第46話 経験
今までの何度かの戦闘、いや、戦争の経験から防衛設備を構築していく。
自分がいない離れた場所の防衛戦を任せるのは本当につらい。
それでも、俺の元でたくさんのことを学んでくれた衛生兵たちもついている。
怪我をした者を効率よく前線から運び出し、治療できる構造を考え抜く、妥協はしない。
日常でも少しづつ国境付近は整備していた。いつでも今回みたいな事態が起きるとも限らないことは想像はしていた。まさか本当に起きてしまうとは、しかも同時侵攻は予想外だった。
魔物同士の協力は無いと踏んでいたのに、完全な偶然のタイミングが重なるのは……
「うまく行きすぎていたからな、慢心するなという神様からの戒めだろう」
パソコンに拝んでおく。これからはより一層慎重に進めていきますどうか見守ってください。
「リザードマンだから寒さに弱そうだよなぁ、水に強いとかそういうゲーム的な要素はどれくらいあるんだろ? 魔法でもあればいいんだけど、まだまだポイント足りないしなぁ……敵も魔法を使ってきたらお互いに被害が凄くなりそうだし慎重にならないとなぁ」
今のところ剣と弓で戦っているが、ここに銃やらを持ち込んだり、それこそ魔法なんて武器を与えたらお互いの被害が増大してしまう。お互いが強力な武器を持って戦えば勝つのは数が多いほうだ。
はじめのうちはこちらが新しい武器で押していけるだろうけど、敵の数は圧倒的、それこそこの国全体のごくごく端っこの小国でしかない我々は、これくらいの戦争がちょうどいいと言ったら誤解を受けるかもしれないが、ちょうどいいのだ。
「これでこちらからは上から弓や落石で攻撃できる、その中を敵を行軍させられれば足は止まるだろう」
防壁から伸ばした足場を味方は自由に移動出来て、下を通る敵を一方的に攻撃できる。
さらに敵は深い谷に落ちないように細く足場の悪い道を通る必要ができている。
迂回するルートは難攻不落の山岳地帯に至るまで巨大な谷で封鎖してある。
大変だったが、本当にやっておいてよかった。
たとえこの国が追い込まれても今の三つの国土は堅持できるように、と、昼夜を問わず暇があれば穴掘りをしていた甲斐がありました。
巨大な城壁で国を包み込むよりも巨大な谷で国を囲うことにした。
城壁も谷を掘って手に入れた大量すぎる土の使い道としては有効なのでいずれは作っていくが、まずは谷を作る。理由は簡単だからだ。
バギーで爆走しながら収納できる範囲内の土を収納していくだけでみるみる谷が出来る。
城壁を作る場合は土を指定した形に凝縮して積んでいくので、ちょっとだけ工程がある。しかし、広大な範囲に手を入れる必要があるためにこの少しの差が存外に大きい。
谷による国防の欠点は、橋を架けるだけで突破されてしまう。
移動式の橋でも作られればそれこそあっという間に侵攻を受けてしまう。今のところそういった準備は敵国には無いが、いずれは手を加えないといけないだろう。
もっと単純なことは、空を飛ぶ敵には無意味だ。
魔物相手、この可能性は考えておかなければならない。
対空防衛に割く時間は今は無いが、いつの日かしっかりと取り組まなければならない課題となる。
「ご苦労様でした先生。今日のカルテで先生の判断いただきたいものだけ置いてあります」
家に帰ると恋人でもあり最高に優秀な秘書が待っていてくれた。
用意されたカルテに目を通して気になった点を聞くと、すでに答えを準備しているあたり、獣医師として俺よりも優秀なんじゃないかと思う。
「もう俺が君に教えられることは無いなぁ、ラッテの判断で問題が無ければ俺に確認しなくても大丈夫だよ? ただでさえ最近俺は臨床から離れ気味で少し不安なくらいだし」
「大丈夫です。先生はこれっぽっちも衰えておりません。
これからも私の先生でいてください」
なんか、いい言い回しだな、私の先生って……なんてことを考えてニヤニヤしていたらいい香りをさせながら食事が出てきた。簡単な携行食なら食べていたんだけど、暖かそうな料理が出てくるとおなかが騒ぎ出す。
「小腹がすいているんじゃないかと思って作っておきました」
「ありがとう! いただきまーす! ……うん、うまい!」
やはり温かい料理というやつはおなかを満たすだけではなく心も満たしてくれる。
俺が一生懸命食べていると嬉しそうにラッテはお茶を用意してくれたりする。
こういう時間が、とても幸せだな。最近はつくづくそう感じている。
「ラッテがいてくれて助かるよ、どうしても俺がいないことが増えるからね」
「みんな先生が必死に走ってくれていることを知っていますから、すこしでもそのお手伝いをしているだけです。先生も無理をしないでくださいね……」
「なんかこっちに来てから体はすっごい頑丈になっているから大丈夫だよ!」
「すっかり逞しくなりましたものね……」
自分でも腕回りや背中なんかは変わったなぁ~~~って思う。
まえがぽっちゃ、デブだったから余計に。
ラッテが面白がって腕やら何やらを触ってくるので、そのなんだ。元気になった。
「……ほんとにお元気なんですね……」
可愛い子である。




