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異世界技術で異世界無双  作者: クリャダリャンヌフ
1/1

この日

 もう冬に入ろうか、という寒い季節の午前0時、窓から漏れる月光と残り僅かな蝋燭の火を頼りに、1人机に向かう男


 命を削るかのような鬼気迫る表情で手を動かし、額には汗が浮かんでいる


 手元の紙には赤色の九芒星と各角の先端に来るように文字が刻まれている


「よし…これなら、これなら俺にも使えるはずだ…!干渉法(ルビサイズ)を―――――――――――――」



 男が紙の上に手を置き、念じた。


 それは、今までの苦悩や葛藤、干渉法(ルビサイズ)を使えない、その1点に於いて受けた様々な差別による劣等感。それら全てを乗せた男の強い意志だった。


 直後、九芒星は禍々しいまでの輝きを放ち、部屋全体を照らした


 その部屋は教導本に溢れ、男の重病を示唆するように床の至る所には乾き黒く変色した血がこびりついていた


「やったぞ…成功だ!さあ!28年掛かった…

俺はついに手にしたんだ…イドを使わずに、イドを持たぬ人間にも干渉法(ルビサイズ)を行使する力を…!!」


 成功を確信し、不敵な笑みを浮かべたその瞬間。

突如として発光が消え、直後に九芒星が描かれた干渉紙(ルビペイジ)が燃え初め、その飛び火により炎が部屋全体を包んだ。


「なんだこれは!どういうことだ!成功した筈だ理論は間違っていない!」


 男の理論は正しかった。干渉法(ルビサイズ)に関する全ての指南書や禁書を読み解き、完全に理解していた。


 その上で築き上げた新たな理論形態に基づき、生み出した干渉指示(ルビシード)は、完璧なまでに完璧だった。


 しかし、たった一つ男が見落としていたのは『自らの不幸性』その1点であった。厳しい言い方をするならば、それは単に自己管理不足だったのかもしれない。


 真冬の夜中、直近の3日は不眠不休で作業を続けていたからか、氷点下の気温や極度の感想により指の皮膚が裂け、血が紙に滲んでいたのだ。


 余りの疲労にその事にすら気づくことも無く、血を上からなぞるように赤いインクで九芒星を書き込み、ついに最後までそれに気付くことは無かった。


 その『血』が、完成した干渉紙(ルビペイジ)に深刻な影響を与えてしまったのだ。


 本来であれば干渉法(ルビサイズ)使用には使用者の血は必要なく、干渉指示(ルビシード)についての知識が足りていないものはイドと呼ばれるエネルギー源で補うことにより強制的に力を行使している。

しかし今回男が行った方法は、1点のミスも無い完璧な干渉指示(ルビシード)によって書かれた干渉紙(ルビペイジ)によって、イドを使わずに干渉法ルビサイズを行使する方法であった。


 そして、その行為に血が交じる事による影響。


 つまりは『闇の住人』を媒介した力の行使だった。

 しかし、男の体には生まれつきイドが存在せず、闇の住人に対価として払うべき物は何も無かった。


 上級者ですら、闇の住人を使用した方法ではイドが及ばず四肢欠損のリスクがあるのだ。


 イドを持たない男には、命を差し出すしか無かった。


 男にその意思が無くとも、力を行使するという行為自体が契約を意味していた。


 干渉祇(ルビペイジ)が出来上がった時点で、それは契約書へのサインと見なされる。



「ああ…そうかよ…世界はやっぱり俺を嫌うか。ははは。

 いや…これは凡ミス、天才にあるまじきミスだ、初歩の初歩だ。そういや、辞めちまったあの学園で最初に習ったっけな。はは。くだらない。」


 大袈裟な悪態をつき、自らのこれまでを笑い、呪った。

 

出てくるのは挫折や後悔


 天才というには才能に乏しい自らへの蔑称。

 結局、自分には何も成せないのだの理解する。



男の蔵書や研究の道具の殆どは既に灰になっている。

そして火の手は男のズボンの裾に絡みついた。






「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――」




 声にならない叫びを上げ、男の体は炎に包まれていく。

 声帯は焼け、眼球が蒸発してなおも叫び続けるそれは、この世界への呪いの言葉のように部屋に響き渡る。


そして遂には声もしなくなり、男の死体が塵屑のように崩れ去ったころ



火に揺れる窓の向こうで、初雪がふらふらと舞い降りていた。

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