第7話 時間との闘い
夢を見ている。
夢の中では俺は一生懸命仕事をしている。
当たり前の日常、今ではすっかりそっちが非日常になっている。
毎日毎日決して同じことない診療の日々、犬、猫、兎、鳥、フェレットにハムスター、亀や蛇もいた。
一件一件異なる個体の異なる症状、異なる生活環境、それらを考慮して病気を推察して必要な検査や治療を考えて処置して評価する日々。
思い返せば非常に困難な日々だった。
親父はこんな生活をあれだけ長く続けていたのか……
目の前に犬が横たわっている。
俺が初めて一人で手術して助けたラブラドールレトリバー。
難産で薬への反応も鈍く、緊急の帝王切開を行わなければ母子ともに危険だった。
大型犬では珍しいことで、親父は別の緊急手術中だった。
迷っている時間はなかった。親父に相談してただ一言。
「任せた」
その一言で俺は頑張れた。
取り出した子供たちは皆ミーミーと元気な産声を上げて、お母さんの乳を探っていた。
お母さんも麻酔から覚めてつらいだろう状態で一生懸命子供たちの世話をしていた。
うれしかったなぁ……
あの時の光景は、つらい時の俺の心の栄養剤になっている。
そんな夢を見た。
久しぶりに夢を見たような気がする。
しかし、そんなことが大したこともないような大事件が村に訪れていた。
「シタラ先生! 変な人たちが村に!!」
「なに!?」
急いで病院から外に出る。
村の中央部では人だかりができていた。
「どうした?」
俺が現れると人だかりが自然と分かれていく。
その中央には数十人の……犬が座っていた。
俺の姿に気が付くとぶんぶんと嬉しそうに尻尾を振って話を始める。
「シタラ様、我ら犬族、神の奇跡により再びこの大地にまかり越しました。
どうかこの力をご利用ください!」
いろんな犬種の姿をした獣人たちが皆そろって俺に頭を下げる。
「一体、どういうこと?」
俺はパソコンを取り出す。
神の手に新着情報を表すアイコンが点滅している。
【大軍撃破ボーナス 神ポイント3000pt
ランダム種族参加ボーナス】
大量のポイントと追加ボーナスが与えられていた。
種族の召喚はその種族の能力に応じて数万ポイントから必要だ。
犬種族は高い俊敏性、力をほこり、さらに多種の種類が存在するために応用力が高い高ポイント種族だったはず。確か8万ポイントぐらい必要だったはずだ。
手に入れた種族の情報は詳しく見ることができる。しばらくそれに目を通す。
一番面白かったのは犬種族同士の交配で生まれる種類はランダムだそうだ。
パグとレトリーバーの子供がパピヨンとかそういったファンタジーなことが起こるらしい。
なんにせよ、戦士としても技術者としても大変有能な味方が降って湧いたことになる。
「よく来てくれた! 獣人の復権のために頑張ろう!」
「よろしくお願いします」
「皆も新しい仲間だ、温かく迎えてくれ!」
存続をかけた戦闘を乗り越えたことで俺に対する感情はすでに崇拝に近くなっている。
俺の言葉でスムーズに犬族は我らの村に歓迎されていく。
強力な戦力が参加してくれたのは大変にありがたいが、喜んでばかりもいられない。
敗戦したゴブリン族の敵意は大きいだろうし、戦闘に勝利したことで周囲の国に我が国は認識されてしまっただろう。
これからが問題だ。
ちょうどよく人が集まっているのでそのまま今後の話をする。
「基本的には村の拡張、それに戦いに耐えうる戦力を手に入れることが大事だ。
少なくともゴブリンの国とは完全に臨戦態勢に入ったと思って間違いない。
次に侵攻されたときに、今回みたいな策だけで勝つのは難しい。
なんとかして戦力を増やさなければいけない」
「我らも家族が増えてはいるが、そんなに急速な増加は……」
「我らも多産安産ですが、そんなにぽいぽいとは……」
「わかっている。まずは攻めることは考えない、守ること。
敵に攻める気を失わせる城塞都市を作ろうと思う」
「おお!」
「今回の戦闘のおかげで、中央の森部分は中央都市部にしやすくなった。
周囲の広大な平原に生活エリア、生産エリアなどを作って、さらにそれを巨大な防壁で囲い、防壁の外には巨大な堀を作るつもりだ。
堀の作成、壁の構築は俺の能力でどんどん進めていける。
皆には壁の内側の開発に尽力してほしい」
「もちろんです! 何でもします!」
「我らは力仕事も頭の仕事も役に立って見せます!」
大規模な地形変化は俺の仕事だ。
パソコンで空からの映像を見せながら開発計画を話していく。
皆熱心に話を聞いて今後の協力を約束してくれた。
俺が考えている最大の工事を最初に行おうと思っている。
