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第52話 4か国の王

 すでに戦闘は開始されている。

 敵地へと攻め込んでの平野戦、個人の力量と各将の戦術、全体としての戦略がカギを握る。

 こちらは各部隊が無線で連絡を取り合い、上空からの敵陣の把握が出来るというチート付き。

 最近はドローンを導入して各隊の情報係が管理している。

 どんどん神様PCの使用を減らしている。

 いろいろと考えて、この先の獣人たちの生活に場当たり的にPCの力を貸していてはいけないのではないかと思ったからだ。

 医療分野も、動く病院もいずれは無くして、テントなどこの世界でも調達可能なものによって運用できるようにしていきたい。

 食糧ダンジョンや資材ダンジョンなど、すでに超絶チートを作っておいて何をいまさらって話なんだが……


 本陣に到着したことを伝え、後方に土地壁による防壁と救護室、という名の分院を設置する。

 コボルトたちはこの平地を決戦の場に据えたようだ。ここを突破すれば敵の首都は目前、首都と言っても巨大な防壁があって籠城に適した作りにはなっていない。

 速攻で追撃してきた俺たちを振り切っての籠城戦は不可能と考え、ここに布陣したようだった。

 敵兵は最後の賭けに負けて疲労の真っただ中、一方こちらは数の上でも優位に立って士気も高い。


「ベイオならこういう時こそ冷静に最も被害が出ない方法で戦ってくれる」


 俺の信頼を裏切ることなくベイオは奇策には出ず、堅実で確実で安全な方法で敵を攻める。

 密集隊形を取った相手にパーシェット隊による斉射を行い、行動を強いる。

 ベイオ隊の厚い盾と槍による防御陣がその良く手を塞ぐ、そして横っ腹をラージン、ガイア隊が削っていく。各隊の特徴を最大限に生かしつつ、最も被害が少なく済む。

 密集状態で行く手を阻まれ、空からの攻撃を警戒しつつ、高速攻撃部隊を迎撃する。

 そんな芸当をできる人材はコボルト隊には多くはいない。

 もちろん勇猛果敢な戦士が突出突撃を図ろうとするが、遊撃部隊となっているラッテ隊が確実に仕留めていく。

 コボルト軍は気が付けば四方をベイオ隊に包まれるような形で包囲殲滅されていくしかなくなっていた。


「見事だなぁ……」


 救護室に来る患者も、軽症兵がほとんどだ。

 コボルトが苦し紛れに放った矢が偶然鎧の隙間に当たったり、油断できない傷もあるので気を抜いたりは出来ない。

 

「粗末な矢だからこそ感染と毒がこわい。今回は毒は無いが洗浄は飲めるくらいまで、そこ、冗談で言ってるんじゃないからな、こういう処置を適当にやるとろくなことになったためしはないぞ」


 わずかな気のゆるみもちゃんと引き締めておかないと、小さなミスが起こり始めると、必ず大きなミスが起こる。ほころびは小さなうちから丁寧に取り除くのが医療現場における鉄則だ。


「先生! 骨折疑いです!」


「わかった、鎧外してレントゲン!」


 こっちの世界に来て一番症例として多く診たなぁと感じるのは骨折。

 室内で飼育して都市部で働いていたのでそこまで多いと感じなかったが、戦争ではごく当たり前の怪我として治療する。動物と違ってこちらの意見も聞いてくれるし、何より獣人は回復が早い! とっても早い! 骨折治療のメインは自然と創外固定や外固定になっていく。ちゃんと安静にしてくれればプレートでがっしりと固定しなくてもちゃんと治るのだ。

 創外固定というのは骨折端同士を整復した状態でピンを通して、外部をリングやパテなどで固定して骨折部分自体を大きくいじらないで合わせておくだけという固定方法だ。

 血行をしっかりと確保できるし、圧迫が加わらないので早期治癒も期待できる。

 損傷部位に異物を入れることによるデメリットを取らないでいい事は骨折治療にとってはメリットが大きい。

 単純骨折であれば、可能ならばこの方法を選んでいる。

 もちろんピンの挿入部分の感染などデメリットがないわけではない、いろいろな選択肢の中から最善のものを選ぶことも獣医師に求められるスキルの一つになる。


 今回のケースは脛骨の単純骨折、創外固定で整復した。

 安静にしていれば一週間くらいで仮骨といわれる仮の骨が出て来てくれる。

 獣人たちはしっかりと治療がうまく行けば3週間くらいで運動し始めるからすさまじい回復力だ。



 戦闘が終結し、俺はベイオに呼ばれコボルトの国の王座へと向かう。

 いつも通り、いつの間にかガウスが来ていて国の継承が行われる。


「これで4つの国を手に入れたことになるね」


「はい、これで我が国も小国から中規模の国家になったと言っていいですね」


「実感はわかないけど、国土的にそうなんだろうね……」


「そして、群雄割拠に時代になります」


「……どういうこと?」


「これからは魔物の国同士が積極的に争うようになります」


「……聞いてませんけども……?」


「はい、私も今、その仕様を知り得ました」


「……詐欺じゃん……」


 ガウスが世界のルールとしてわかったこととしては、小国しかない状態だと世界全体に他国への侵攻をしにくいAI的な状態になっていて、すべての国家が、いい意味でも悪い意味でも変化を起こさない状態だったと。それが、俺たちが中規模国家になったことでAIレベル的な物が変化して、各国が積極的に軍事行動を取り始め、この世界の国の構造が大きく変化していく激動の群雄割拠時代へと突入した……そうです。

 PCに抗議文を掲載しておこう……


「せっかく引きこもって内政生活をしようと思っていたのに……」


「まぁ、しばらくは我が国が頭一つ出ていますから攻め込んでくるものはいないでしょうが、わが国としてもこれ以上悪戯に国土を増やしても人口が追い付かないでしょうし、防衛範囲が広くなりすぎれば当然逆撃もこうむります。バランスよく成長させていくしかないでしょうね」


 ガウスはさらっというけども、それが長期的計画の本質であることは間違いない。

 そしてそれを実行するための労力と時間は、計り知れないものになることは、直感的に理解した。


「忙しくなりそうだ……」


「先生は国境線整備の仕事がまたできますね」


 ベイオの突っ込みに苦笑いで答えておく。

 俺以外に出来ない仕事は、俺がやるしかない!

 明日からの重労働を思うと、やっとのんびりできると思っていた自分の甘さにため息が出た……


「なんにせよ、こうして新しい土地を得たんです。お祝いしましょう」


「そうそう、早速準備しましょう!」


 ラッテとミーヤの優しさが嬉しかった。

 

 


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