、ということか。


「意味ねえじゃん俺の50000ダメージ!」


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