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第5話 試練の予感

 第一次ベビーラッシュ。

 衣食住が安定したラッティウム村にそれが訪れるのは必然だ。

 一回の出産で4~8人くらい新生児が増えていく。

 かーちゃんは育児につきっきりとなって、男たちは張り切って働く。

 突然増える人口に食料供給や住居を供給しなければならない。

 当然、森の中の資材はあっという間に使い果たしてしまう。


「ちょっと数日資材集めの旅に出てくるよ」


 そうなってくると当然俺は資材集めに走り回ることになる。


「せ、先生一人では危険です!」


 妊娠出産にまつわるトラブルがほとんどなかったことは幸運だ。

 やはり動物のほうがそういうところは強いと言っていいだろう。

 ごく一部の不幸を除けば、子供たちは皆すくすくと成長してくれている。

 簡単な外傷や病気なら常備薬で対応可能だしラッテがその役割をこなしてくれる。

 重症例が病院へ来ればパソコンを通じて俺にもわかるからすぐに戻ればいい。

 今のところ肺炎以来は散発的に発生する事故による骨折とか、下痢とか食あたりとかすぐに致命的なことにつながる病気には遭遇していない。


「いや、俺一人のほうが都合がいい。知っての通り俺には神の奇跡がある」


 収納だけでもこういった材料採取には十二分にチートだ。

 それに、俺には移動手段も手に入れた。


 四輪バギー。


 俺の新しい相棒だ。

 高速の移動手段は絶対に必要になるから、意を決して購入した。

 いよいよ貯金残高をきちっと把握しなければならなくなった。

 しかし、神様はガソリンから近代兵器、銃弾だろうが何でも手に入る通販なんて恐ろしいものを与えてくれていた。

 いつものサイトだと思っていたら、ものすごい大量の追加コンテンツが存在して驚いた。

 その値段にも驚いたけどね。

 村の人口を増やしていくと少しづつお金も神様ポイントもたまってきている。

 ただ、本当に少しづつだ。

 神の手を使うにはやっぱり国レベルにならないと厳しいだろう。

 まずは滅んだ種族をよみがえらせないとな、魔法やら無双するのはまだまだ先だ……


「こ、こえーーーー!」


 舗装されている道路のありがたみをこれでもかというほど感じている。

 村の中も俺が整地してあるもんなー……

 草原をバギーで疾走していると凸凹を拾ってよく飛び跳ねる。

 原付と迷ったけど、バギーで正解だった。

 原付だったらすでに何度か事故ってるなこりゃ。

 時々停車してマップを確かめる。

 村のあった森より大きな森はそうそうはないが、それでも散在はしている。

 マップを把握して直線的に森へ移動して、根こそぎ回収する。

 俺が通った後にはぺんぺん草一つ残らない。


「いやー、これ最初から気が付いていれば楽だったなー……」


 何か所か回収に回って気が付いた。バギーで走行しながらも周囲を収納し続ける方法を編み出した。

 これによって走行する先がまっ平な地面になるのでまるで道路を走っているぐらい安定する。

 俺らの回収作業によって収納のルールもいくつかわかる。

 

