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第55話 みんみんだーはー

 その日は朝から会議が組まれることになっていた。

 ラッテを中心とする部隊が、国内の精査と、周囲の国の状況を大体把握できたという知らせを受けて、今後の方針を一度話し合っておこうという話なっていた。

 

 一方俺は、完全に寝不足で苦しんでいた。

 このところのベビーラッシュで夜通しの監視や場合によっては出産補助などが続いていたために、眠い目をこすりながら会議に参加する。

 ラッテは最近の俺の状態を知っているので申し訳なさそうにブラックコーヒーを入れてくれる。

 ぐっと濃い苦みでいくらか眠気も醒めたような気がする。


「周辺国の地図、それに我が国の地図が完成しましたのでこちらに張り出しておきます」


 大きな紙一面に、まるで上空から撮影したかのような詳細な地図が描かれている。


「凄いなこれ……」


「レンジャーのスキルに周囲把握というのがありまして、彼らが頑張ってくれました」


 北西は沼地の多いリザードマン軍、北部に荒野、山岳の多いミノタウロス軍、北東が草原と丘陵地帯が広がるケンタウロス軍、東が広大な草原と森が広がるオーク軍。

 西と南は侵入できない山岳地帯となっている。


「あたりまえだけど囲まれているな……」


「周りは全て敵だからな……よく考えると恐ろしいな」


 ラージンとベイオの会話で皆が自分たちの置かれている状況を再確認する。


「先生が作ってくれた壁が、どれだけ頼もしいかはっきりとわかりますね」


「ああ、まさに守護神だ」


 地図に描かれた壁は、よく頑張ったなぁと自分で褒めてあげたいほどに美しく我が国を縁取って、地図上でもしっかりとした存在感を放っている。

 常に一部の兵士が他国の監視を行っており、異常があればすぐに連絡が取れるようになっている。


 国内の土地はほぼ未開拓、いくつかの街が点在していて、その周囲が少し開拓されているだけ。

 それ以外は広大な土地が野ざらしになっている。


「まだまだ国土の開発が進んでないね……」


「そうですね、それでも昨今は人口増加も著しく、町も急速に拡大しています。

 都市間の移動が瞬時に行われるためにあまり中間に住む利点が……」


「物資の輸送は必要だし、これから先を見据えて開発したほうがいいだろう」


「自然発生する魔物は少数だが無視は出来ない、巡回するような兵を作ったほうがいい」


 議論は色々と盛り上がる。

 全員の総意として基本的には国内の拡充が優先。他国を攻めるのは最低でもその後ということだった。

 脳筋戦闘マニアばかりと思われがちのメンバーだが、実際には内政面にも様々な知恵を出してくれる。

 文武共に彼らが中心となって話し合いが進むのはそう言った理由もある。

 ベイオは実用性最優先だったり、ラージンは全体的なデザインを大事にしたり、データ至上主義のパーシェット、人道的なガイア、臨機応変なミーヤと皆が議論することでより良い結論が生まれていく。

 首都から他国へと通じる街道を整備して、その途中に都市を作っていく。

 様々な産業を各地へと広げていき、国としての生産力を上げていく。

 

「食糧や素材がダンジョンから出ている以上、あまり国家として利益などを考えなくていいのが大きいですね」


 ガイアの言う通り。

 我が国の一番の強みは、無限に沸く食糧と資材だ。

 完全にチート国家です。

 これは本当に作っておいてよかった……本当に……

 そのおかげで福利厚生面はコスト度外視で進められる。

 医療は無料だし、衣食住は最低限は国家が保証している。

 もちろん農業や畜産などもしっかりと推し進めているし、鉱山や鉄鋼業なども進めている。

 たとえダンジョンが無くなってもきちんと国家として成り立つように国づくりを進めることを重視している。

 あと、通常のダンジョンからも様々なものが産出される。

 冒険者たちの夢とロマンはダンジョンに詰まっている。

 皆の白熱した内政の議論を聞いていたはずだったが、重い瞼は目を塞ぎ、そしていつしか眠りの世界へと俺を旅立たせていた。



「先生!」


「ふあっ!?」


「おはようございます。会議は終わりましたよ」


 気がついたら眠っていたようで、自室のベッドに寝かされていた。

 どうやら昼食の時間なので起こしに来てくれたみたいだ。


「すみません、最近お産続きであまり眠れていないのに……次からは議事録をお渡しして目を通していただくようにしますね」


「ご、ごめん……」


「謝らないでください。先生は大切なお仕事をしてくださっているんですから……」


 ラッテのやさしさに泣きそうになっちゃうよ。


 ゆったりとラッテと昼食を取って一息をつく。この時間は幸せを感じる。


「ところで先生……最近子供沢山見ていてどうですか?」


「どうですかって、そうだね、やっぱりみんな成長が早いし、二世代三世代になると能力も高いね。

 ラッテも新しい子たち見てて思うでしょ?」


「……ええ、まぁ、思いますね。ほんとに若い子は優秀ですよ、優秀」


「え? なんか怒ってる?」「怒ってません」


「……ラッテさーん?」


「なんですか?」


「なんで怒ってr「怒ってませんから」


 どうやら、地雷を踏み抜いたようだ……

 こういう時は会話を思い出す……

 子供、子供の話だよ。そう、最近お産が多くて、ほぼ安産なんだけど、まれに帝王切開が必要な場合もある。帝王切開はとにかく人手が必要だ。獣人達は基本的には多産なために子供を取り出したらその子供の処置や看護をしっかりと出来るスタッフが必要だ。

 そのせいでたくさんのスタッフが昼夜を問わず忙しく働いている。


「先生……また、仕事のこと考えてますよね?」


 気がつけばラッテが肘をついて俺のことを見つめていた。

 しまった。考え込みすぎた……


「ご、ごめん……」


「ふぅ、仕方ないですよね。先生はそういう人ですから」


 ラッテは立ち上がって食器をかたしに行ってしまった。

 これは、たぶん、いや絶対にやらかした流れだ。

 どんっと背中に温かい重さをと柔らかさを感じる。ラッテが抱き着いてきた。


「だから先生のこと好きになったんですから……先生、私との子供はいらないんですか?」


 耳まで真っ赤にしながら、俺の耳も元でそうつぶやくラッテに、俺は、心を鷲掴みされてしまうのでした。萌えたし、燃えました。




 

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