第64話 広がる世界
「第二軍団が指示された国全て落としたと連絡が来ました。
第四軍団からも最後の国へ攻め込むと連絡がありました。
これであとは私たち本隊がこの戦いに勝てば、全国制覇ですね」
ラッテの報告を聞き、戦場の様子を伺う。
敵はドラキュラロード、オリハルコンゴーレム、キングキメラの混合軍。
すさまじい火力の攻撃と、頑強な防御、俊敏な動きをもつ強大な敵だ。
……うちの軍ほどではないが……
「予定通り、進んでるね」
「はい、敵の攻撃は全て神域の守護者部隊が防ぎ、神魔砕きの特殊能力によって防御力が高い相手程与えるダメージが増えております、敵の速度も我が伊賀衆、甲賀衆が完全に封じ込めており、壊滅は時間の問題です。長きにわたる戦いも、これで終止符かと……」
「油断しないようにねラッテ。すべて終わるまで、油断しちゃいけない」
「ええ、貴方……子供たちも、頑張っていますしね」
「ベイオ達も、みんな……ドン引きするぐらい強くなったからねぇ……」
「あ、そのベイオ達第一軍団が到着したようです。『今更戦果の横取りはしない、見守っている』だそうです」
「見守るって割には手厚い見守りだな」
前線で戦う者たちが光り輝いている。ベイオのスキル『いざ立て勇敢な戦士たちよ』だ。
攻撃力は500%上昇、防御力は1000%上昇、精神異常、肉体異常無効化、攻撃に聖なる剣が付与され二回攻撃化して一部ダメージ反射が付与される。
削り取られていた敵軍の消滅速度が目に見えて上がった。
これで防御スキルなんだから……
「第四軍団、敵城を落としたそうです。『父上、コアを送ります』だそうです」
「来てる来てる。よくやった。帰ったら俺の秘蔵の一杯を奢ってやろうって伝えておいてくれ」
「先生? 秘蔵の一杯とは何のことですか?」
「あっ! いや、その……」
「まぁ、詳しくは後程、どうやら戦いも決するようです」
敵を包囲する自軍の輪がみるみると小さくなっていく……
敵のボス3柱魔神が出てきたが、一騎打ちの果てに討ち取られていた。
「ラージンの息子も強くなったなぁ、あとは……ガイアのとこの娘か」
「ミカも危なげなく勝利していましたね。母としても誇らしいです」
「……ミカが勝てない相手が想像できないよ俺は……」
「あら、私たまに勝ちますよ?」
「そりゃ模擬戦ならそうだけど、戦場なら勝てないだろ?」
「……まぁ……そうですね……」
ラッテさんは相変わらず負けず嫌いだなぁ……
「それじゃぁ、行こうか。長かった戦いも、これで終わる」
俺は戦場を見渡せる陣から外に出て馬にまたがる。
さっきまで壮絶な戦いを繰り広げていたとは信じられないほどに、日差しは温かく、風は気持ちよかった。
この世界に召喚されて36年7か月。
俺は、全国制覇を成し遂げた。
「一同揃いました設楽様!!」
儀式用の美しい武装をしたベイオの号令で目の前にわが軍総員30万の兵が整列する。
圧巻、その一言に尽きる。
その一人一人が一騎当千の強者なんだから、うちの国が全国制覇を達成したこともおかしくない。
「皆、長い戦いも今日で終わった。
本当にお疲れ様。
これからは、別の戦いが始まる。
広大な土地をきちんと管理し、道路を整備し、畑を、家畜を、町を作り上げ、皆の生活を自分たちの手で良くしていかなければならない。
もちろん、何の心配もしていないが……
それに、せっかくこれだけ戦い続けて平和をつかみ取ったんだ。今日ぐらいは思いっきり羽を伸ばしてくれ!!
さぁ、飲むぞー!!!」
うおおおおおおおおお!!!!
