第57話 選択肢
熱を出した。
こっちの世界に来てすこぶる調子がよかったのに、久しぶりに体調を崩した。
本当に普通に家に帰って、食事をして風呂に入って、眠りについた。
そして目覚めたら寒気はするしめまいはするし、何より汗でぐっしょりだ。
「先生のことを看病できる日が来るなんて思いませんでした」
「ごめんラッテ、助かるよ。こっちきてずっと調子よかったのに……」
「最近落ち着いていますから、気が抜けたんじゃないんですか?
いいことだと思いますよ。いつも先生に心配ばっかりかけているから」
確かにそうかもしれない。
最近は普通に仕事をするだけで、国のこととかは全て皆に任せている。
そういう日が続いて、俺はやっと日常を取り戻して、そして気が抜けて風邪を引いた。
そう考えれば、いいことなのかもな……
こんなに素敵な女性に看病してもらえるし、いっぱい甘やかしてもらえるし。
いつぶりだろう……それこそ小学校とか以来じゃないか? 泣けてきた。
「せ、先生辛いんですか?」
「い、いや、辛いのは別のこと、今はちょっと幸せです」
「ふふっ変な先生。それじゃ飲み物とかはここに置いておきますから、何かあったらすぐに呼んでくださいね?」
「うん、ありがとう。ラッテもうつらないよにね」
「わかってますよ、先生!」
ああ、可愛い。本当にかわいい。顔が熱くなっちゃう。
しかし、寝ていると何もすることが無い。
体を動かす気にもならないし、読書をする気にもならない。
入院している患者さんもこんな気持ちなんだろうなぁ……
俺はおかげさまで大きな病気で入院とかのお世話になったことが無い。
一人暮らしで何度か熱を出して、それも寝てたら治ったし、きつくても自分で全部やらなければならなかったから、こんな感じで寝ているだけってのは、本当に久しぶりだ。
この世界に来て、結構時間たったよなぁ……
最初は何事かと思ったけど、今はこの世界に来てよかったなと心から思う。
たくさんの仲間にも出会えたし、そしてラッテにも出会えた。
そういえば、神様は今後どうしていきたいんだろう?
最終的にこの世界を獣人達が制覇すればいいんだろうか?
滅びそうだった獣人を助けたことが、遥か昔のことのようだ……
昔をいろいろと思い出していたら、いつの間にか眠りについていた。
そして、気がつけば神様と出会った場所で神様と向かい合って座っていた。
『こうして会うのは久しぶりだね』
「そうですね、以前はそんな姿してましたっけ?」
『いや、話しやすいように作ってみた』
「白い部屋に白い人型で見えにくいですね」
『だよね』
「ところでどうされたんですか?」
『実はさ、君の発熱、あれ半分僕のせいで、今までこの世界の経験値を君に反映していなかったのを反映したら急激すぎてさ。そのせいなんだよ』
「そういうのがあるのですね」
『そうそう、だから一晩寝ればすっきりだよ。
これを教えてあげるのがまず一つ』
「はい」
『もう一つが……この間結構自分勝手なことしたからさ、反省して。
もともと僕のわがままでこの世界に連れてきたから、それなのにねぇ、いろいろと取り上げちゃったから……怒ってないかなぁって……』
「いえいえ、職業がなかったら少し不機嫌でしたが、あの職業は正直一番うれしいです」
『それは良かった。ホッとしたよ。
元の世界の君を別に蘇らせてどっちで暮らしても大丈夫にしてあげようかとかいろいろ考えてたけど』
「ちょっと待った」
『ん?』
「今凄いことをサラリと話しましたよね?」
『ん? そう?』
「今の発言だと、現実世界は親父の手伝いをする自分は別に存在させつつ、この世界で生きていくことが出来るってことですよね?」
『うん。そういうこと』
「……参考までに、ラッテをもとの世界に連れて帰るとかできます?」
『それは無理だよー元の世界の神様に怒られちゃうよ』
「……神様、俺は決めました。貴方の世界の住人にしてください!」
『ほんと? それは嬉しいなぁ!
でも、今のままだとラッテちゃんと子供作れないから、獣人と人間とでも子をなせるようにしてあげる』
「なっ!? どうしたんですか? サービス心満載過ぎません?」
『いやー、反省したのよ。ほんとは調子に乗りすぎッてめっちゃくちゃ怒られたんだけどね』
感謝して損した。
『だから、出来る限り協力する。
ついでにラッテちゃんは泣きながら喜んでいたから、君の選択次第だよ』
考えたけど、考えるまでもなかった。
俺は、この世界のことが大好きになっているんだ。
「……はい。ラッテとの家庭を築きたいです」
『うん。あと、人間も復活させるね。
君がもし寿命で死んだときに人間種が消滅してしまうからね』
「あっ……そうですね。獣人同士だとどちらかランダムっぽいですけど、人間と獣人だとどうなるんですか?」
『今すでに獣人がかなり人間よりになってるから、ランダムになるようにはするつもりなんだけど、どうも思った通りにならなくてね。まぁみんな僕の世界の大切な子供たちだから不幸になるようなことはしないよ。それと魔法は世界観壊れるからこのまま封印しとく。敵さんは使ってくるのもいるから、頑張ってね』
「そこらへんは優しくないんですね」
『少しは楽しみたいからね! それじゃぁ、先は長いけど頑張って』
「神様、そういえば最終目標は何なんですか?」
『特にないかな? 皆が楽しく僕の世界で生きてくれて、それをずーっと見ていたい。
僕の願いはそれだけだよ』
「わかりました。俺は自分と自分の家庭の幸せのために、頑張ります!」
『うん、その姿を見るのが僕は大好きなんだよ。
君に手伝ってもらって本当によかったよ。それじゃあ、よい人生を!』
気がつけば、ラッテが俺の体を拭いてくれていた。
「ラッテ……もう大丈夫、体調も回復したよ」
「先生……起こしてしまいましたかすみません……」
どことなくソワソワしているラッテ、流石ににぶい俺でも気がつく。
「ラッテ、これからはずっと一緒だ」
「!! 先生……」
「こんな時に先生もないだろ?」
「設楽さん……ふふっなんかしっくりきませんね、やっぱり私は先生が好きです」
「結婚しよう。ラッテ」
「……はい!」
俺はこの世界に骨を埋める覚悟を決めた。
今この時から、ここが俺の居場所になる。




