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第62話 魔法

 戦闘が始まり、すぐに異変に気がついた。

 妙にけが人が多い。


「何かあったのか?」


 近くにいた兵に話を聞く。


「どうやら、敵の兵器に手こずっているようです」


「兵器?」


「どうやら油か何かで火を放っているみたいです」


「敵も策を使ってくるのか、直接みたいな。少し前に出てくる」


「お気をつけて!」


 木組みの物見櫓に上って最前線を伺う。

 ラージシールド部隊が敵の攻勢を受けているが、確かに炎のが見える。

 

「……火炎放射器か?」


 火の玉やぶわっと巻き起こる炎、しかし、油で起こせば大量の煙が出るはずだが……


「!! 魔法か!!」


 敵兵のいくつかの前に魔方陣が作られてから炎が放出されていることを望遠鏡で確認した。

 とうとう来たか。

 敵はピクシー、確かに魔法を使いそうな魔物達だ。


「誰かいるか? 全軍に通達、敵は魔法を使用してきている。

 警戒するように!!」


「設楽先生、失礼します」


 櫓の中に音もたてずに忍び装束の獣人が現れる。


「ラッテの部下か? どうした?」


「ラッテ様がお呼びです」


「わかったすぐ行く」


「急ぎます故、ご無礼を」


 俺よりも体の小さなその獣人は俺を抱きかかえ櫓から飛び降りてカイトのようなもので空を滑走する。初めてやられた時はびっくりしたが、今は少し楽しい。


 着陸するとすぐに小屋に通されるラッテの部隊が戦場での状況報告を受けて全体への通達を指示する情報統括部門だ。戦争中に最も忙しい部署と言っていい。


「ラッテ、敵が魔法を使う。今までの戦い方だと犠牲が出る」


「やはりそうですか、一部の物が敵が何やら不思議な紋様を使って炎を出していると報告してきています。どうやら見える者と見えない者がいるようで」


「すぐにパーシェット隊に連絡を取ってその紋様が見える者、もしくはそういった補助者をつけて魔法を使う奴を狙撃しよう」


「……はい! すぐに通達します。皆、聞いていたな?」


「ハハッ!!」


 それからさらに慌ただしくなる。

 慎重に戦闘を行っているせいで俺のところに飛ばされてくる患者はほとんどいなかったが、結構酷い熱傷を受ける者も出て来て、皮膚皮弁を利用した処置なども行う機会が増えてきた。


「いいかぁ、獣人の皮膚構造は動物の物と似ているが、一部の獣人は同じように剥離すると皮膚が壊死する。きちっと頭に入れておけ!

 無理と判断したら良ーく洗浄して湿潤療法で対応しろ!

 復帰に時間はかかるかもしれないが、きちんと治せる。

 大丈夫だ、落ち着いてしっかりやるんだ!」


 俺も部下への指示と教育もしなければならない。

 一番ひどいのは炎によって熱せられた空気を勢いよく吸い込んでしまった呼吸器の熱傷だ。

 こればっかりは酷くなると手の打ちようがない。


「水を惜しみなく使え! 霧状にして前線を守るんだ!!」


 すでに指示は飛ばしてある。魔法で作られた炎が発生しているのは一瞬だけで、何かに燃え移らなければそれほど怖くはない。

 古典的だが、濡れて挑めばそこまで怖くない。


「……もっと強力な魔法を使う奴が現れるかもしれないからな……」


 魔法を解放しておけばよかった……今更悔やんでも悔やみきれない……


 狙撃部隊の活躍もあって、敵の魔法使いの数も減ってきた。

 それと同時にわが軍が敵を押し込むことが多くなってきた。

 それにしても戦闘時間が長くなってきてしまっている。


「一旦引いて立て直そう……。

 ラージン! ガイア! ベイオが当たってる部隊に突撃、しかる後反転して戦場を離脱。

 殿はミーヤ隊、追ってくる敵にはパーシェット隊の矢をお見舞いしてやれ!

 陣形を立て直す!!」


 ……まさか、アニメとかゲームでよく聞いたセリフを自分で言う日が来るとは……

 

 気持ちいい……!!


 ある程度魔法使いを減らしており、自力では勝っていたので撤退もスムーズに行えた。

 負傷者の手当てなどに皆が走り回っているが、ざっとみても皆で十分対応できそうだったので俺は対策会議の方に参加していく。


「とりあえず向こうもかなりの損害を出しており、夜襲などの心配は低いと思います。

 交代で休息を取ってもらうつもりです」


「しかし、魔法って言うのは厄介ですな。騎乗動物が怯えてしまって使えません」


「火計はそれだけでも非常に有効だよね、こっちが使っているんだ当然向こうも使ってくるよ」


「油に比べればまとわりつかないだけまし……って思うしかありませんねぇ」


「それにしても、本当にあったね魔法! 今は炎を呼び出すだけだけど、きっといろいろあるんだよね?」


「先生、そんなに嬉しそうに言わないでくださいよ……

 正直対応にも苦慮しているんですから」


「あの魔方陣で魔法を発動しているなら、見える人が解析したらこっちも使えるようにならないかな?

 遠くから見た感じそこまで複雑な物じゃなかったし……」


「その件についてはうちの隊が解析に当たっています。

 比較的魔方陣が見える者が多かったので、データを集めて早いうちに対応策なり、こちらが逆に利用するなりしたいと思っています」


 ミーヤさんの頼もしいお言葉だ。


「少なくとも一日で何とかなる話ではないと思うから、一般的な火計対策をしっかりと行っていこう。

 簡単なのは水を被ってから戦うこと、延焼は砂で消す。今のところはこれぐらいですかね?」


「火傷はすぐに水で冷やし続けて治療を受けてくれ、案外深いと大事になる」


「先生の指示は徹底して叩き込んでますからご安心を!」


 戦場でケガや病気は倍の労力を消耗させていく。

 そういったところに他の国に比べて重点を置いてるわが軍はその点だけでも優位に戦えている。

 

「本気でやるなら、敵には動かせない怪我を負わせて放置していく方法もあるんだけどね……

 そこまで冷酷には……今更なんだけど……」


 けが人を運ぶためにもう一人の兵士を減らすという戦法だが、いくら魔物相手でも……

 命のやり取りである以上命を奪うことは仕方がないとは思っているが、そこまで割り切った戦法は今までは取らずにいるが、魔法という強力な武器が相手に出来た以上、これからは自分たちの国と国民を守るために非情にならなければいけないのかもしれない……


「先生。それは私たち前線の兵士が判断します。

 先生は、俺らの後ろで俺たちを治して支えてください」


 ラージンに気を使われてしまった。

 基本的なことの確認に終わった会議はこうして終わり、最低限の対策だけで戦闘が再開されてしまうのであった。

 

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