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第6話 ハードルを越えて

 すぐに村人たちに必要な道具を説明する。

 ネズミ型の獣人たちは手先が器用なので俺の説明をよく理解してくれてどんどん仕事を進めてくれる。大量の素材を村の広場に並べて加工道具は一部通販にて供給する。

 滅亡するかしないかの瀬戸際でケチってられない。

 参考までに、近代兵器を、例えば銃とかを俺の貯金で買うと、まったくもって数が足りない。いろいろと考えたうえで今の準備できる最大の効果が出せそうな選択をしている。


 俺も村の周囲を相棒バギーで走り回る。

 敵国の情報を見ると、一番の脅威は狼部隊だ。

 ゴブリンは野生の狼を飼いならして騎乗した高速部隊が非常に強力だ。

 正直突撃されて自由に動かれたら対応のしようもない。


「戦場を限定して罠を張る。それしかない」


 自分自身に言い聞かせるようにつぶやいた。

 それしかない、兵の数も装備も差がありすぎる。

 こっちの手持ちで現在最大のチートは俺の収納と機動力だ。


 村を隠す木々の周囲全てに収納によって深い壕を作り上げる。

 この壕を村人に守らせる人的余裕はない。

 これは突撃を防いで遅滞戦術を取らせるための罠だ。

 そこには木の串を大量に設置する。落下すれば無傷ではすまない。

 この壕を作りながら森へ向かって全体の土の高さを下げていく。

 最後の村を守る巨大な堀を形成する。

 俺たちも外に出るのは困難になるけど、しばらくは村での籠城になることは間違いない。 いざとなれば土を呼び出せば一瞬で埋めることができるのがもう一つの俺のチートだ。

 これは同時に攻撃にもなる。

 みんなに手伝ってもらうとは言ったけど、俺自身がかなり動かないと戦いには勝てない。 正直戦闘中に俺がやることを想像すると身震いする。

 武者震いならかっこいいんだけど、ビビってる。

 

「どうせ、失敗しても死ぬだけだ。死んでたことが確定するだけさ」


 口ではかっこつけてみる。怖いんだけどね。

 パソコンのチートを当たり前に使っていたせいで考え方がゲームの中のキャラに対する考え方になってるのかもな、自分のことなのにね。

 それに、せっかく救った皆をこれで滅ぼしたくないからね。


 昼夜を問わずに塹壕形成を続ける。時々村へ戻って完成した木の串を回収して、塹壕の底に”取り出して”設置していく。これもアイテムボックスチートの一つ。

 取り出すものを俺の意志で位置や状態をある程度コントロールできる。

 それを利用して土に一本一本差し込んでいく手間をガラッと省略することができる。

 同じようにすごい重量の石をくみ上げて石壁なんかも作ることが可能だ。

村の周囲は石垣にしている。

 

 昼夜を問わずに籠城準備を続けていくと、とうとう敵国に動きが起きてしまう。

 隣国の兵力の約半分が、面白半分に狩猟現場に出発したのだ。

 一応軍事演習的な意味合いもあるのだろう。

 半分の戦力と言っても1000近い。こちらは動けるのは50程度。話にならない。

 

 細かな工夫をたくさんしている。落とし穴の形状は/__\こういう形で一度落ちるとなかなか登れないようにしていたりする。

残虐な罠かもしれないけど、これは生存をかけた戦争。きれいごとは言ってられない。


 マップを見ながら敵兵の接近に異を痛めながら信じて準備を続けている。

 弓や槍も準備されていく、使い方の訓練も皆必死についてきてくれている。

 戦いの足音はすぐそばまで近づいてきていた。





「なんだこれは……」


 集音マイクから敵の動揺が伝わってくる。

 情報収集は戦闘において非常に大事なので、これも貯金をはたいたよちくしょー。

 余談だが、魔物の言葉を理解できるのは俺だけだった。


 敵が動揺しているところに俺が畳みかけて混乱をさせる。

 拡声器を使って魔物に語り掛ける。


「魔物たちよ、この地は神の使いが納める土地。

 獣人たちの安寧の地より早々に立ち去れ!

