第8話 準備と日常
念願のダンジョンを作成して。その探検のローテーションを考える。
内部の実力もわかっていないのでなかなか難しいが、戦えるメンバーを相性良さそうな組み合わせを考える。
ネズミ族も犬族もありがたいことに順調に人口が増加している。
動物病院でラッテを中心として働いてくれているみんなのおかげなんだけど、俺もサボっているわけじゃない。
毎日病院からのデータには目を通しているし、時間があれば診療も行っている。
今日はそんな俺の日常を紹介しよう。
「シタラ先生、北東1-3-10のラーサさんが腹痛を訴えてきています」
城を移すにあたって住所の設定と国民の登録を開始している。
今の数なら簡単だが、そのうちネズミ算的に人口が増えてから開始すると大変なことになる。
すこしお粗末な作りだがそれでも基礎は作っておく。
読み書きは俺が神様から与えられた能力で困らないので、国民全員に教育を徹底している。
パソコンとプリンターで教科書作りも簡単だ。
現代の小学校レベルの教育はあっという間にみんな理解してくれた。
高等教育は教える側の教育から始めているからもう少しかかりそう、これも課題の一つだ。
閑話休題
「こんにちわ。おなかが痛いということだけどいつ頃から?」
患者に直接話が聞けるって本当に素晴らしい。
「朝からです……おなかが張ってるというか……」
少しおなかを触らせてもらうと腹部に緊張があって固い。
「ここ最近で変わったものを食べたとか、あとは排便はできてる?」
「食事はいつも通りなのですが、最近その……ウンチの出が悪くて……」
「食事を見ると……そうか、もう少し水を取ったほうがよさそうだね。
これはみんなにも伝えておこう。ちょっと水分が少なくて便が固くなって流れが悪くなっているね」
食滞に近い症状と考えていいだろう。水分補給と便を流しやすくしつつ消化管運動を改善させる投薬を指示する。
「水をたくさんとって薬を飲んでね、腹痛が酷くなったりどうしても出なかったらすぐに相談してね」
「はい、ありがとうございます」
簡単に言えば便秘だけど、それだって放置しておけば深刻なことになる。
「水は引いたけど、必ず煮沸するように言ってるからめんどくさがる人も多いのかなぁ」
「病院の水はそのままでもいいんですよね?」
「ここの水は言って見れば神の奇跡だからねぇ……」
浄水器を買うという手もあるけど、先のことを考えるとちゃんとこの世界で手に入るもので賄っていきたいんだよね……
「町の中に水を好きなだけ使える場所があるだけでも幸せなことなんですけどねぇ……」
ラッテと手伝ってくれている看護師さんたちがうなずいている。
「先生! 訓練中に事故が!」
最近少し多いのがこの手の事故だ。
「ああ、これは骨に行ってるな。すぐにレントゲン撮るよ。これ飲みな」
とりあえず痛みで脂汗を流している患者に痛みを抑える薬をその場で作って渡す。
「す、すみません……」
「いや、俺が悪いんです! むきになっちゃって……」
「大丈夫ちゃんと治すから」
検査の結果上腕骨尺骨の完全骨折だった。
「尺骨なら固定で様子見るのも手だけど、早く治したほうがいいよな。
よし、手術だ。術前検査するよー」
看護師さんたちはてきぱきと準備を進めてくれる。
痛み止めのおかげでだいぶ楽になった患者さんに状況の説明を行って手術を行う。
患者は犬型獣人。部位は尺骨ほぼ中央部、木刀による外傷性骨折で骨折は綺麗に折れている。
髄内ピンと呼ばれるピンで骨同士をきれいに合わせて安静にしていれば一か月ぐらいできれいに繋がるだろう。なんといってもこっちの人々は二足歩行だ。負担が少ない。
「折れ方も綺麗だし早期治癒を期待しよう」
麻酔前の検査でも問題はない。すぐに準備を進めていく。
患者に直接説明できるって本当に素晴らしい。
すぐに麻酔前の前投与薬を投与して各種留置ラインも確保する。
器具の準備は慣れたもの、結構戦闘訓練による外傷、骨折が多くて悩みの種だ。
「竹刀や防具でも揃えるかな……」
導入しモニタリングをしっかりとしながら挿管。
手術部位の剃毛や消毒は看護師さんに任せる。
俺は手術着に着替えて趣旨の消毒と器具の準備だ。
サイズとしては現実で言えば超大型犬サイズ。
でも、この病院手術設備がしっかりしているからそこまで苦労しない。
電気メスから内視鏡、腹腔鏡、超音波メス、整形用のドリルやらなにやら一通りすべてそろっている。
ありがたやありがたや。
たぶん親父の病院にあったものはとりあえずあるんだろうな。
そういえば病院のアップグレードもあるんだよなー。
ゲーム的にやりこみ要素も多くていいよなぁ……
「先生準備できました」
「ありがとう。それじゃぁ手術を開始していきますね」
骨折の治療と言っても様々な方法がある。
それぞれ利点と欠点があるのでそれを理解して一番適切と思われる方法を選ぶことが肝要だ。
正直、術後に患者がこちらの言うことを守ってくれるのであっちの獣医の仕事よりも楽だ。
骨折を治したら元気になっちゃって動きまくってプレートを壊したり再骨折をしたりってリスクは低い。
皮膚を切開し骨折部位を露出し間に挟まった余剰物質を取り除いてきちっと骨端を合わせる。
若いし受傷後直後なので出血のコントロールをしっかりやればここまでは問題ない。
今回は髄内ピン、合わせた部位がずれないように骨髄内にピンを通すやり方を選ぶ。
肘に近い部位から少しカーブを付けたピンを二本挿入し骨折部位を通過してその先まで通す。
回転の力に弱いけど、安静をきちんと守ってくれればこれで骨折した骨端同士を安定してくっつけておける。
その後は切開した部位を丁寧に縫い合わせて出血を確認して皮膚縫合して終了。
ギブスをつけて、三角巾でつるしてもらって一週間ごとの検診だ。
「はい、終了」
「覚醒まで見ていきますね」
「よろしくお願いします」
看護師さんも優秀だし。安心して術後管理をまかせられる。
夜、患者の状態が安定していることを確認したら穏やかな俺の時間だ。
パソコンを開いてゲームを立ち上げて缶ビールをプシュッと開ける。
この時間がたまらなく好きだったりする。
さて、ほどほどにしないと明日も仕事だ。
こんな感じで、俺もちゃんと仕事をしている。バギーにまたがってゲームをしているだけではないのである。
明日も18時に投稿いたします。