第44話 二人の時間
温かい……
きっと布団の中だな。
心地よい。
なんだか頭をなでられている気がする……
もう、こんなことされる年でもないけど、優しくて、その手も温かくて心地が良い……
俺はうっすらと目を開く。そこには優しく俺を見つめながら俺の頭をなでているラッテの姿を映した。
「先生、おはようございます。大丈夫ですか? 気持ち悪かったりしないですか?」
どうやらラッテは俺を膝枕して寝かしてくれていたみたいだ。
「ご、ごめん。ラッテも大変だよね」
俺が体を起こそうとするとぐいっとラッテに抑えられてしまう。
「大丈夫ですよ、もう少し休んでください。まだみんなは騒いでいましたので寝室に運ばせてもらいました」
言われてみれば遠くで宴の音が聞こえてくる。
たくさんの人々が楽しそうに騒いでいる音は、不快ではなかった。
「皆、先生のおかげですよ。死にかけていた私たちを救ってもらって、たくさんの仲間を復活? 増やしてくださって……本当に全員先生に感謝しています」
「俺自身も、少しゲーム感覚で楽しんでいたし、それに実際に動いたのは皆だから」
「設楽先生はいつもそうですよねー。自分を誇らず一歩引いている感じ、でも実際は皆のことを何よりも大事に考えていて、自分自身が苦労することも厭わない……だから好きになったんですけどね」
面と向かって改めて言われると照れてしまう。
「あ、ありがと……」
「ふふっ……先生は可愛いなぁ~」
前髪をくしゃくしゃされる。きれいな女性にこんな風に撫でてもらうなんて経験がないので恥ずかしいやら嬉しいやら……
「ラッテの手はあったかいなぁ……」
「……先生があんなことを言うから……飲みすぎました……だからこんなことしちゃうんです……」
ラッテがのぞき込んで、唇を重ねてくる。
俺の頭にも記憶がある。普段なら恥ずかしくて言えないことも素直に言えた。今もそうだ。
「ラッテは素敵だよ」
「もう、まだあの実が残っているんですか……?」
少し恥ずかしそうに、それでもラッテは嬉しそうに微笑んでくれる。
俺はラッテに手を伸ばし引き寄せ、もう少し大人のキスをする……
翌朝、窓から差し込む朝日で起こされる。
隣で眠るラッテを起こさないようにベッドから出ようとするが、まぁ、ラッテに気が付かれないようにというのは至難の業だ。俺も忍びの技でも習うかな……
「おはようラッテ」
「おはようございます……設楽……さん……」
「あ、ああ……おはよう」
軽くおでこにキスをしてベッドを抜け出す。
顔を洗い、湯を沸かしお茶を入れる。
「ラッテも飲む?」
「あ、はい……飲みます……」
ラッテはベッドの中でタオルケットに包まってぼーっとしている。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます。 あつっ!」
「だ、大丈夫?」
「は、はい……なんか、設楽さん……普通過ぎてズルいです……」
「い、いや、ちょっと気恥ずかしいよ……そりゃ……」
たぶん、あの実のせいなんだけど、初めてのラッテ相手に、それはもう張り切りすぎてしまったあたりも恥ずかしい……いや、仕方ないじゃないか、そういうことは俺自身も初めてだったし、昔と違って身体は思い通りに動いてくれるし、そのラッテは凄く素敵な女性だし、まるでグラビアから出てきたようなスタイルに献身的な……やめよう……元気になってしまう。
「ちょっとこっちにきてぎゅーってしてくれないと許さないです」
両手を広げて甘えてくるラッテ、か、可愛すぎるだろ、もちろんすぐに抱きしめる。
「もう、次は少し優しくしてくださいね……結構痛いんですから」
耳元でささやかれてしまい脳がしびれそうになる。が。
「大丈夫? 痛い? 具体的にはどこらへぶべぇっ!」
「もう、先生最低!」
ひっぱたかれてしまった。職業病怖い。
「おや、先生、もしかして昨日は大失敗だったんですかい?」
俺が頬を真っ赤にして歩いているとラージンにからかわれてしまった。
「いや、やらかしたのはさっきだよ」
「おお、なら俺の策もうまく行ったんですねそれは吉報」
「しかし、ラージンの未来には暗雲が立ち込めているな、昨夜はめちゃくちゃ怒ってたぞ」
「なぁに。もうねーさんは1ミリも怒っていませんよ。むしろ感謝してくれているかもしれませんよ」
「そうね~~~~、それじゃぁ今から感謝をたっぷり知ってもらおうかしらねぇ~訓練場で」
「ね、ねーさん……気配を消して潜むのは反則ですぜ」
「あーら、ごめんなさいねラージン。さぁ、行きましょうか」
首根っこを掴まれてラージンが訓練場へと引きずられていく、今度会えたら酒ぐらい奢ってやるからな、達者でな……
町は昨日の大騒ぎのダメージで辛そうな人も多かったが、陽気な雰囲気に包まれていた。
俺自身の気持ちも爽快だったことも関係しているかもしれないが、とてもいい空気で満たされている。
「もっと、いい国にしないとなぁ……」
なんとなく、使命感みたいなものが強くなった。
獣人たちのためにというのもそうだが、そ、その、なんだ、愛する人のために? ってやつがね……
なんかそんなことを考えていたら昨日の記憶と混ざり合ってもやもやしてしまい一人でくねくねと不思議な踊りを踊っていた。
「なに先生一人で悶えてるのですか?」
こんな恥ずかしい場面をベイオに見られるとは思わなかった。
一生の不覚……