 この世界にはびこる魔物たちに神の怒りが落ちる日も近いぞ!」


 村人たちにも拡声器を何か所か設置して大音量の士気の高い兵士の声を演じてもらっている。わずか50にも満たない兵士とはこれで思うまい。


「なんだこの声は! 神だと?」


「獣人ごときが偉そうに!」


「しかし、あいつは何者だ? 毛が少ないぞ!」


 ちょっとダメージを受けた。


「神を恐れぬ不届きものども、神の怒りを知りたくばかかってくるがよい!」


 俺の挑発を真に受けた敵の一部が考えもなしに突進を開始する。

 第一段階は成功だ!

 無駄に特攻してもらって無駄に数を減らしてくれないと勝てないのだよ。

 俺はバギーにまたがり敵の目前をうろちょろして敵を挑発し続ける。

 矢を放ったりもしてくるけどバギーの機動性をとらえることはできない。

 怖いけどね。

 なにより塹壕に落ちないかってのが一番怖い。

 ちゃんと考えて作ってはあるけども……


「ほらほら、勇敢な戦士はせめて来たぞ? 神を恐れる臆病者は尻尾を巻いて帰るがよい!」


「おのれ! 戯言を!! 我ら自慢の狼部隊がこのような小細工に恐れるはずもない!!

 全軍突撃!!」


 よし! 食いついた!

 俺はバギーのハンドルを切って決められた順路で村へと戻る。

 バギーで一気に村に乗り込むと収納で背後の道を消し去る。


「やっぱり、狼部隊は脅威だな……見えている塹壕を見事に飛び越えてくる」


 想定していた第一ラインは簡単に突破した。


「見えている塹壕は、避けられるよね」


 先行していた狼部隊が、突然一体、また一体と姿を消していく。背後の部隊はまだ塹壕を避けながらの進行で遅々として進んでいない、一部塹壕内に落下して重傷を負うものも出ているようだ。


「な、なにが起きた?」


「穴が、見えているのだけのはずがないだろ……」


 一部の穴を見せることによって、見えていない穴への注意を失わせた。

 そして、隠された穴はより醜悪な仕掛けがある。壁に返しのように串がせり出しており、たとえ狼の跳躍力でも底の串と壁の串のせいで脱出は困難を極める。


 先行している狼部隊と、後攻の歩兵とは完全に分断された。

 ここしか勝つチャンスはない。

 今だ! 狼部隊を全滅させるぞ! 矢を放て!