村から離れた場所の山のふもとに大きな湖がある。
そこから川が流れていて、過去の村ではその川まで危険な水を得る旅を行っていた。
今は病院から水道を開放しているが、今後を考えればそんな水量では足りるはずがない。
「湖から上水道を引いてきて、川に下水を流す」
それが俺の計画だった。
湖の底から地下を通る水路を作り、防壁内に貯水湖を作り、さらに下水を川に流す下水道を作成する。
「こんな困難も簡単に可能にする。そう、収納ならね」
湖までバギーで疾走しながら地下の土を収納していく
表面から細く地下に穴をあけてそこで筒状に広げるイメージだ。
|
○
イメージとしてはこんな感じだ。
後で上の|部分を土で埋めれば地下に水路が作られる。
水道管の裏打ちは極限まで圧縮した土で作るので耐久性も抜群なはずだ。
そう考えると取り出すのもチート能力と言える。
湖までつなげて予定地に開口させると大量の水が湖にたまっていく。
元の湖が空っぽになるようなことがないことを確認すれば完成だ。
ほんの数か月ほどで上水道、貯水湖と下水道が完成してしまう。
「我ながら恐ろしい。でも、急いで次だ」
まだゴブリン国に動きはない。
狼の訓練は開始されているが、集めるのにも苦労しているようだ。
「もちろん堀も城壁もチート全開だよなぁ」
堀で取り除いた土で壁を作ればいい。単純な作業だ。
堀の深さが人力で作る物と段違いで、その作成スピードが桁外れってだけだ。
この作業ができるのは俺だけ、俺は昼夜を問わずこの作業に没頭する。
おれが土建作業に集中できるのもラッテや何名かの看護師さんが病院にいてくれるからに他ならない。感謝感謝だ。
あっ。という間に城塞都市の外郭が完成する。
それでも数か月はかかってしまった。
ぐるぐるぐるぐる堀の内部を走るのは実は地味に楽しかった。
慣れてくると一定にハンドルを固定して周回運転をさせて、ゲームをしながら収納していたので正直めっちゃ引きこもり生活を満喫していた。皆には内緒だよ。
弁当を持って妙にうきうきと出かけるのでばれていたかもしれない。
水場の側で野生の鳥なども見つけたので家畜を探した結果、馬、ヤギ、鹿などは発見できた。
馬とヤギ、それにガチョウが家畜化に成功した。
まだスカスカの城壁都市もなんとなく未来へのビジョンが見えてきた。
防壁の上部には人が移動できる設備や監視、連絡用の設備など様々なものを作っていく。
そんなこんあで生活をしていると、ようやく神ポイントが5000ポイントに達する。
これで念願の奇跡を一つ発動できる。
引きこもり防衛に絶対必要な奇跡。
初級ダンジョン作成だ。
性能などを見て最初に使う奇跡は絶対にこれだと決めていた。
ありがたい偶然で新種族も増えているので、予定よりも早くポイントがたまった。
ダンジョン。
母魔石と呼ばれる魔物を生み出す魔石をコアとした洞窟で、過去の人間や獣人が冒険者として探検することで宝を得たりしていた場所。
母魔石は世界の中心であるワールドコアと呼ばれる物からエネルギーを受け取り、魔物や冒険者をおびき寄せるマジックアイテムや武器防具などをダンジョン内に生成してくれる。最深部にある母魔石を破壊すれば大量の宝と神ポイントが得られる。
初期の育成はダンジョンを作って、攻略させてまたポイントを得てダンジョンを作ってとやるのが効率がいい。とヘルプにご丁寧に書いてあった。
まだまだこちらの装備と言えば木にとがった石を巻き付けたレベルだが、このダンジョンからの産出物があれば劇的に変化すること間違いないだろう。
魔物は利用できない世界のルールを全開で利用させてもらう。
防壁の内側の一角にいずれは冒険者でにぎわうことを期待して階段状に掘り下げていく、ある程度の深さを掘ったら周囲の壁を強化していく。
ダンジョンを作るということは、そこから魔物があふれだすことも考慮しないといけない。
この一角も緊急時には閉鎖できるように作ってあるし、いざとなったら水没させることが可能な場所にしている。
「初めての神の手、これからこの世界での俺の大逆転が……始まりますように……」
パソコンで【初級ダンジョン作成】を選択する。
場所を特定して実行を選択する。
目の前の壁に石扉が突然現れる。
初級は石の扉、中級は鉄の扉、上級から上は謎の金属の扉だそうだ。
扉を開けようとしても開かない。
ダンジョンができるには一週間かかるそうだ。
その時間でコアが地下に潜っていってダンジョンを作成していく。
「さて、いいダンジョンに育ってくれよぉ」
その一週間を利用してダンジョンの探索準備を進めていく。
明日も18時に投稿いたします。