大地が揺れるほどの歓声とともに、会場に料理と酒が運び込まれる。
この祝賀会のために国中の人を動員してみた。
馬鹿だけど、馬鹿だけど、皆でこの勝利を祝いたかったんだ。
兵士たちは皆笑顔で食事と酒を楽しんでいる。
ベイオ、ラージン、パーシェット、ガイア、ミーヤ……
皆すっかり偉くなってしまって肩が凝っていただろう、今日は、せめて今日ぐらいは思いっきり楽しんでほしいと思ってそっちの方見たら若い兵士に囲まれてちやほやされて凄い楽しそうだった。心配して損したよ。
「貴方、お疲れさまでした」
「ラッテ、ありがとう。ラッテこそお疲れ様。
君がいなければ、ここまで来れなかったよ、それに……
これからもよろしくね」
「はい……いつまでも貴方様のそばに……」
「お疲れさまでした設楽様」
「ああ、ガウスか。よく今まで世話してくれた。お疲れ様」
「いえいえ、これが私のお役目でございます。
それと、我が創造主さまがお祝いを申したいとあちらに……」
ガウスが指さす先を見ると兵士たちに交じって見慣れない子供が料理を貪っている。
「……少々お待ちください」
ガウスがカツカツとその子供に近づいていくと首根っこを掴んで連れてくる。
じたばたと暴れる子供だったが、どこか見覚えがある。
「神様、ですよね?」
「おお、設楽! よくやったね! お疲れ様!!」
にかっと子供みたいな……実際子供だけど笑顔を見せる神様。
エンディウム、この世界の神様。めちゃくちゃな設定で世界を放置して獣人を滅ぼしかけて、俺をこの世界に呼び込んだ張本人だ。
「さて、設楽。まさか本当に世界制覇してくれるなんて思わなかったよ」
「序盤を乗り越えれば何とかなるのがこういうゲームの基本ですから、まさか途中でチートを取られるとは思わなかったですよ」
「はっはっは。でも、そんなチートが無くても君はやり遂げたんだね」
「ええ、素晴らしい仲間に恵まれました」
「それじゃぁ、帰る?」
突然の申し出だった。
忘れていた。
そういえば俺は、この世界を制覇したら、元の世界で死ぬはずだった運命を変えてもらえるって話だったんだった……
「……帰らないと……親父が……大変だよなぁ……」
「うーん、そうだねぇ。君が亡くなったショックで……君の親父さんは自分を攻め続け……すぐに……」
「なっ!? そんなことになるの!?」
「そりゃそうでしょ、自分の息子を過労死させちゃったようなもんだからね」
「ぐっ……」
「それじゃあ、帰るかい?」
「帰る……しかないですよね……」
俺が呟くようにそうこぼすと、ラッテがすっと手を握ってくれた。
「貴方……お父様のところへ戻ってあげて。
私は大丈夫、子供たちもいます。貴方は……貴方の生きる世界に……」
気丈にしているその瞳からはボロボロと涙がこぼれている。
俺も、もちろんボロボロ泣いている……
「じゃあ、君に与えたチートに溜まりまくってる力を使おう。
もう天地創造だろうが何でもできる力が溜まっているからね。
つまらないから、いや、困難を乗り越えた先にこそ真の勝利があるからと思って君から預かっていたものを、君のために使おう」
「それは、どういう……」
「簡単に言えば、前の世界の君の命は助ける。そっちの人格はそのまま、と言ってもこっちで得た経験は上書きされちゃってるけど、まぁ獣医師としての腕が上がっているのは君の父親にとってもいいことだろ? 今の君はこのままだ。ただ、収納を含めたすべての僕の権限は回収する。
文字通りこの世界のただの人になる。あ、ジョブとかスキルは君自身で手に入れた力だからそのままだよ。これでどうだろ?」
「つまり、俺はこのままこの世界で生きるし、向こうの世界にも俺は帰ったことになると?」
「そういうこと。あ、あと、君の不老不死も無くなるよ」
「不老不死だったのか!?」
「だってこの30年くらい年齢取らなかったでしょ?
まぁ上位職というか上位存在になってるから寿命も長いけど、獣人達もみんな……
なんだってこんなに効率よく進化させられるんだか……
周回だかしらないけど、あんな地味な作業を延々繰り返した君たちには脱帽だよ」
「ははははは、おかげで被害もなく安全に制覇できましたけど」
「でも、本当にこの大陸を取り戻してくれてよかったよ」
「この大陸? この世界じゃなくて?」
「いいや、大陸。だって海あったでしょ? もちろんほかの大陸もあるよ」
「……ほかの大陸に、魔族とかが?」
「そうそう、まさかちょっと上陸されたら一気に押し込まれちゃうなんてね、あ、これからもそういうことあるかもしれないから、頑張って防衛してね」
「え、そんな、なんで急に……」
「これからも、君の活躍を楽しみにしているよ」
いたずらっぽい笑みを浮かべながら神様は消えていった。
こうして、大陸制覇を終えた俺たちの前には、他の大陸の新たな敵が現れるのだった……