 塹壕の配置でうまく中央に寄せておいた狼部隊は、落とし穴の存在のおかげで完全にその機動力を失っていた。そのエリアに一斉に矢を放ったのだ。

 避けようとした狼はさらに落とし穴に落下するか、矢に撃ち抜かれていく、半壊といっていいだろう。完全に敵の機動力を破壊した。


 震える足をぶん殴り最後の号令をかける。


「よし! 今だ! 全員弓を放て! 槍を突き出せ!」


 機動力を失った狼部隊にとどめを刺すために出陣する。

 後方の歩兵部隊が戻ってくる前に終えないといけない、俺も槍を構えて最前線に立つ。

 第二射が降り注ぎ、壊滅状態の残党を討ち果たしていく。

 少ない手勢だが、これでなんとか五分の戦いというのが実際なのだが、相手からしたら絶望だ。

 別動隊か何かが狼部隊を壊滅に追い込んだと映るだろう。

 村からは子供や女性たちが変声機で戦いの声を流してくれている。


 こうして、俺のはったりと敵将ゴーゼムのやりとりで、敵軍をひかせることに成功するのであった。


 村は歓喜の渦に包まれる。

 目の前に立ち並ぶ敵軍に絶望をすることもなく戦った皆のおかげだ。


「狼部隊には長い育成時間が必要だ、これでかなり時間を稼げるはずだ!」


「シタラ先生、敵兵の残りはどうするの?」


 言われてハッとする。


「そ、そうだ、敵残党は残念だけど確実に殲滅する。

 うちの内情を万が一にも知られるわけにいかない。

 もう一度働いてもらうよ!」


 おれもマップを開いて戦場を注意深く監視しながら残党狩りと戦利品を回収していく。 嫌な仕事だけど、これは戦争なんだ。

 魔物と言われるゴブリンたちは死ぬとアイテム、ゼニーを残して灰になってしまう。

 特殊な生物なんだなと少しだけ罪悪感が薄れる。

 なお、残されたゼニー、過去では世界通貨だったものらしい。


 狼は普通に息絶えているので、申し訳ないけど回収していく。

 毛皮や骨などを利用できる。敵兵200近く、狼150体。

 戦火としてはそれだけの犠牲を必要とした。

 すさまじい犠牲だが、敵全体の兵力からしたら1割程度の消耗に過ぎない。

 改めて今回の戦いのギリギリ感が伝わる。


 こちらの犠牲は軽傷が数名で済んだ。

 汚い石の武器による裂傷なので丁寧に洗浄して縫合して抗生物質もしっかりと投与した。


 同じ策は通用しないだろう。塹壕や落とし穴は槍を回収してすべて土で埋めておく。

 図らずも広大な整地された土地ができあがる。

 もう、森で隠す必要もないだろう。


「さぁ、世界へ飛び出していこう」


 これが俺たち獣人の世界への第一歩だった。

 強力な戦力であった狼部隊を持ったゴブリン国の敗退は、周囲の国をざわつかせ、厳しい戦いの始まりになるのは想像にたやすかった。


 それでも今日くらいは勝利に浮かれてもいいだろう。

 俺の財布のひももゆるゆるだ、異世界の酒とフルーツをこれでもかとふるまう。

 実は、ゴブリンたちから手に入れたゼニー。これをパソコンに取り込むと金として利用できることが分かったのだ。

 今回の戦いで結構手に入ったので少し余裕ができたのである。

 ようやくまともな金策の当てができたので俺の財布が緩んだのでアール。

 

「いやいや、この水はうまいし気持ちいいし素晴らしいですな!」


「いずれはこれも作れるようになるといいんだけどねー」


「絶対に作りますぞー」

 

 大人たちは初めての酒に文字通り酔って夢中になっている。 


「この果実も甘くて本当においしい!」


 子供たちも見たこともない果実に大喜びだ。


 しばらく過ごしてこのあたりの気候は日本みたいに四季があっていろいろな作物が作れる可能性が高い。いろんなものを試していこう。

 すでにジャガイモは安定した食物として普及している。

 あとはお約束のカブで連作可能な農業をしていけばいいんだろう。

 畜産も行いたいが野生の牛やらそういったものを発見しないといけない。

 少なくとも森を消し去ったとき鳥類や小動物は存在していた。

 どこかにはいるんだろう。


「先生のんだえますかぁ!?」


「ああ、飲んでるよー」


 俺は親父譲りのざるだ。酒は好きだが酔うことはない。


「先生、なんだか、痩せました?」


 ラッテに言われてふと気が付く。最近動き回っているせいで俺のチャームポイントであるミートテックが少なくなっている。


「ああ、そうかも。食事も健康的なものが多いしなぁ……運動も段違いでしているから……」


 戦闘訓練などにも参加している。

 こっちにきてから妙に体力が有り余っているので疲れることなく訓練に参加できている。腕の筋肉も結構目立ってきている。


「そのほうがいいですよー……その、痩せたほうが先生はかっこいいです!」


 捨て台詞のようにラッテはそう俺に話すとキャーキャー言いながら女性たちの輪の中に逃げて行った。

 だんだん年ごろになってきているんだろう。ネズミ獣人の成長は早い。

 それからも宴は続いていたが、パソコンとにらめっこしていたら気がいた時には眠っていた。俺も疲れていたみたいだ。



明日も18時に投稿いたします。

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