1、生物は収納できない

2、俺が認識できていいないものは収納できない

3、一部でも認識できていれば全体を収納できる

4、他人の所有物は相手の承諾なく収納できない


 こんなところだ。

 4番は村でも実験済みだった。

 2番と合わせると、敵の攻撃を収納で防ぐというのは不可能ということになる。

 ちょっと残念。一応投げられた石とかなら収納できることもある。

 投げた石を投げた人が俺のだ! って思ってたら収納できないから危険すぎる。

 落石事故とかなら把握していれば収納できるのはありがたい。


 何度かキャンプをしながら、いくつかの森を文字通り収納して、村へと戻っている。


「予想より、早かったな……」


 問題が起きたのだ。

 我々の国と思っている草原地帯は、別に国境に何かあるわけじゃない。

 隣接している周囲の国から入ろうと思えば簡単に侵入できる。

 いや、むしろ相手からしたらこの場所は自分の国の領土と考えているかもしれない。

 村人の話でも、俺みたいに森の外に出た中で、魔物たちに襲われて命を落としたネズミも少なくないそうだ。

 狩猟感覚で、つまりレジャー的に狩に来ることがあるそうで、個人的にはできる限りその時期が遅いほうがありがたかった。


「戦いの準備を始めないとな……」


 地形を把握している技術が相手にあるかはわからない。

 しかし、俺が回収して回った後を見れば何かが起きていることは気が付かれてしまうだろう。

 隣国データによるとゴブリンを中心とした国、文明度も低いが、人数はけた違い、戦闘力も絶望的な差がある。

 いま、この国に本気を出されたら、どうしようもない。

 なんとか時間稼ぎをしなければいけない、いくつか案はある。

 すぐにでも動き出さなければいけない。

 俺は大きな不安を抱えながらバギーのアクセルを吹かすのであった。


「今帰ったぞー!」


「シタラ先生!!」


 村の門に近づくとバギーの砂煙を察知して人が集まっていた。

 ちょうどいい。


「みんな話がある。村人全員集めて集会場へ来てくれ。大事な話だ」


 俺の真剣な表情で事の重要性が伝わったようですぐに皆を呼びに行ってくれた。


 集会場に集まった村人を見回すと俺は自然とうれしくなる。

 

「増えたな……」


 集会場の中、かなりのエリアを村人が占めている。

 赤子を籠に入れて連れてきてくれている母親も多くいる。

 まだまだ皆の未来のために頑張らないといけないと強く決心する。


「残念ながら、もうしばらくするとゴブリンたちがこの地に来るようだ」


 俺の発言で会場内が大いにざわめく、魔物への恐怖、幸せだった日々が壊される恐怖、一方的に破壊される恐怖が広がっていく。


「みんな、静かに。シタラ先生の話を聞きましょう」


 ラッテはなんというかおねーさんになったな。成長早いからな。


「ありがとうラッテ。皆、この生活が奪われる恐怖におびえているようだが、このままでいいのか?」


 また少しざわつく、俺が何を言いたいのかわからないみたいだ。

 しばらくするとまたみんなが真剣な目で俺を見つめてくる。

 ほんとは、自信なんてないけど、ここで俺が頑張らないと、みんなに頑張ってもらうなんて不可能だ。


「奪われるままで、今までのまんまでいいのか!?

 周りを見て見ろ、俺たちは増えた、病気におびえ、飢えにおびえ、寒さにおびえた日々を乗り越えた。

 今回も乗り越えていくしかないだろ?」


「……俺たちに、戦えと?」


「ああ。俺だけでは無理だ。

 しかし、一緒に戦うことはできる。

 みんなの力があれば、この村を守ることができる。

 一緒にこの村を守ってくれないか?」


 わずかの沈黙、しかし、すぐに立ち上がる。


「俺は戦う! 先生にもらいっぱなしじゃ子供たちに恥ずかしくて生きていけない!

 何でもする! 何でも言ってくれ!」


「俺もだ!」「俺だって!!」


 次々と男たちが賛同してくれる。


「私たちだって手伝うよ!」「そうだそうだ、とーちゃんたちだけじゃ心配だ」


 女性たちも賛同してくれる。

 

「子供たちの未来のために、俺ら老骨を犠牲にしてでも村を守る!」


「ありがとう。皆の気持ちがとても嬉しいよ。俺も最大限頑張るから協力を頼む!」


「おお!!」


 村人たちの士気は非常に高い。 


「俺も外敵の存在は知っていたから策はある。

 でも時間的にギリギリだ。皆にもバリバリ働いてもらうからね」


 ある意味このタイミングでよかった。これが素材を集める前だったらお手上げだったかもしれないな。


明日も18時に投稿いたします。

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